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第4章 心に炎は燃えているか

残り1か月

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最後の期末試験まで、ついに残り1か月となった。

ある日の放課後、体育館の空き教室。
そこには、虎太郎、ジム、スライ、リンの4人がいる。
彼らの前にはホワイト・ボードがあって、いろいろな書き込みがされている。
トレーニング・ウェア姿のリンが、黒のマジック・ペンを片手に話をしている。

「いい、これからは今まで以上に気合入れていくからね。
 基礎練習はとりあえず終了。もちろん今後もやるけど、量は減らす。
 そのかわり、実際の戦いでどう動くか、そのへんを鍛えていくから」

ジムが発言する。

「リン、何かアイデアはあるのか?」
「当然! クレイグの動きの隙、弱点、そこを狙う特訓をする」
「しかし、そんなことがわかるのか?」
「わかるに決まってんでしょ。だって、あたしはあいつに勝ったのよ?
 それに、あいつの戦いを記録した映像も見た。
 大丈夫、攻略の糸口は見つけてある」
「ふむ……」

今度はスライが発言する。

「で、具体的には何をやるんだよ?」
「ちょっと待って。まず、あいつの戦い方について説明するから」

リンはホワイト・ボードにいろいろな図や線、矢印を書いていく。
彼女は話を続ける。

「あいつの基本は、中距離から遠距離での戦い。
 相手からの距離を一定に保ちながら、射撃やミサイルでちくちく攻める。
 そのまま時間切れになれば、ボクシングでいう判定勝ちになる。
 それを嫌がった相手が飛びこんできた場合は迎撃、一気に畳みかけて決着」
「こすっからいな、おい」
「そういう言い方もできるし、クレバー(clever)……賢いやり方とも言える」
「クレバーって言葉には、ズル賢いって意味もあるだろ」
「その通り。あいつはね、基本的にズル賢いのよ。
 危険なことやリスクから逃げて、リターンだけを手に入れる。
 いつだってそう、あたしと戦った時もそうだった」

虎太郎が質問する。

「リンはどうやってあいつに勝ったんだ?」
「どうって、あの試合、あんたも見てたでしょ?」
「いやそれが、見てないんだ。
 あの日、自分の試合が終わった後、体の調子が悪くなってさ。
 ずっと医務室で寝てたんだ。だから、見てない」
「はぁ……(ため息)。じゃ、説明してあげるけど。
 試合が始まった直後、あたしは一気に突撃した。
 クレイグは逃げ始めたけど、とにかく追いかけた。
 どんどんミサイルを発射、自由に動けないように邪魔して、
 無理やり近距離の戦いにもちこんでやった」
「それで?」
「そこからは簡単よ。
 ロケット弾やマシンガンで攻めまくり、ありったけの弾丸をぶちこんでKO。
 あいつ、こういう展開に弱いのよ。
 懐に飛びこまれて主導権を握られると、まるで駄目」
「じゃあ、攻略の鍵はそこか?」
「その通り。だけど、生半可なやり方じゃ、逆にあいつの攻撃の餌食えじきになるだけ。
 そうならないように、うまく接近する方法を学ばなくちゃ」
「どうやって?」
「シミュレーターを使って、人間が動かすヘリエンを相手に特訓する。
 ちょっと、スライ」

スライが返事する。

「なんだよ」
「あんたのヘリエンの操縦レベル、映像記録で見たんだけどさ。
 動き回るだけなら、あんたかなり得意でしょ」
「まぁ、動き回るならな」
「今回はそれで十分、攻撃する必要はないから安心して。
 いい、あんたはトラタローからひたすら逃げ回る。
 逆に、トラタローはどんどん追いかける」
「鬼ごっこってわけか?」
「いや、少し違う。あんたは武器を持たないけど、トラタローは持つ。
 そして、トラタローはあんたを狙ってガンガン撃つ。
 あんたはそういう状況の中、逃げ続けなくちゃいけない」
「なんか俺だけ不公平じゃねぇか?」
「練習なんだから、それは当然でしょ。
 相手との距離が離れている時も、ある程度は射撃で戦う。
 攻撃してプレッシャーをかけ、相手を焦らせる。
 これはそういった技術を学ぶ訓練よ。次、ジムなんだけど」

ジムの返答。

「俺の仕事は?」
「あんたは銃やミサイルを使って、ひたすらトラタローを攻める。
 トラタローはそれを避けたり防御したり、うまく立ち回って相手に近づく。
 この訓練の時は、トラタローが武器なしの状態よ。
 武器がない分、機体の重量が軽くなり、動きやすくなる。
 その状態でいろいろ試してみて、接近する技術を学ぶ。まずはここまで」
「OK、了解だ」
「トラタロー、質問はある?」

トラタローは「いや、特にないよ」と返す。
リンが話を続ける。

「あんたたちの動きはあたしが見守る、なにかあったら指示を出すから。
 まずはここまで、じゃあ、頑張ろう!」



最後の追い込みが、ついに始まる。
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