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6、最悪の卒業ダンスパーティー

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 翌日の卒業式、夢も希望もなくなったアデルの精神状態は最悪なものだった。
 しかし幸い、列席している保護者の手前レイモンとロイドは大人しく、ごく平和のうちに式は終わった。

「はぁ……牛乳のおかわり持ってきて」

 昨夜から暇さえあれば牛乳の自棄飲みをしているアデルだった。

(……ああ、エミール様……)

 アデルとて長年恋い慕ってきたとはいえ、立場的にエミールとどうこうなれるとは思っていなかった。
 それでも夢を壊されたショックは大きい。
 特にエミールの相手が自分と正反対の、豊満な胸をした肉感的な女優だったことがアデルの失恋の傷を深めていた。

(やはり男性はああいう女性が好きなのよね……私なんて、私なんて……)

 やさぐれている間に夕方になり、侍女達が衣装を持ってやってくる。

「お嬢様、さすがにもうお支度をしませんと、間に合いません」

 さすがに飲み過ぎでたぷんたぷんの腹で着替えを終えると、小間使いが迎えの知らせにやってきた。

 卒業ダンスパーティーは婚約者がいる者はそのエスコートを受けるのが慣例。
 当然レイモンが来たのだと思って玄関へ出てみると、待っていたのはその弟のジェレミーだった。


 学園の敷地内にあるダンスホールでは、先に会場入りしていたロイドが、

(今日こそアデルに吠えづらをかかせてやる)
 
 と、不気味な笑みを浮かべてジェレミーと並んで入場したアデルを見つめていた。


 昼の卒業式と違い夜の卒業ダンスパーティーは生徒だけが参加する無礼講。
 ロイドは今までの恨みを込め、最後に派手に一発カマしてやるつもりだった。
 レイモンにも前もって「ぜひ楽しみにして下さい」と言ってある。

 ところがロイドが知らないだけで、ダンスホールの中二階の観覧席には、三人の保護者の姿があった。
 一人はゆうべの出来事で孫娘を心配した王太后。

「ジェレミーは素直で優しいけど、知能はレイモン以下なのよね。
 やはり議会に改正法案を提出すべきかしら……?」

 王太后はここ最近の近隣諸国の流れを受け、この国でも女性の王位継承を認めるようにするか悩んでいる真っ最中だった。

 もう一人の見学者は、こっそり大人になった愛娘の晴れ姿を見ようと思ったバルト公爵だった。

(はて、レイモン様ではなく、弟のジェレミー殿下がエスコートをしているのは、いったいどういうことなのだ?)

 疑問の答えを求めるべく、公爵はレイモンの登場を待つ。

 最後の一人は、パーティー開始ギリギリ前に母と公爵の見学の知らせを受け、すっ飛んできた王だった。

(レイモンが来たら、隙を見て二人が見学していることを知らせなければ。それまでは頼むから何もしないでくれよ!)

 果たして、ついに婚約者以外を連れたレイモンがダンスホールに現れた。

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