【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

文字の大きさ
上 下
50 / 67
第六章「結びあう魂」

5、決戦の始まり

しおりを挟む


 ごく普通の町。その町に、魂を悪魔に捧げた者がいると聞き、町は混乱に陥ったが、その者を町の者の手で裁くことで団結した。

 そして、月が昇って日付が変わった時、町の人は誰が悪魔に魂を売った者なのか思い出した。



「あの子だ。」

 金髪に青い瞳、笑顔が可愛らしいと評判だったスノー。しかし、その評判は作られたものだったのだ。



「俺たちが、あの罪人の娘を好きなはずがない。今まで、なぜあれを好きだったのか・・・答えは簡単だ。」

 悪魔に魂を捧げたのは、スノー。それが町の決断で、すぐに町は動いた。男衆を集めて、町のはずれの小屋に向かう。



「こんな不気味な場所に住むやつを、今まで何の疑いもなく接していたとは。」

「それが悪魔の力だろう。」

「だが、気づかなかった罪が問われる。教会に知られる前に・・・いや、神父が来たということはもう知られているのか。」

「しかし、神父様は言っていた。この町のものの手で終わらせろと。なら、今からでも遅くはない。」

 ぎらついた目で、男衆はスノーの家の扉を睨みつけた。そこからは何も言わず、一人の男が、工具を使って扉をこじ開ける。



 むわっと異臭が外に漏れだして、男たちは顔をしかめた。



「さすが、悪魔・・・いや、魔女の小屋と言ったところか。」

「ものすごい匂いだ。この匂いは・・・」

 ランプを持った男が、口を押えて先に進む。すると、声にならない声を上げた。



「これはっ・・・!?」

「どうした?なっ・・・」

 男たちは、目の前に広がる光景を目にして、吐き気がした。その光景は、自分たちがなそうとしたことと変わらないというのに。



 床に散らばる金髪、見開かれてむき出しになっている青い瞳。白い肌は、もう血の気など通っていない、青白く、その胸に赤い血が広がっていた。

 それは、明らかに死んでいるスノーだ。



「あぁ、スノー・・・もう終わりだよ。」

 スノーの死体の横で、心底残念そうに少年がつぶやく。

 あまりの異様な光景に、頭に血が上っていた男衆も顔を青白くさせた。



「今、追いかけるよ。もっと、君を楽しみたかったけど。」

 少年は握りしめていたナイフを持ち上げて、自分の胸に刃を向けた。



「何を・・・」

「やめるんだ!フォグ!」

 少年の背後で、青白く光る青年が叫んだ。その青年に今更気づいた男衆は、声も出せずにその光景を見守った。



「スノー、愛しているよ。」

「フォグっ!」

 青年の言葉など聞こえていないようで、少年は青年を振り返ることもなく、ナイフで自身の胸を貫いた。



 それは、呪われたナイフ。少年の力でも、骨をたやすく突き破り、心臓までその刃を届かせた。絵に装飾されたどくろが、にたりと笑うのを、男衆は見てしまった。







 男衆が気付いた時には、青年は姿を消していた。

 そして、念のために確認した2つの体は、完全に死体だった。



 町は、少年を英雄としてまつり、スノーを魔女としてさらすことにした。そうしなければ、罪に問われると思ったのだ。



 丁重に葬られた少年と野ざらしにされ、見るも無残な姿となったスノーは、当然離れ離れとなり、共に墓に入ることはなかった。



 それを、遠く見守っていた神父は、踵を返して笑った。



「ケタケタケタ!最高だな。最高だ。これからも楽しませてくれよ、かわいいおもちゃたち。」

 新たな契約を果たした神父の姿をした悪魔は、そう上機嫌に笑って消えた。







 悪魔と契約した魂は、悪魔に食われて輪廻の輪を外れる。しかし、2人の魂は別の世界へと転生し、命を繰り返すことになる。



 これは、2人の呪われたゲームの序章だった。





しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...