未来に向かって突き進め!

夏野かろ

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第2章 1人だけでは戦えない

お手並み拝見

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今日は土曜、授業や訓練は午前で終わり。
午後は自由時間、いわゆる「半ドン」という奴である。
そしてここは、自主訓練用のシミュレーター・ルーム。
室内には、虎太郎とリンの2人のみがいる。

話を切り出したのはリンだった。

「で、あんた一体どうしたの?
 いきなりメール寄越して呼び出して、取り引きOKって……」
「気が変わったんだよ。やるぜ、やってやる。
 家来でも何でもいい、どんなことでも頑張るから、とにかく俺を鍛えてくれ」
「ふ~ん……。何があったんだか知らないけど……」

リンは虎太郎の顔を素早く観察する。少なくとも、異常な雰囲気はしない。
むしろ彼から感じるのは、覚悟を決めた者に特有の目つき、熱意。
ふと、彼女の心の中に、ある人物の映像が思い浮かぶ。
彼女は思わず口走る。

「リョウ……」
「えっ?」
「……うぅん、なんでもない。ちょっと、ね……」
「気分でも悪いのか?」
「ふん、それって冗談? あたしはね、体が丈夫なの!
 あんたなんかとは根本的に違うんだから!」
「なんだよ、偉そうに!」
「うっさい、いいからさっさとシミュレーターに行く!
 とっとと準備して、あたしもやるから!」

虎太郎は手近なシミュレーターの座席に座る。
これは自主訓練用ゆえに、被弾時の衝撃を伝える機能などがついていない。
とはいえ、ある程度は実機に近づけてあるのも事実。
虎太郎は手早く簡易ヘルメットを装着、足をペダルに乗せ、操縦桿を握る。
それと並行して、ほぼ同時にリンもシミュレーターに着席、準備を整える。
音声通信機能をオン、虎太郎に話しかける。

「どう、聞こえてる?」
「オール・ライト、大丈夫だ。聞こえてる」
「了解。スイッチ、入れるからね」

シミュレーターが疑似現実を発生させる。
2人が乗るそれぞれのヘリエンが、疑似現実の中に出現する。
どちらのヘリエンも、お互いにかなりの距離がある。
リンは通信を続ける。

「とりあえず、今日はあんたの能力を見るから。
 あたしの指示に従って、いろいろやってみて」
「最初の指示は?」
「まず、武装を標準型、両手に銃の奴に設定する。
 その後、あたしに向かってスラローム機動」
「そっちはどうする?」
「あんたの動きをじっくり観察するつもり。ほら、分かったら、やる!」
「せっつくなよ!」
「うっさい!」

虎太郎は操縦を始める。左へ右へ、ヘビがうねるようにスラロームで動いていく。
リンからの通信。

「もっと左右に大きく動けないの?」
「もっとか?」
「そう!」

先ほどよりも大きく、左へ右へと動く。だが、バランスがやや不安定。
ヘリエンの上体が揺れている。
リンから再度の通信。

「そのまま、前進するスピードを上げて」
「えっ、このままでか?」
「とにかく、いろいろやってみないと。ほら!」

虎太郎はフット・ペダルを踏みこむ。エンジンが動く、機体が速度を上げる。
途端、スラローム機動がメチャクチャになる。
バランスを保つので精一杯、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
虎太郎、思わず舌打ちしながら叫ぶ。

「クソッ、おい、もういいだろ!」
「ダメ! その状態から、あたしに向かって照準を定めて!」

虎太郎のヘリエンの手が動く、銃が……ブレる! 照準が動き回る!
彼は軽く悲鳴を上げる。

「無理だ、これじゃとても!」
「攻撃して!」
「えぇっ!?」
「こっちはディフレクターを張る、だから安心して!
 分かったら撃ちなさい!」
「ちくしょう! どうなっても知らねぇぞ!」

まったく照準が合わない中、彼は攻撃する。
ズババッ、いくつかの弾が飛ぶ。そして、まるで見当違いのところへ飛び去る。
虎太郎は怒鳴る。

「おい、もういいか!? やべえんだ、おい!」
「わかった、停止して!」

虎太郎は機体を止める。顔色が少し悪い。
リンは厳しい顔をしながら、自分のヘリエンを動かす。
虎太郎の機体からの位置や距離を調整しながら話しかける。

「どうしたの、限界?」
「……いや、少し休めば大丈夫だ。いける」
「そう、なら、いいけど。とりあえず、今のでスラロームはわかった。
 次、円を描きながらの運動を見るから」
「……その次は?」
「安定した状態からの射撃、そのレベル」
「それで?」
「まだまだ、やることは山積みよ。
 剣の使い方、ミサイルの撃ち方、ディフレクター展開のタイミング。
 土曜の午後は短いのよ、ボサッとしてたらすぐ終わっちゃう。
 休んだら、ガンガン行くからね!」
「あいよ……」

虎太郎は大きく深呼吸する。気分を落ち着け、操縦桿を握り直す。



結局、この最初の特訓は夕方近くまで続いた。
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