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第五話「現実はクソだ」と少女は思っていた
Chapter12、真実を悟った瞬間
しおりを挟むわたしはこれまで映に異性として惹かれる気持ちを誤魔化すために、色んな男と付き合ってきた。
その際、隠している想いが透けて見えることを恐れ、黒髪で色白の涼しい目元をした映とは対照的な容姿の男性を選ぶようにしていたのだ。
――そう、この青のような――
この色素の薄い髪と瞳、ハーフのように濃い目元は、まるでわたしがつきあってきた男達の顔貌を象徴するかのよう。
そして少し鈍感めのひょうひょうとした青の性格は、繊細で内気な映の憧れに思えた。
つまり青は映の理想を具現化した存在であり、このゲーム世界での彼の操作用キャラクター……。
そう思い至ると同時に、
『このゲームが完成したら、一緒にやろう』
あのとき映が言う筈だった台詞が、今、はっきりと見えてくる――
『晶は、嬉しかったんだね』
そうだ、いつだって映は、わたしの気持ちを理解しようとつとめ、敏感に察知してくれていた。
いきなり告白なんかしてくるわけがなかったのに、なにをわたしは慌てて家を飛び出て車に轢かれたのだろう。
今さらながらに己の馬鹿さかげんを笑うわたしの傍らで、青がロケットランチャーを使って周囲のゾンビの殲滅作業を行っていく。
――そうしている間に数分の時が流れていった――
しかし依然としてわたしは「人間」のまま。
ゾンビ化の兆候すらない。
その理由はただ一つ。
青が言うようにわたしもまたこの世界にとって「異端」。
あるいは「特別」な存在だからに他ならない。
「さあ、家に戻ろう。黒が心配して待っている」
作業が一段落ついたのか青が再び伸ばしてきた手を、わたしは勢い良く払いのける。
「……なんなのよそれ、なにもかも台無しじゃない……」
わたしまでチートキャラだったなんて、がっかりを通り越して笑えてくる。
「え? どういう意味? 晶」
「青――ううん――映、あなたには分からないでしょうね。同じ異端同士でも、わたし達は決定的に違うのだから」
――現実ではとっくに分かっていたことを、改めてこの世界でも思い知らされる――
自分よりも他人の痛みを気遣う映は、単に頭が良すぎるだけで、誰よりも純粋で善良な「人間」そのもの。
逆に自分の感情や楽しみが優先で、他人との共感性が低く、つね破壊衝動にとらわれている、わたしこそが「化け物」なのだと。
同じ異端でも、白と黑、光と闇ほどに違う、真逆の存在。
――映――あなたは人として優れすぎていて、わたしは劣り過ぎていていたのだ――
幼い頃からずっとわたしは現実世界をクソだと思っていた。
ゾンビゲームの世界のほうが好きだった。
でも結局どちらも本質は変わらない。
ただ価値観が引っくり返り、化け物の立場が入れ替わっただけ。
どこまでいってもわたしはたった一人。
――ううん――
『まさにお前は俺のために作られた女……』
最後だけは、全然違った。
血まみれの保を見下ろし、初めてわたしの瞳から熱い涙がこぼれ落ちる。
今や唯一の仲間は死に、この世界に残ったのは多数派であるゾンビと、わたしを守る超越者のみ。
「やっぱりこれ、クソゲーだわ」
噛みしめるように言うと、わたしはさっと自身の頭に銃口を当て、青に止められる前に素早く引き金を引く。
すっかり面白みを失くした、この退屈なゲームからログアウトするために――
ズガァァーン!!
盛大な銃声が頭の中に響き渡り、脳みそと意識がはじけ飛んだ――刹那――いっきに様々な感情がこぼれだし――自覚していなかった想いまでもが溢れてくる――
――ああ、わたしは、本当は寂しかったのだ――
母に存在を無視されることが。
妹か弟がこの世から消えたことが。
父子家庭の一人っ子でいることが。
誰とも共感し合えず、仲間がいないことが。
だから嬉しくて、幸せだった。
映。
同じ孤独を抱えるあなたに出会えたことが。
そして同じぐらい悲しかった。
あなたが世界で一番、わたしから遠い存在であることが――
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