9 / 56
第一章 おーい西詰、野球しようぜ!
第2話-6 人生はやりたいことやるのが一番
しおりを挟む
試合はその後も続いたが、赤チームも白チームも追加点を取ることなく全イニングを終えて、試合はおしまいとなった。そして勝敗は、赤三点の白六点で白チームの勝ちという結果になった。
ベンチに座って疲れた体をやすめている西詰は、目の前の球場を眺めながら色々なことを思い返している。そんな彼の横の席に山阪がやってきて座る。
「おう、お疲れさん。ちょっと座るぜ」
「はい」
山阪は麦茶入りのペットボトルから中身を飲みつつ話し出す。
「どうだ、やってみての感想は?」
「やっぱ大変でしたよ。ランナー出しちゃった時はすっごい焦りましたし……」
「六回のあれか。確かに大変だったよな。でも失点しなかったんだし、それでいいじゃねぇか。とにかくお前はよくやったよ、急な話だったのに付き合ってくれてありがとな」
「こちらこそ、いろいろお世話になって、ありがとうございます」
「それでよ、本題に入るが……。どうする、草野球? まだ続けてみるか?」
西詰を見ている山阪の顔は平静で穏やかだ。決して威圧的ではなく、何かを無理強いするような雰囲気は一つもない。西詰はそれに安心を感じつつ返事をする。
「正直、まだ決心がつかない部分があるんですよ。大学の勉強って大変で、俺は英文学科なんですけど、とにかく宿題が多くって。それに、読みたい本とかもたくさんあるんです。そういうこと考えたら、ちょっと野球は無理かもしれない。試合の前はそう思ってました」
「おう」
「でもやってみて気づきました。野球ってやっぱり楽しくて、俺には才能とかないのかもしれないけど、だからって諦めたりする必要ないんだって。人生はやりたいことやるのが一番、そして俺は野球がしたい。ならやってみよう、ファルコンズで頑張ろうって、今はそういう気持ちです」
「じゃ、それで決まりか?」
「はい。俺を正式にファルコンズに入れてください。お願いします」
「いい返事じゃねぇか! 歓迎するぜ!」
山阪は右手を差し出す。西詰も右手を差し出し、握手する。そんなところに矢井場がやってきて声をかける。
「どうしたお前ら、相談か?」
西詰が答える。
「相談っていうか、今後もファルコンズで頑張りたいって話をしてました」
「じゃあお前、ちゃんとメンバーになるんだな?」
「はい」
「いいねぇいいねぇ! ありがとうよ」
「はい!」
「いやぁー嬉しいねぇ、この調子でメンバー増えるといいんだけど」
「でもあんまり増えると大変じゃないですか? スタメンに入れなくて試合に出れない人が発生しますよ」
「まぁそうなんだけどよ、でも仲間が増えると嬉しいじゃねぇか。それに、うちはとにかくピッチャーがいねぇんだ。だから投げられそうなのは一人でも増やしてかねぇと……。なぁ、山阪?」
「みんな投げるよりも打つ方が好きですからねぇ、バッターばっかり増えるのは仕方ないですよ。それに、たまにピッチャー希望者が来ても、仕事だの勉強だの、なかなか参加できなかったり……」
西詰は矢井場に質問する。
「ファルコンズってどれくらい人がいるんですか?」
「だいたい二十人ぐらいか? でも出席率高いのはまぁ十人くらいだな、忙しい奴ばっかでよ」
「あの、俺みたいに若い人ってのはいないんですか?」
「何人かはいるな。そうそう、今年の頭に二人入ったんだ。どっちも女の子なんだけど、一人がすげぇ奴でよ。ショートなんだけど、守備はうまいし打撃も凄い、足だって早くてさ。今じゃうちの三番だよ」
「へぇ……」
「やっぱ外人さんの血が入ってると凄いのかねぇ……」
「その人ってハーフなんですか?」
「親父さんがアメリカ人で、お袋さんは日本人だが、とにかく美人な子でねぇ……」
山阪が発言する。
「まぁまぁ、監督、今日はこれくらいにしましょうよ。だいぶ時間もなくなってきたし、とりあえず片付けしねぇと……」
「もうそんな時間か? そうだな、続きはじゃあメシでも食いながら話すか」
「おごりですか?」
「んなわけねぇだろう(苦笑)。とにかくグラウンド行くぞ、ついてこい!」
三人はグラウンドへ向かって歩き出す。五月の風が優しく吹き抜け、彼らを心地よい気分にしながらどこかへ去っていく。
こうして、西詰歩は遠山ファルコンズの選手として活動し始めたのだった。
ベンチに座って疲れた体をやすめている西詰は、目の前の球場を眺めながら色々なことを思い返している。そんな彼の横の席に山阪がやってきて座る。
「おう、お疲れさん。ちょっと座るぜ」
「はい」
山阪は麦茶入りのペットボトルから中身を飲みつつ話し出す。
「どうだ、やってみての感想は?」
「やっぱ大変でしたよ。ランナー出しちゃった時はすっごい焦りましたし……」
「六回のあれか。確かに大変だったよな。でも失点しなかったんだし、それでいいじゃねぇか。とにかくお前はよくやったよ、急な話だったのに付き合ってくれてありがとな」
「こちらこそ、いろいろお世話になって、ありがとうございます」
「それでよ、本題に入るが……。どうする、草野球? まだ続けてみるか?」
西詰を見ている山阪の顔は平静で穏やかだ。決して威圧的ではなく、何かを無理強いするような雰囲気は一つもない。西詰はそれに安心を感じつつ返事をする。
「正直、まだ決心がつかない部分があるんですよ。大学の勉強って大変で、俺は英文学科なんですけど、とにかく宿題が多くって。それに、読みたい本とかもたくさんあるんです。そういうこと考えたら、ちょっと野球は無理かもしれない。試合の前はそう思ってました」
「おう」
「でもやってみて気づきました。野球ってやっぱり楽しくて、俺には才能とかないのかもしれないけど、だからって諦めたりする必要ないんだって。人生はやりたいことやるのが一番、そして俺は野球がしたい。ならやってみよう、ファルコンズで頑張ろうって、今はそういう気持ちです」
「じゃ、それで決まりか?」
「はい。俺を正式にファルコンズに入れてください。お願いします」
「いい返事じゃねぇか! 歓迎するぜ!」
山阪は右手を差し出す。西詰も右手を差し出し、握手する。そんなところに矢井場がやってきて声をかける。
「どうしたお前ら、相談か?」
西詰が答える。
「相談っていうか、今後もファルコンズで頑張りたいって話をしてました」
「じゃあお前、ちゃんとメンバーになるんだな?」
「はい」
「いいねぇいいねぇ! ありがとうよ」
「はい!」
「いやぁー嬉しいねぇ、この調子でメンバー増えるといいんだけど」
「でもあんまり増えると大変じゃないですか? スタメンに入れなくて試合に出れない人が発生しますよ」
「まぁそうなんだけどよ、でも仲間が増えると嬉しいじゃねぇか。それに、うちはとにかくピッチャーがいねぇんだ。だから投げられそうなのは一人でも増やしてかねぇと……。なぁ、山阪?」
「みんな投げるよりも打つ方が好きですからねぇ、バッターばっかり増えるのは仕方ないですよ。それに、たまにピッチャー希望者が来ても、仕事だの勉強だの、なかなか参加できなかったり……」
西詰は矢井場に質問する。
「ファルコンズってどれくらい人がいるんですか?」
「だいたい二十人ぐらいか? でも出席率高いのはまぁ十人くらいだな、忙しい奴ばっかでよ」
「あの、俺みたいに若い人ってのはいないんですか?」
「何人かはいるな。そうそう、今年の頭に二人入ったんだ。どっちも女の子なんだけど、一人がすげぇ奴でよ。ショートなんだけど、守備はうまいし打撃も凄い、足だって早くてさ。今じゃうちの三番だよ」
「へぇ……」
「やっぱ外人さんの血が入ってると凄いのかねぇ……」
「その人ってハーフなんですか?」
「親父さんがアメリカ人で、お袋さんは日本人だが、とにかく美人な子でねぇ……」
山阪が発言する。
「まぁまぁ、監督、今日はこれくらいにしましょうよ。だいぶ時間もなくなってきたし、とりあえず片付けしねぇと……」
「もうそんな時間か? そうだな、続きはじゃあメシでも食いながら話すか」
「おごりですか?」
「んなわけねぇだろう(苦笑)。とにかくグラウンド行くぞ、ついてこい!」
三人はグラウンドへ向かって歩き出す。五月の風が優しく吹き抜け、彼らを心地よい気分にしながらどこかへ去っていく。
こうして、西詰歩は遠山ファルコンズの選手として活動し始めたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる