60 / 67
番外〜前世編〜「東へと続く道」
2、たった一人の王
しおりを挟む
「……後ろにいるのは、まさかネヴィル?」
灰色のローブとマントを着たアスティーの宮廷魔法使い――ネヴィルも一緒だった。
私はこの髪も瞳も銀色で白蝋のような肌をした、見た目も表情も人間味の薄い人物が苦手だった。
「ああ、ネヴィルが、城内は内通者だらけで、レダの到着にあわせて内側から門が開かれる予定だから、その前にできるだけ遠くへ逃げろと連れ出してくれたんだ」
「あなたがユーリを? どういう風の吹き回し?」
「先代から仕えた王家の世継ぎだ。助けてもおかしくないだろう」
私は疑わしい目で、不気味なほど美しいネヴィルの白皙の顔を凝視する。
「では、ここまででいいわ、ネヴィル。あなたは城へ戻るといい。さあ、行きましょう、ユーリ」
さっさと別れを告げるとネヴィルの返事を待たず、ユーリの手を取って足早に歩き始める。
「行こうって、待ってリオ!」
「待たないわ。あなたを逃がすためにここまで来たんだもの」
「気持ちは嬉しいけど、君を僕の破滅に巻き込むわけにはいかない!」
「なぜ? 私達は親友で、今は婚約者でしょう?」
「いいや、こうなってしまってはそれも無効だ! 君はもう自由だ。
悲しいけど僕が確認した範囲では、アスティーの有力者の多くは姉さん側についているようだ。同盟国もプロメシア以外はリディアへ味方している。どのみち武勇で遙かに姉さんに劣る僕が戦ったとしても、味方してくれた者を破滅へ巻き込むだけだ。だからこうして父の崩御にあわせて城から逃げ出してきた。こんな情けない僕が王になるのは無理だろう」
どうやら危篤だったアスティー王は亡くなったらしい。
ユーリだけではなく、完全に『炎女神の剣』を使いこなすレダの強さは尋常ではなく、デニス以外は私も含め誰一人として相手にすらならない。
戦場で出会った者はことごとく消し炭になるという。
私は苦い思いで強引にユーリの手を引き、出口へ向かって歩き続ける。
「いいえ、今のような強さだけを求められる戦乱ではなく、太平の世なら、誰よりも慈悲深く聡明なあなたは間違いなく素晴らしい王になっていた」
生家の家訓でもある「強さこそ正義」という考えはどうしても私には合わない。
「とにかく、あなたは私にとってたった一人の王よ!
夫になりたくないというなら、臣下としてでもあなたに着いていくわ」
「この僕が、君の夫になりたくないわけないじゃないか……!」
「ならつべこべ言わずに私と逃げて」
「駄目だ、駄目だ! 君を愛しているからこそ、それはできない。お願いだから僕に関わらないで欲しい」
私はいったん立ち止まり、盛大に溜め息をつく。
「いい加減にしてユーリ! はっきり言うけどレダの味方をするぐらいなら、私は舌を噛み切って死んだほうがマシなのよ!」
「それは……デニスがレダを選んだから?」
親友のユーリは私のデニスへの想いを知り尽くしていた。
「……痛いところを平気でつくのね」
「ごめん」
「勿論理由はそれだけじゃないわ」
レダへの嫉妬心以上に、私は今回の事で責任を感じていた。
なぜなら戦は急に起こったりしない。
何ヶ月も準備期間を要していた筈なのに、失恋した悲しみやレダへの嫉妬で頭がいっぱいで、少しもその動きに気づかなかった。
一国の妃になるならもっと国の情勢に気を配るべきだったのに――この体たらくぶりではデニスがレダを選ぶのも当然だ。
「でも、今はこんな風に言い合っている余裕はない。一刻も早く遠くへ逃げなくては――それと」
私はユーリの背後を睨み付ける。
「ネヴィル、なんでついて来ているの! あなたは連れて行けないわ」
「なぜだ? 俺がいなければ、お前らは逃げ延びられない」
「……どういう意味?」
灰色のローブとマントを着たアスティーの宮廷魔法使い――ネヴィルも一緒だった。
私はこの髪も瞳も銀色で白蝋のような肌をした、見た目も表情も人間味の薄い人物が苦手だった。
「ああ、ネヴィルが、城内は内通者だらけで、レダの到着にあわせて内側から門が開かれる予定だから、その前にできるだけ遠くへ逃げろと連れ出してくれたんだ」
「あなたがユーリを? どういう風の吹き回し?」
「先代から仕えた王家の世継ぎだ。助けてもおかしくないだろう」
私は疑わしい目で、不気味なほど美しいネヴィルの白皙の顔を凝視する。
「では、ここまででいいわ、ネヴィル。あなたは城へ戻るといい。さあ、行きましょう、ユーリ」
さっさと別れを告げるとネヴィルの返事を待たず、ユーリの手を取って足早に歩き始める。
「行こうって、待ってリオ!」
「待たないわ。あなたを逃がすためにここまで来たんだもの」
「気持ちは嬉しいけど、君を僕の破滅に巻き込むわけにはいかない!」
「なぜ? 私達は親友で、今は婚約者でしょう?」
「いいや、こうなってしまってはそれも無効だ! 君はもう自由だ。
悲しいけど僕が確認した範囲では、アスティーの有力者の多くは姉さん側についているようだ。同盟国もプロメシア以外はリディアへ味方している。どのみち武勇で遙かに姉さんに劣る僕が戦ったとしても、味方してくれた者を破滅へ巻き込むだけだ。だからこうして父の崩御にあわせて城から逃げ出してきた。こんな情けない僕が王になるのは無理だろう」
どうやら危篤だったアスティー王は亡くなったらしい。
ユーリだけではなく、完全に『炎女神の剣』を使いこなすレダの強さは尋常ではなく、デニス以外は私も含め誰一人として相手にすらならない。
戦場で出会った者はことごとく消し炭になるという。
私は苦い思いで強引にユーリの手を引き、出口へ向かって歩き続ける。
「いいえ、今のような強さだけを求められる戦乱ではなく、太平の世なら、誰よりも慈悲深く聡明なあなたは間違いなく素晴らしい王になっていた」
生家の家訓でもある「強さこそ正義」という考えはどうしても私には合わない。
「とにかく、あなたは私にとってたった一人の王よ!
夫になりたくないというなら、臣下としてでもあなたに着いていくわ」
「この僕が、君の夫になりたくないわけないじゃないか……!」
「ならつべこべ言わずに私と逃げて」
「駄目だ、駄目だ! 君を愛しているからこそ、それはできない。お願いだから僕に関わらないで欲しい」
私はいったん立ち止まり、盛大に溜め息をつく。
「いい加減にしてユーリ! はっきり言うけどレダの味方をするぐらいなら、私は舌を噛み切って死んだほうがマシなのよ!」
「それは……デニスがレダを選んだから?」
親友のユーリは私のデニスへの想いを知り尽くしていた。
「……痛いところを平気でつくのね」
「ごめん」
「勿論理由はそれだけじゃないわ」
レダへの嫉妬心以上に、私は今回の事で責任を感じていた。
なぜなら戦は急に起こったりしない。
何ヶ月も準備期間を要していた筈なのに、失恋した悲しみやレダへの嫉妬で頭がいっぱいで、少しもその動きに気づかなかった。
一国の妃になるならもっと国の情勢に気を配るべきだったのに――この体たらくぶりではデニスがレダを選ぶのも当然だ。
「でも、今はこんな風に言い合っている余裕はない。一刻も早く遠くへ逃げなくては――それと」
私はユーリの背後を睨み付ける。
「ネヴィル、なんでついて来ているの! あなたは連れて行けないわ」
「なぜだ? 俺がいなければ、お前らは逃げ延びられない」
「……どういう意味?」
0
お気に入りに追加
1,751
あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる