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第二章 森を守れ
第15話-2 夢の劇場
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エイミーのお見舞いが終わった後は、一日の残りをぐーたらと過ごした。たっぷり休んだおかげで、疲れはだいぶとれたよ。これから先もずっとこうだといいんだが、まだ戦いは終わってねぇ。いずれ次の出撃命令が出る、そしたら休みなんて終わりだ。辛いね、まったく。
はぁ……。なんで戦わなくちゃいけないんだろうな。戦いがなきゃ、楽に生きられるのに。そりゃ、戦いをゼロにするってのは無理な話だ、俺だってそれくらいは分かる。食べ物のためにモンスターと戦って肉を得たり、犯罪者と戦って制圧したり、どうしたってそういうことは出てくるからな。
とはいえ、今回みたいなデカい争いは嫌になるぜ。そもそもこの話、戦わずともどうにかなったはずなんだから。ケニスの西には大きな都市があって、そこには予備の食べ物がだいぶあるって話、聞いたことあるぜ。俺たちと戦うより、その都市から食料を買った方がマシはなずなんだよ。じゃあなんで奴らはそれをせず、戦いの道を選んだのだろう?
まぁ、だいたいその理由の見当はつくよ。たくさんあるところから力ずくで奪っちまえって話だろう。要するにノーリアと同じやり方を採用したってことだ。でもそれって強盗と一緒だろう、力ずくで無理やり何とかしようなんてさ。結局、力でつぶし合う世の中ってことなのかねぇ……。
やれやれ、ここでこれ以上を考えても仕方ないか。今ここで俺ができることなんて、ほんの少ししかないのだし。とりあえずもう寝よう、お休み……。Sweet dreams.
俺は気がついた。あたりを見回す。ここは明らかに基地の俺の部屋じゃない。なぜかは知らないが、俺は今、ボトム・ロックの公園の中にいるんだ。そばには何本かのヒマワリが咲いていて、どうやら季節は夏らしい。セミの声がうるさい、こいつらは人のことなんか構わずに昼でも夜でも鳴くから困るよな。安眠妨害はやめてくれよ。
安眠妨害? そうだ、俺はベッドに入って寝たはず。とすると、ここは夢の中? どことなく景色がぼやけているというか、不安定な感じがするのはそのせいだろうか。とりあえずあたりを少し歩いてみよう。
公園の中には俺以外、誰もいない。そして夏のはずなのにまったく暑くない。この不思議な感覚はやはり夢の中にいるせいなのか。少し不安を感じる、いつになったらこの夢は覚めるのだろう? そんなことを思いながら、俺は歩き続ける。
俺のずっと前に大きな木が見える。その下では少年二人がケンカをしている。いや、ケンカというよりはイジメか? なぜそう思うんだって、そう聞かれてもさ。ほら、あれを見ろよ。黒髪の奴がちびの奴をボコってるだろ? ちびは反撃しようとするけど、まったく勝てなくて、あっ、今度は投げ飛ばされた。ちびの声が聞こえてくる。
「やめろよ! 俺の水鉄砲、返せよ!」
「はん、誰がお前の言うことなんて聞くか!」
「返せよ!」
ちびは黒髪に殴りかかる。黒髪はあっさりパンチを止め、お返しにちびへ蹴りを叩きこむ。ちびは地面に崩れる、黒髪はその状態のちびにのしかかり、何度もしつこく殴る。そうしながら喋る。
「弱ぇくせに調子乗ってんじゃねぇ! クソが、おら、おら、おら、おら!」
「や、やっ……やめろ!」
「うるせぇ!」
バン、バン、バン、バン。黒髪はひたすら殴り続ける。
「分かったか! 分かったか! これが俺の力だ、お前より強ぇんだ!」
「やめろ……」
「やめろ? やめてください、だろ?」
「やめ……やめてください……」
「水鉄砲は俺がもらう。それでいいなら、今日は勘弁してやる」
「でも……」
「逆らうのかよ!」
バンバンバンバン。ちびは泣き叫ぶ。
「やめて、やめて! 分かった、言うこときく! 水鉄砲あげるから!」
「ふん、分かりゃいいんだよ……」
目の前の景色が歪んでいく。新たな景色が現れる。ここはどこだ? たぶん、高校か何かの運動場だと思うが……。あっ、あの黒髪の少年は、さっきちびを殴ってた奴か? あいつ、今度は金髪の少年に殴られてるな。金髪の声が聞こえる。
「調子こいてんじゃねぇぞ! クソが!」
バン。黒髪は強烈な一発をもらう。だが彼は殴り返さない。彼は言う。
「すんません! 先輩、すみませんでした!」
「一年風情が部活サボってんじゃねぇぞ!」
バン、バン。黒髪は殴り返さない。
「すんません! でもサボったわけじゃなくて、妹がケガして、それで……」
「言い訳すんじゃねぇよ!」
バン。やべぇな、あれは歯が折れたかもしれん。それでも黒髪は殴り返さない。
「すんません! ホントすんませんでした!」
「謝ればそれですむと思ってんのか!」
バン、バン、バン、バン。おい、もういいだろ、許してやれよ! あっ、また景色が歪む……今度は会社の中か? どうやらオフィスらしいな。さっきの金髪がスーツ着て、机の前に立ってる。その机の後ろには、ハゲたおっさんが椅子に座っていて、何か話してる。
「質問しよう。残業の件だがね。タイム・カードのことを新聞記者に喋ったの、君だろう?」
「はい」
「なるほど、確かにわが社では、新聞に書いてあることをしているな。定時になれば社員にタイム・カードを押させ、一日六時間で仕事を終えたように見せかける。そして実際は、定時以降も仕事をさせている」
「……」
「タイム・カードに存在しない労働時間、残業の時間。わが社はこれをもみ消している、違法行為である。君はそう主張したいようだが?」
「……」
「君に会社をやめてもらいたい。私はそう思うのだがね」
「あの、それは許してください」
「ダメだ」
「すんません、本当すんません!」
「君は力関係というものを理解していない。平社員の君と社長の私、立場が上なのはどちらだと思う?」
「社長です」
「ご名答、その通りだ。そう、私が上だ。君は下だ。私が黒と言えば、白いものでも黒になる」
「はい」
「力ある者に逆らってはいけない。それが世の中というものだ。だが、君は私に逆らった。その罰として仕事をやめてもらうのは当然のこと、違うかね?」
「でも、俺には嫁さんがいて、こないだ妊娠したってわかって、子どもを産むにはお金が必要なんです。クビになったらどうしたらいいんです、無職になったって、嫁さんにどう説明したらいいんです!」
「知らんよ、そんなことは。それは君の事情であって、私の事情ではない」
「ですが……」
「なるほど、君は正しいことをしたのかもしれん。だが、そんなことは力のある者にとって無意味だ。もう一度いう、仕事をやめたまえ」
「すんません! すんませんでした! 許してください、クビは勘弁して……」
弱い奴を強い奴Aがぶちのめし、強い奴Aをさらに強い奴Bがぶちのめし、さらに強い奴Bをさらにさらに強いCがぶちのめす。そういうことか?
ただのイジメの連鎖じゃねぇか。暴力、そうじゃなきゃ上下関係を利用する。クソッタレ! クソッタレだ! いや、落ち着け、クロベー。これは夢、夢なんだ、そうだ……悪い夢なんだ……。
景色が歪んでいく……大きな音が聞こえてくる……これは、サイレン? 緊急事態……出撃命令……?
俺は目を覚ます。時間は早朝。戦場に行かなくては……。
はぁ……。なんで戦わなくちゃいけないんだろうな。戦いがなきゃ、楽に生きられるのに。そりゃ、戦いをゼロにするってのは無理な話だ、俺だってそれくらいは分かる。食べ物のためにモンスターと戦って肉を得たり、犯罪者と戦って制圧したり、どうしたってそういうことは出てくるからな。
とはいえ、今回みたいなデカい争いは嫌になるぜ。そもそもこの話、戦わずともどうにかなったはずなんだから。ケニスの西には大きな都市があって、そこには予備の食べ物がだいぶあるって話、聞いたことあるぜ。俺たちと戦うより、その都市から食料を買った方がマシはなずなんだよ。じゃあなんで奴らはそれをせず、戦いの道を選んだのだろう?
まぁ、だいたいその理由の見当はつくよ。たくさんあるところから力ずくで奪っちまえって話だろう。要するにノーリアと同じやり方を採用したってことだ。でもそれって強盗と一緒だろう、力ずくで無理やり何とかしようなんてさ。結局、力でつぶし合う世の中ってことなのかねぇ……。
やれやれ、ここでこれ以上を考えても仕方ないか。今ここで俺ができることなんて、ほんの少ししかないのだし。とりあえずもう寝よう、お休み……。Sweet dreams.
俺は気がついた。あたりを見回す。ここは明らかに基地の俺の部屋じゃない。なぜかは知らないが、俺は今、ボトム・ロックの公園の中にいるんだ。そばには何本かのヒマワリが咲いていて、どうやら季節は夏らしい。セミの声がうるさい、こいつらは人のことなんか構わずに昼でも夜でも鳴くから困るよな。安眠妨害はやめてくれよ。
安眠妨害? そうだ、俺はベッドに入って寝たはず。とすると、ここは夢の中? どことなく景色がぼやけているというか、不安定な感じがするのはそのせいだろうか。とりあえずあたりを少し歩いてみよう。
公園の中には俺以外、誰もいない。そして夏のはずなのにまったく暑くない。この不思議な感覚はやはり夢の中にいるせいなのか。少し不安を感じる、いつになったらこの夢は覚めるのだろう? そんなことを思いながら、俺は歩き続ける。
俺のずっと前に大きな木が見える。その下では少年二人がケンカをしている。いや、ケンカというよりはイジメか? なぜそう思うんだって、そう聞かれてもさ。ほら、あれを見ろよ。黒髪の奴がちびの奴をボコってるだろ? ちびは反撃しようとするけど、まったく勝てなくて、あっ、今度は投げ飛ばされた。ちびの声が聞こえてくる。
「やめろよ! 俺の水鉄砲、返せよ!」
「はん、誰がお前の言うことなんて聞くか!」
「返せよ!」
ちびは黒髪に殴りかかる。黒髪はあっさりパンチを止め、お返しにちびへ蹴りを叩きこむ。ちびは地面に崩れる、黒髪はその状態のちびにのしかかり、何度もしつこく殴る。そうしながら喋る。
「弱ぇくせに調子乗ってんじゃねぇ! クソが、おら、おら、おら、おら!」
「や、やっ……やめろ!」
「うるせぇ!」
バン、バン、バン、バン。黒髪はひたすら殴り続ける。
「分かったか! 分かったか! これが俺の力だ、お前より強ぇんだ!」
「やめろ……」
「やめろ? やめてください、だろ?」
「やめ……やめてください……」
「水鉄砲は俺がもらう。それでいいなら、今日は勘弁してやる」
「でも……」
「逆らうのかよ!」
バンバンバンバン。ちびは泣き叫ぶ。
「やめて、やめて! 分かった、言うこときく! 水鉄砲あげるから!」
「ふん、分かりゃいいんだよ……」
目の前の景色が歪んでいく。新たな景色が現れる。ここはどこだ? たぶん、高校か何かの運動場だと思うが……。あっ、あの黒髪の少年は、さっきちびを殴ってた奴か? あいつ、今度は金髪の少年に殴られてるな。金髪の声が聞こえる。
「調子こいてんじゃねぇぞ! クソが!」
バン。黒髪は強烈な一発をもらう。だが彼は殴り返さない。彼は言う。
「すんません! 先輩、すみませんでした!」
「一年風情が部活サボってんじゃねぇぞ!」
バン、バン。黒髪は殴り返さない。
「すんません! でもサボったわけじゃなくて、妹がケガして、それで……」
「言い訳すんじゃねぇよ!」
バン。やべぇな、あれは歯が折れたかもしれん。それでも黒髪は殴り返さない。
「すんません! ホントすんませんでした!」
「謝ればそれですむと思ってんのか!」
バン、バン、バン、バン。おい、もういいだろ、許してやれよ! あっ、また景色が歪む……今度は会社の中か? どうやらオフィスらしいな。さっきの金髪がスーツ着て、机の前に立ってる。その机の後ろには、ハゲたおっさんが椅子に座っていて、何か話してる。
「質問しよう。残業の件だがね。タイム・カードのことを新聞記者に喋ったの、君だろう?」
「はい」
「なるほど、確かにわが社では、新聞に書いてあることをしているな。定時になれば社員にタイム・カードを押させ、一日六時間で仕事を終えたように見せかける。そして実際は、定時以降も仕事をさせている」
「……」
「タイム・カードに存在しない労働時間、残業の時間。わが社はこれをもみ消している、違法行為である。君はそう主張したいようだが?」
「……」
「君に会社をやめてもらいたい。私はそう思うのだがね」
「あの、それは許してください」
「ダメだ」
「すんません、本当すんません!」
「君は力関係というものを理解していない。平社員の君と社長の私、立場が上なのはどちらだと思う?」
「社長です」
「ご名答、その通りだ。そう、私が上だ。君は下だ。私が黒と言えば、白いものでも黒になる」
「はい」
「力ある者に逆らってはいけない。それが世の中というものだ。だが、君は私に逆らった。その罰として仕事をやめてもらうのは当然のこと、違うかね?」
「でも、俺には嫁さんがいて、こないだ妊娠したってわかって、子どもを産むにはお金が必要なんです。クビになったらどうしたらいいんです、無職になったって、嫁さんにどう説明したらいいんです!」
「知らんよ、そんなことは。それは君の事情であって、私の事情ではない」
「ですが……」
「なるほど、君は正しいことをしたのかもしれん。だが、そんなことは力のある者にとって無意味だ。もう一度いう、仕事をやめたまえ」
「すんません! すんませんでした! 許してください、クビは勘弁して……」
弱い奴を強い奴Aがぶちのめし、強い奴Aをさらに強い奴Bがぶちのめし、さらに強い奴Bをさらにさらに強いCがぶちのめす。そういうことか?
ただのイジメの連鎖じゃねぇか。暴力、そうじゃなきゃ上下関係を利用する。クソッタレ! クソッタレだ! いや、落ち着け、クロベー。これは夢、夢なんだ、そうだ……悪い夢なんだ……。
景色が歪んでいく……大きな音が聞こえてくる……これは、サイレン? 緊急事態……出撃命令……?
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