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第三章 冷酷非情の世界に生きる
第19話-1 たまにはゆっくり休みたいもんだ
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森での戦いの後、俺たち援軍部隊はボトム・ロックに帰還した。激戦を戦い抜いた報酬として、全員に特別ボーナスの給料が配られ、何日かの休暇も与えられた。もちろんそれは俺も同じだ。
そういうわけで久々に懐が温かくなった俺は、まだケガが治りきっていないダーカーを誘い、街へ遊びにいくことにした。
黒い革ジャンにジーンズというカッコをした男が二人、真昼間から街の中をぶらつく。見ようによってはチンピラの散歩って感じだな。もちろん俺たちはチンピラじゃないが。
むち打ちを治すためのコルセットを首につけているダーカーが言う。
「街の様子が少し変わった。そう思わないか?」
「そうだな……」
俺はあたりの様子を軽く観察する。道を行く人々は、スーツ姿の奴もいるし、私服の奴もいるし、学生服を着ている奴もいる。男、女、老人、子ども、白人、黒人、黄色。様々な連中がいる。まぁ、どこにでもある日常の風景だな。
しかし、よくながめてみると、変な雰囲気の奴らがちらほらとみえる。それは、なんと言ったらいいのか……。小汚いカッコして、金がなさそうで、風呂に入ってなさそうな、そういう印象の連中だ。
俺はダーカーに返事する。
「まぁ、ホームレスみたいな連中がいるよな」
「だろう?」
「でもホームレスなんてどこにでもいるだろ」
「それはそうだが、問題はその数だ。明らかに前より多い」
「だから何だっつーんだよ……」
「俺は警備隊の隊員の一人として、治安について心配している。貧しい人が増えれば治安が悪くなるからな」
「そういうことならもちろん分かってる。人間、食いつめれば泥棒するし、借金し過ぎてトラブルを起こすこともある」
「なぜこうなってるか、その理由を知っているか?」
「そんなわけないじゃん」
「戦争だよ、戦争。ノーリアの戦争のせいさ」
「うん?」
「連中、すでにかなりの街を征服したって噂だ。そして、社会の役に立たないと評価した連中を街ら追放しているらしい。そうなると、そいつらは難民になって、あちこちに散らばっていく」
「そういった奴らの一部がこの街にも流れ込んでる……そういうことか?」
「あぁ。俺はそう思っている」
「なるほどな……」
秋の冷たい風が俺たちの体を冷やしていく。まったく、嫌な話だぜ。結局、争いが原因で不幸が増えてんじゃねぇか。クソッタレめ。俺たちはさらに話を続ける、俺が話す。
「だとすると、治安以外にも考えるべきことがあるよな」
「裏社会の連中のことか?」
「まぁそれも大事だけどよ。俺が言いたいのは、他の街から来るスパイのことだ」
「スパイなんて来るのか?」
「十分にあり得ると思うね。ノーリアとしちゃ、この街を攻め落としたいはず。だったら、スパイに難民の振りをさせてここに送り込み、あれこれ活動させる。それくらいはするだろ」
「やっかいだな……」
「これからは今まで以上に気をつけねぇとヤバいぜ。ノーリアだけじゃなく、ケニスからだってスパイが来るかもしれねぇ。油断大敵だ」
俺たちは繁華街の入り口付近にたどり着く。そのまま中に入り、飯屋ばかりの通りを歩いていく。そこかしこから流れてくる料理の匂いが俺を誘惑する。
「ダーカー、腹、減ってねぇか?」
「肉が食いたい気分だ」
「たまには高い店で美味いもん食いたいよな?」
「ボーナスもらったばかりだしな」
「じゃあ話は決まりだ。チンジャオロースなんてどうだ?」
そう言った直後、俺たちの前方に見える牛丼屋、それの中から黄色人種のおっさんがいきなり飛び出し、俺たちへ向かって走り始めた。彼の後ろから店員らしき白人男性も飛び出し、おっさんを追いかけながら怒鳴る。
「てめぇ待て、食い逃げ野郎!」
おっさんはどんどんこっちに近づいてくる。いかにも貧乏って感じのボロい服を着ているな。さっきの難民の話に出てきたような奴だよ。金がないんだろう。
ついにおっさんが間近に迫る、俺はおっさんの足を払って転ばせ、背中にのしかかってそのまま取り押さえる。なにせ俺の仕事は街の警備だからな、こういうことはお手の物よ。俺に組み敷かれているおっさんは声をあげる。
「頼む、逃がしてくれ!」
「ダメだね」
「頼むよ!」
「俺は警備隊の人間だ。見逃すわけにはいかねぇ」
店員の兄ちゃんがやってくる。俺のかわりにダーカーが応対する。
「すみません、迷惑をかけまして!」
「大丈夫です、俺たちは警備隊ですから」
「ほんとですか!?」
「今日は非番なんですが、こうなったら仕方ない。警備隊の本部まで連れて行って、トラ箱にでも入れておきます」
「ありがとうございます」
「それでですね、まずは……」
ダーカーの話は続いていく。まったく、たまの休みと思ったらトラブルかい。ちなみに、トラ箱っていうのは保護室のことで、酔っ払いやら非行少年やらをとりあえず放り込んどく場所だ。
犬も歩けば棒に当たるとは、よくいったもんだぜ。
そういうわけで久々に懐が温かくなった俺は、まだケガが治りきっていないダーカーを誘い、街へ遊びにいくことにした。
黒い革ジャンにジーンズというカッコをした男が二人、真昼間から街の中をぶらつく。見ようによってはチンピラの散歩って感じだな。もちろん俺たちはチンピラじゃないが。
むち打ちを治すためのコルセットを首につけているダーカーが言う。
「街の様子が少し変わった。そう思わないか?」
「そうだな……」
俺はあたりの様子を軽く観察する。道を行く人々は、スーツ姿の奴もいるし、私服の奴もいるし、学生服を着ている奴もいる。男、女、老人、子ども、白人、黒人、黄色。様々な連中がいる。まぁ、どこにでもある日常の風景だな。
しかし、よくながめてみると、変な雰囲気の奴らがちらほらとみえる。それは、なんと言ったらいいのか……。小汚いカッコして、金がなさそうで、風呂に入ってなさそうな、そういう印象の連中だ。
俺はダーカーに返事する。
「まぁ、ホームレスみたいな連中がいるよな」
「だろう?」
「でもホームレスなんてどこにでもいるだろ」
「それはそうだが、問題はその数だ。明らかに前より多い」
「だから何だっつーんだよ……」
「俺は警備隊の隊員の一人として、治安について心配している。貧しい人が増えれば治安が悪くなるからな」
「そういうことならもちろん分かってる。人間、食いつめれば泥棒するし、借金し過ぎてトラブルを起こすこともある」
「なぜこうなってるか、その理由を知っているか?」
「そんなわけないじゃん」
「戦争だよ、戦争。ノーリアの戦争のせいさ」
「うん?」
「連中、すでにかなりの街を征服したって噂だ。そして、社会の役に立たないと評価した連中を街ら追放しているらしい。そうなると、そいつらは難民になって、あちこちに散らばっていく」
「そういった奴らの一部がこの街にも流れ込んでる……そういうことか?」
「あぁ。俺はそう思っている」
「なるほどな……」
秋の冷たい風が俺たちの体を冷やしていく。まったく、嫌な話だぜ。結局、争いが原因で不幸が増えてんじゃねぇか。クソッタレめ。俺たちはさらに話を続ける、俺が話す。
「だとすると、治安以外にも考えるべきことがあるよな」
「裏社会の連中のことか?」
「まぁそれも大事だけどよ。俺が言いたいのは、他の街から来るスパイのことだ」
「スパイなんて来るのか?」
「十分にあり得ると思うね。ノーリアとしちゃ、この街を攻め落としたいはず。だったら、スパイに難民の振りをさせてここに送り込み、あれこれ活動させる。それくらいはするだろ」
「やっかいだな……」
「これからは今まで以上に気をつけねぇとヤバいぜ。ノーリアだけじゃなく、ケニスからだってスパイが来るかもしれねぇ。油断大敵だ」
俺たちは繁華街の入り口付近にたどり着く。そのまま中に入り、飯屋ばかりの通りを歩いていく。そこかしこから流れてくる料理の匂いが俺を誘惑する。
「ダーカー、腹、減ってねぇか?」
「肉が食いたい気分だ」
「たまには高い店で美味いもん食いたいよな?」
「ボーナスもらったばかりだしな」
「じゃあ話は決まりだ。チンジャオロースなんてどうだ?」
そう言った直後、俺たちの前方に見える牛丼屋、それの中から黄色人種のおっさんがいきなり飛び出し、俺たちへ向かって走り始めた。彼の後ろから店員らしき白人男性も飛び出し、おっさんを追いかけながら怒鳴る。
「てめぇ待て、食い逃げ野郎!」
おっさんはどんどんこっちに近づいてくる。いかにも貧乏って感じのボロい服を着ているな。さっきの難民の話に出てきたような奴だよ。金がないんだろう。
ついにおっさんが間近に迫る、俺はおっさんの足を払って転ばせ、背中にのしかかってそのまま取り押さえる。なにせ俺の仕事は街の警備だからな、こういうことはお手の物よ。俺に組み敷かれているおっさんは声をあげる。
「頼む、逃がしてくれ!」
「ダメだね」
「頼むよ!」
「俺は警備隊の人間だ。見逃すわけにはいかねぇ」
店員の兄ちゃんがやってくる。俺のかわりにダーカーが応対する。
「すみません、迷惑をかけまして!」
「大丈夫です、俺たちは警備隊ですから」
「ほんとですか!?」
「今日は非番なんですが、こうなったら仕方ない。警備隊の本部まで連れて行って、トラ箱にでも入れておきます」
「ありがとうございます」
「それでですね、まずは……」
ダーカーの話は続いていく。まったく、たまの休みと思ったらトラブルかい。ちなみに、トラ箱っていうのは保護室のことで、酔っ払いやら非行少年やらをとりあえず放り込んどく場所だ。
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