【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

文字の大きさ
上 下
61 / 67
番外〜前世編〜「東へと続く道」

3、銀の魔法使い

しおりを挟む
「今回の戦の為にデニス王が雇ったシメオンは魔法使い第三位の実力者。無数の影を飛ばすのが得意なので、お前らはすぐ見つかるだろう」

「――あなたが一緒にいれば見つからないとでも言うの?」

「俺は魔法使い二位だ。あらゆる魔法はより上位の魔法の前では意味をなさない。お前らが見つからないように探索除けの術をかけることができる」

 私は冷笑した。

「どうせ大ボラを吹くなら魔法使い第一位と言ったらどう?」

「待って、リオ! ネヴィルの言うことは真実だと思う。僕が見てきた範囲では、他の魔法使い達はことごとく彼を敬う態度を取っていた。かなり上位の魔法使いであることは間違いない」

「つまり、最上位の魔法使いが乗り出さない限りは安泰ってわけ?」

「心配ない。魔法使い第一位は俺の双子の兄。弟想いなので決して邪魔はしないだろう」

 どうやらネヴィルもユーリと同じで双子だったらしい。

「いずれにしても、あなたのことは信用できない。裏切られる可能性がある者と一緒に行動するなんてごめんだわ」

「でもリオ! 彼は僕を逃がしてくれた」

「案外そのままレダの元へ連れて行く気だったかもよ? 二人の仲の良さをあなたも知っているでしょう?」

「……それは……」

 ユーリは口ごもる。
 私は口元を歪め、ネヴィルの妖しく光る銀色の瞳を見据え、つい三ヶ月前の事を思い出す。

 ――忘れもしない、リアの王城で行われたデニスとレダの結婚式――
 他の女性と並ぶデニスを直視したくなくて反らした瞳に、同じく挙式に参列していたネヴィルの姿が映った。
 その、微動だにせずレダだけを一心に見つめる様子に思わず目を奪われていたとき、視線に気づいたらしいネヴィルがこちら向いた。

 ――お互いの瞳と瞳が合った一瞬――

  確かに私はネヴィルの瞳の中に自分と同じ”痛み”を見たのだ。

 あるいはそれは幼い頃から訪れる機会が多かったアスティー城で、いつもネヴィルにべったりだったレダを見てきたからかもしれない。

 何にしてもネヴィルがレダではなく、ユーリにつくなんておかしい。

「ねぇ、ネヴィル、レダが隣国へ嫁ぐまで恋仲だったと言われていたあなたを、一体どうしたら信用できるのかしら?」

「そうだな、特別レダと親しかったことは認めよう。だが、恋仲だったという噂については否定させて貰う。
 そもそも俺には恋愛感情どころか人間らしい感情はない――すべて腹の中で片割れである兄に持って行かれたものでな。レダの事をなんとも思っていない以上、アスティーの宮廷魔法使いとしての立場が優先される。だからこうしてレダからの協力要請を無視してユーリアンを逃がしているのだ」

「……」

 そこまで言われても結婚式の印象があるので、にわかにネヴィルを信じられない。
 しかし、今は一刻を争う。追求は後にするべきだろう。

「だったら、行動で証明する機会をあげる。魔法使いなら馬ぐらい呼べるでしょう?」

「お安い御用だ」


 ネヴィルの返事通り、洞窟を出ると立派な体格の馬が三頭待っていた。

 まずは洞窟周辺の湿地を抜け、その後は国境を跨がる森林に隠れて、ユーリの母親の出身国であるプロメシアへ向かう事にした。

 ところが、ぬかるむ地面を進むのに時間を食っているうちに、押し寄せる蹄の音が前方から響いてくる――
 私は舌打ちして逡巡する。

 隠れてやり過ごすか、突破するべきか。

 後方は頂上に城が建つ断崖絶壁で、しばらく迂回する必要がある。
 現在いる周囲は痩せた低木ばかりで、長く身を隠せるような場所ではない。

 しかし使いこなせないとはいえ、私も戦女神の剣に選ばれた者。
 加えてデニスの隣に並びたい一心で、この7年間ひたすら剣技を磨いてきた。
 音からして数百騎程度。
 デニスかレダさえいなければ突破できるかもしれない。

「軍を率いているのは誰だかわかる?」

 素早く問いかけると、ネヴィルは遠見するように銀色の瞳を細めた。

「デニスだ」

 それはツイていない。
 デニスは私の剣の師匠なので戦っても万に一つも勝ち目はない。

「あなたの術で私達の姿を隠せる?」

「やれないことはないが、狂戦士の剣の使い手であるデニスには特殊能力がある。近くへ寄れば、強力な魔法剣の使い手であるお前達の気配は確実に察知されるだろう」

 悪い事にユーリも古代から伝わる「聖王の剣」に選ばれた者なのだ。
 答えを聞いたそばから私は判断し、近くの沼に馬を沈め、ユーリの手を引いて茂みの中で腹ばいになる。 
 ――果たして――ネヴィルの言った通り、騎馬兵達の先頭に立っていたのはデニスだった。 

 私はその姿を確認すると機転を利かせて剣を抜き、ユーリの首筋に剣先を当ててから立ち上がる。
 そして自らデニスの方へと進んでいく。

「デニス! 待っていたわ!」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

処理中です...