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第三章 冷酷非情の世界に生きる
第22話-2 嫌な毎日と良い出来事
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爆弾テロ以降、街は凶悪事件がポンポン起きるイカれた場所になった。今日も今日とて朝から事件だ。市民からの緊急通報が本部に舞いこみ、第二部隊の全員が現場に急行することになる。
ちょっとしたお屋敷、その庭に置かれている高級車。俺たちの目の前にあるそれは、爆発による衝撃であちこちが壊れている。俺は心底うんざりしながらぼやく。
「また爆弾テロか……。衛生局の局長を狙うとは、ちょっと過激だな」
エイミーが答える。
「今回、人は死ななかった。いいこと」
「そんなん運が良かっただけ、局長が寝坊したおかげだ。時間通りに起きて車に乗ってたら死んでたぜ」
「うん。それは偶然のこと。でもいい結果。この前は最悪だった」
「あの事件じゃ、医療局の人がたくさん死んじまったからな……」
隊長が俺に質問してくる。
「なぁクロベー、お前、犯人の心当たりはないのか?」
「あるわけないでしょう。そういうのを調べるのは俺の仕事じゃないんですし」
「でも何か推理とかしてるんだろう?」
「そりゃあまぁ……」
「街の連中は、テロはすべてケニスの工作員の仕業だって噂してるけどね。あんたもそう思ってる?」
「いえ、全然」
「なら思ってるんだい?」
「じゃあ、ここだけの話ってことで言いますけど……」
俺は、あたりに俺たち以外の人間がいないことを目で確認してから話し出す。
「うちとケニスの対立で得をするのはノーリア。そして、この街のどこかには、難民と共にノーリアのスパイが来ている可能性が高い……」
「ふむ」
「はっきり断定できるわけじゃありませんが、やはりあいつらが怪しいですよ」
ダーカーが突っ込みを入れてくる。
「だが証拠がない。それより、ケニスの仕業と考えたほうが納得いく」
「それを否定する気はねーよ。だが、よく考えてみろ。すべての事件はノーリアがやったと仮定すれば、話がスッキリするだろ。平和条約の場でお偉いさん達を皆殺しにして、うちとケニス、両方を混乱の渦に引きずり込む。その次にテロを実行、街を恐怖の色に染め上げる。後は噂を流せばいい、戦争のうらみで相手の街がやったんだ、ってな。そうなりゃもう一度の戦争まで一直線、そこから先は言うまでもない」
「うちとケニスでつぶし合いする、どちらも弱る。そこにノーリアが攻めてくる、楽に攻略する」
「ご名答」
どうも敵に振り回されている感じがしてよくない。だが、組織の下っ端に過ぎない俺じゃ、この状況をどうにもできない。かといって、このまま悪化していくのを見てるだけってのはムカつく。
クソッタレ……。俺はどうすればいいんだ?
そうやって悩んでいる間にも時は進んでいく。ある日の夕方、宿舎内にあるカフェ。俺はそこに一人で入っていき、カウンターの席に座る。
とりあえずコーラでも飲もうと思い、カウンターの中にいる、後ろ向きの女性に声をかける。カフェの制服を着ているその人は振り向く、俺は彼女の顔を見て少し驚く。
「あれ、ケイトさん?」
「あっ、こんにちは、クロベーさん」
「ケイトさん、何でここに? 食堂のほうはどうしたんです」
「それが、カフェの子が病気になっちゃって。人手が足りないから、今日はこっちの手伝いです」
「へぇ、なるほど……」
「ところでご注文は?」
「紅茶を一杯、あと、普通のクッキーを一皿」
「了解です♪」
彼女は厨房の方に行き、それの中にいるスタッフに注文の内容を伝える。その後、俺の前に戻ってきて言う。
「水、お持ちしましょうか?」
「いや、遠慮します」
「でも最初の一杯はタダですよ?」
「これから注文の紅茶が来ますよ。飲み物はそれで大丈夫です」
「なるほど、分かりました」
俺は店内の様子を確認する。客は少なく、雰囲気は静かだ。どこかからジャズらしき曲が流れている。なんだろうな、これは? メロディに聞き覚えがあるが……。
「ケイトさん、この曲ってなんでしたっけ?」
「ビートルズの何かだと思うんですが、えっと……」
彼女は少し考え、答えにたどりつき、それを俺に伝えてくる。
「たぶん All My Loving ですよ。それのジャズ・アレンジ」
「あぁ、言われてみれば……」
ビートルズなんて古臭い、お前はそう思うの? まぁそうかもね。今の時代のロックと比べりゃ、ちょっと素朴過ぎる演奏だしな。でも、いいものはやっぱりいいと思うんだよ。きれいなメロディーとかさ。
「ケイトさん、ビートルズ好きなんですか?」
「そこまで好きってわけじゃないけど、でも、たまに聞くかな」
「ずばり、お気に入りの曲は?」
「そうですねぇ……うーん、いろいろあって迷うなぁ……」
「俺は Strawberry Fields Forever とか好きですよ。他には、I'm Only Sleeping とか」
「あー、あれいいですよねー! 私あれ好きですよ」
店内の曲が変わる。今度はジョン・レノンの Jealous Guy だ。もちろんジャズ・アレンジされているが、しかし、このメロディーは間違いなく Jealous Guy だ。
その時、厨房からケイトさんを呼ぶ声が聞こえた。彼女は「はい!」と言ってそちらへ行き、紅茶のカップとクッキーの皿と一緒に戻ってきて、それらを俺の前に置く。
「お待たせしました、紅茶とクッキーです」
「どーも、ありがとうございます。それじゃさっそく……」
俺はクッキーを一枚つまみ、食べてみる。
「うん……おいしい」
「そうでしょう? 私、前に食べたことあるんですが、すっごくよかったです」
「えぇ、本当……。いいな、これ」
もぐもぐとクッキーを食べる俺。そんな俺を見ながら、ケイトさんは喋り始める。
「ねぇ、クロベーさん。ずっと前、エイミーちゃんと一緒に街を歩いたことがあったでしょう」
「あぁ……なんか、エイミーが街を案内して欲しいとか言い出して……」
「そうそう、それです。あの時、お菓子屋さんでクッキーを試食したの、覚えてます?」
「昨日のことみたいによく覚えてますよ」
「実はですね、この間、あそこの割引チケットもらったんです」
「クッキー割引の?」
「いえ、そっちじゃなくて。あそこの二階、喫茶店みたいになってるでしょう。それの割引です」
「えぇ」
「これ、二枚あるんですよ。それでですね、今度のお休みでいいんですけど、私と一緒に行きませんか?」
彼女は少し恥ずかしそうにしながら俺を見ている。俺は苦笑いしながら返事をする。
「いきなり誘いにきますねぇ……」
「ねぇ、行きましょうよ」
「いいですよ、OK、OK、OKです」
「本当?」
「俺は三日後に休みですが、ケイトさんは?」
「午後からなら大丈夫ですよ」
「じゃあ決まりですね。よろしくお願いします」
そう言って、彼女は照れくさそうに笑った。実にいい笑顔だと俺は思った。
デートのお誘いか。嫌なことだらけの毎日だが、たまには良いこともあるもんだ。
ちょっとしたお屋敷、その庭に置かれている高級車。俺たちの目の前にあるそれは、爆発による衝撃であちこちが壊れている。俺は心底うんざりしながらぼやく。
「また爆弾テロか……。衛生局の局長を狙うとは、ちょっと過激だな」
エイミーが答える。
「今回、人は死ななかった。いいこと」
「そんなん運が良かっただけ、局長が寝坊したおかげだ。時間通りに起きて車に乗ってたら死んでたぜ」
「うん。それは偶然のこと。でもいい結果。この前は最悪だった」
「あの事件じゃ、医療局の人がたくさん死んじまったからな……」
隊長が俺に質問してくる。
「なぁクロベー、お前、犯人の心当たりはないのか?」
「あるわけないでしょう。そういうのを調べるのは俺の仕事じゃないんですし」
「でも何か推理とかしてるんだろう?」
「そりゃあまぁ……」
「街の連中は、テロはすべてケニスの工作員の仕業だって噂してるけどね。あんたもそう思ってる?」
「いえ、全然」
「なら思ってるんだい?」
「じゃあ、ここだけの話ってことで言いますけど……」
俺は、あたりに俺たち以外の人間がいないことを目で確認してから話し出す。
「うちとケニスの対立で得をするのはノーリア。そして、この街のどこかには、難民と共にノーリアのスパイが来ている可能性が高い……」
「ふむ」
「はっきり断定できるわけじゃありませんが、やはりあいつらが怪しいですよ」
ダーカーが突っ込みを入れてくる。
「だが証拠がない。それより、ケニスの仕業と考えたほうが納得いく」
「それを否定する気はねーよ。だが、よく考えてみろ。すべての事件はノーリアがやったと仮定すれば、話がスッキリするだろ。平和条約の場でお偉いさん達を皆殺しにして、うちとケニス、両方を混乱の渦に引きずり込む。その次にテロを実行、街を恐怖の色に染め上げる。後は噂を流せばいい、戦争のうらみで相手の街がやったんだ、ってな。そうなりゃもう一度の戦争まで一直線、そこから先は言うまでもない」
「うちとケニスでつぶし合いする、どちらも弱る。そこにノーリアが攻めてくる、楽に攻略する」
「ご名答」
どうも敵に振り回されている感じがしてよくない。だが、組織の下っ端に過ぎない俺じゃ、この状況をどうにもできない。かといって、このまま悪化していくのを見てるだけってのはムカつく。
クソッタレ……。俺はどうすればいいんだ?
そうやって悩んでいる間にも時は進んでいく。ある日の夕方、宿舎内にあるカフェ。俺はそこに一人で入っていき、カウンターの席に座る。
とりあえずコーラでも飲もうと思い、カウンターの中にいる、後ろ向きの女性に声をかける。カフェの制服を着ているその人は振り向く、俺は彼女の顔を見て少し驚く。
「あれ、ケイトさん?」
「あっ、こんにちは、クロベーさん」
「ケイトさん、何でここに? 食堂のほうはどうしたんです」
「それが、カフェの子が病気になっちゃって。人手が足りないから、今日はこっちの手伝いです」
「へぇ、なるほど……」
「ところでご注文は?」
「紅茶を一杯、あと、普通のクッキーを一皿」
「了解です♪」
彼女は厨房の方に行き、それの中にいるスタッフに注文の内容を伝える。その後、俺の前に戻ってきて言う。
「水、お持ちしましょうか?」
「いや、遠慮します」
「でも最初の一杯はタダですよ?」
「これから注文の紅茶が来ますよ。飲み物はそれで大丈夫です」
「なるほど、分かりました」
俺は店内の様子を確認する。客は少なく、雰囲気は静かだ。どこかからジャズらしき曲が流れている。なんだろうな、これは? メロディに聞き覚えがあるが……。
「ケイトさん、この曲ってなんでしたっけ?」
「ビートルズの何かだと思うんですが、えっと……」
彼女は少し考え、答えにたどりつき、それを俺に伝えてくる。
「たぶん All My Loving ですよ。それのジャズ・アレンジ」
「あぁ、言われてみれば……」
ビートルズなんて古臭い、お前はそう思うの? まぁそうかもね。今の時代のロックと比べりゃ、ちょっと素朴過ぎる演奏だしな。でも、いいものはやっぱりいいと思うんだよ。きれいなメロディーとかさ。
「ケイトさん、ビートルズ好きなんですか?」
「そこまで好きってわけじゃないけど、でも、たまに聞くかな」
「ずばり、お気に入りの曲は?」
「そうですねぇ……うーん、いろいろあって迷うなぁ……」
「俺は Strawberry Fields Forever とか好きですよ。他には、I'm Only Sleeping とか」
「あー、あれいいですよねー! 私あれ好きですよ」
店内の曲が変わる。今度はジョン・レノンの Jealous Guy だ。もちろんジャズ・アレンジされているが、しかし、このメロディーは間違いなく Jealous Guy だ。
その時、厨房からケイトさんを呼ぶ声が聞こえた。彼女は「はい!」と言ってそちらへ行き、紅茶のカップとクッキーの皿と一緒に戻ってきて、それらを俺の前に置く。
「お待たせしました、紅茶とクッキーです」
「どーも、ありがとうございます。それじゃさっそく……」
俺はクッキーを一枚つまみ、食べてみる。
「うん……おいしい」
「そうでしょう? 私、前に食べたことあるんですが、すっごくよかったです」
「えぇ、本当……。いいな、これ」
もぐもぐとクッキーを食べる俺。そんな俺を見ながら、ケイトさんは喋り始める。
「ねぇ、クロベーさん。ずっと前、エイミーちゃんと一緒に街を歩いたことがあったでしょう」
「あぁ……なんか、エイミーが街を案内して欲しいとか言い出して……」
「そうそう、それです。あの時、お菓子屋さんでクッキーを試食したの、覚えてます?」
「昨日のことみたいによく覚えてますよ」
「実はですね、この間、あそこの割引チケットもらったんです」
「クッキー割引の?」
「いえ、そっちじゃなくて。あそこの二階、喫茶店みたいになってるでしょう。それの割引です」
「えぇ」
「これ、二枚あるんですよ。それでですね、今度のお休みでいいんですけど、私と一緒に行きませんか?」
彼女は少し恥ずかしそうにしながら俺を見ている。俺は苦笑いしながら返事をする。
「いきなり誘いにきますねぇ……」
「ねぇ、行きましょうよ」
「いいですよ、OK、OK、OKです」
「本当?」
「俺は三日後に休みですが、ケイトさんは?」
「午後からなら大丈夫ですよ」
「じゃあ決まりですね。よろしくお願いします」
そう言って、彼女は照れくさそうに笑った。実にいい笑顔だと俺は思った。
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