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7、アデルの動揺

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 いつもはいかなる場面でも平静を装えたアデルだったが今夜、この時だけは違った。
 レイモンのエスコート相手を目にしたとたん、早くも泣きそうになっていた。

 なぜならよりにもよってレイモンの連れのエリーザ嬢は、豊満すぎる胸を強調する蠱惑的なドレスを着ていたからだ。
 学園の制服と違ってドレス姿だとそのスタイルの差は歴然。

 アデルは思わず全身を硬直させ、大きく目を見開いてエリーザの胸元を注視した。
 そのショックを浮かべた表情を目の当たりにした瞬間、

(やはり今まで強がっていただけで、アデルは俺の事を好きだったんだ!)

 レイモンの胸にかつてない勝利の喜びが巻き起こった。

 唯一事情を知っている王太后は、

(アデルの様子がおかしいのは、やはり昨夜のショックを引きずっているせいよね。
 分かるわ。分かるわ。私もカイルに想い人がいると知った時、しばらく陰で泣いたものよ。
 だけど、あなたが泣くのは今でも、ここでもない。この曲は私からのエールよ)

 上で様子を見守りながら、従者に急ぎリクエスト曲を書いたメモを持って行かせる。

「ふん、迎えに行ってもいないと思ったら、婚約者の俺以外と来ていたとは……。   
 やはりアデル、お前はジェレミーと出来ていたんだな!」

 愛するアデルを痛めつける喜びに打ち震えつつ、嫉妬も手伝い濡れ衣を着せるレイモンだった。

「なっ……!? 兄さんがアデルではなく、エリーゼ嬢を迎えに行くと言って出たから僕は……!?」

 言い返すジェレミーの横で、なおもアデルが放心していたとき――
 王太后のリクエストにより会場に流れ出したのは、愛しのエミールの初主演作にして出世作の劇中曲。
 奴隷に落とされた将軍が剣闘士となり、不屈の精神で戦いを勝ち進んでいく歌劇だ。

 その物語は孤児から身を立て人気俳優にまで登りつめた主演のエミールの人生と重なる。
 同時に恵まれた境遇でありながら弱音を吐いていた9歳のアデルを恥じ入らせ、大きな勇気を与えてくれた舞台でもあった。
 そうだ。本物のファンなら苦労人の彼が、愛する人に巡り会えたことを喜ぶべきでは?
 ようやく我に返ったアデルは、

「どうやら行き違いがあったようですね。レイモン殿下。
 ――私はスピーチがあるので失礼します」

 さっと取り繕うと、急ぎステージへと向かった。
 毎年、卒業ダンスパーティーの開始の挨拶は生徒会長の勤めである。
 アデルが壇上に立つのに合わせて演奏もいったん中止される。

 王太后も二階でひとまずほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、アデルがお辞儀をし、スピーチを始めた直後、事件は起こった――
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