上 下
21 / 55
第1部 すべては経験

第11話-3 仲間の助け/Persona non grata

しおりを挟む
 リザードを仕留めるまで、あと一歩。止めを放つべく、全員が身構える。リザードの本能が間近に迫った死を予感する。「死」。その恐怖を強く感じた瞬間、リザードは行動に出る。

「グオォーーーッ! グォォォォォッ! グォォォォォォォォォォォッ!」

 すさまじい雄たけびがあたりにとどろく。リザードはなおも叫ぶ。

「グォーッ! グォッ、グォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 リッチーが思わず恐怖する。

「このっ、驚かせやがって……!」

 リザードに負けじとカールが叫ぶ。

「様子が変だ、みんな、今すぐ決着をつけよう!」

 彼は左手にアイス・ダガーを生み出す。ほぼ同時に、レーヴもアイス・ダガーを撃つ態勢に入る。彼女のそばにいるキャンディスが言う。

「私がショック(shock,  衝撃を与えて目まいや怯みを引き起こす)の魔法を撃って、リザードの動きを止めます。だから、その隙に……」
「うん、わかった!」

 キャンディスの右手に魔法力が集中し、光球を作り出す。彼女は普段よりも多くの魔法力をそれに注ぎこむ、光球の輝きが増していく。

「当ててみせます!」

 野球のボールを投げる時のように、彼女は光球を投げる。光球は疾風のように空中を走り、リザードに命中する。「グォッ……!」、激しい衝撃がリザードを襲い、脳震とうを発生させて、雄たけびを続けることを妨害する。チャンス到来、キャンディスは大きく叫ぶ。

「みなさん、今です!」

 その声を合図に全員が行動を起こす。レーヴとカールはアイス・ダガーを放ち、それに続いてリッチーが矢を撃つ。放たれた物はすべてリザードに命中して、大きなダメージを与える。直後、剣を手にギンが突っこむ。

「うおおぉぉぉぉぉっ!」

 剣を振り上げ、突進の勢いに任せて肉薄、全力で剣を振り下ろす。その一撃はリザードのウロコを破壊し、皮膚を斬り裂く。作られた大きな傷口、そこから大量の血が吹き出し、リザードの体力は急速に失われる。

「グォーーーーーーーーーーーッ!」

 断末魔の悲鳴を上げたのち、リザードは地面に倒れる。樽入りのビールよりも多くの血が床に流れ出す。しばらくの間、その体はビクビクと動いていた。が、やがてそれも収まって、ピクリとも動かなくなった。間違いなくリザードは死んだのだ。カールがつぶやく。

「ふぅ……。やれやれ、終わりだな」

 彼は左手で額の汗をぬぐう。疲労した体は重く感じられる、だが、敵を征服した満足感によって、心は軽くなる。彼はギンへ向かって歩こうとする。その時。

「グォォォォーーーッ!」

 部屋の奥、通路へ続く穴、ちょうどカールの背後になっている場所。そこから何者かが姿を現し、カール目がけて突進してきた。「なんだっ!?」、カールは驚いて振り向く。直後、彼はその何者かの蹴りを受けて吹き飛ぶ。

「グォォォォォッーーー!」

 それは、高さ3メートルはあるだろうか、特大サイズのポイズン・リザードだった。キャンディスが震える声で言う。

「まさか、あの雄たけびで仲間を呼んだ!?」

 彼女の視界の隅に、倒れているカールの姿が映る。あわてて彼女は魔法を撃つ。

「カールさん、しっかり!」

 ヒーリングの光球が飛び、カールをいやす。カールの体から少しの痛みが消える、彼は体を起こそうとする。瞬間、発生する激痛。「ぐっ……!」。その様子を見ているレーヴが言う。

「やばいよキャンディス、ありゃ重傷だ!」
「そんな……!」
「ただのヒーリングじゃだめだよ、もっと強い回復魔法じゃないと!」
「でも!」

 二人が騒いでいるところへ、リッチーが走ってやって来る。

「おい、二人とも!」

 レーヴが返す。

「リッチー!」
「こいつぁーヤクいぜ、どうする!?」
「どうするって、このままじゃ脱出できないよ!」
「当たり前だろ、カールさんほったらかして俺たちだけ帰れるか!」
「でも、あんなデカブツ、あたしたちじゃ勝てないよー!」

 レーヴはリザードを指さす。ポイズン・リザードは普段のギンたちでも苦戦する相手、それなのに、新たにやってきたリザードは特大サイズときている。その上、今のギンたちは疲労していて、頼みのカールもほぼ戦闘不能になっている。リッチーの背筋に冷や汗が流れる。

「……それでも、やるしかねぇ」
「まさか、戦うの?」
「あいつを殺る以外の名案があんのかよ!?」
「勝てないよ!」
「うるせぇ! 勝つか負けるか、やってみなけりゃ分からねぇ!」

 そう言ったリッチーの声は震えている。リザードのうなり声、「グォォォ……!」。リザードの視線は、前方にいるギンをとらえている。その様子にリッチーたちも気づく。

「もう戦いは始まってるんだ、どのみちやるしかねぇんだよ!」

 彼はクロス・ボウを握りしめる。彼のおんぼろなクロス・ボウは、リザードに対して力不足。それは、先ほどの戦いで大したダメージを与えられなかったことによって、証明されている。
 勝ち目は薄い。だが、もはや逃げ場はない。リザードを殺すか、リザードに殺されるか、結末はどちらか一つだけ。文字通り「必死」にならなければ生還できない。



 勝利への道はどこにある?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界に転生した織田信長

ユウ
ファンタジー
あの織田信長が本能寺で死んであの世に行けると思ったら異世界のある貴族将軍家の赤ん坊になっていた、大人になり将軍職になり王国を率いる話です

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

処理中です...