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第五話「現実はクソだ」と少女は思っていた
Chapter10、マンションからの脱走
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廊下へ出るとまっすぐ非常口へと向かい、避難用の外階段へと出て、下から上ってきているゾンビを打ち倒しながら駆け下りていく。
「なあ、晶、ここから無事に脱出したら俺と結……」
「止めて、保! 変なフラグ立てないで!」
その時、まるでわたし達の会話を邪魔するように、巨大ゾンビの拳がこちらへと迫ってきた。
「――危ないっ、晶っ!」
鋭い叫びと同時に強い力で背中を押される。
どちゃっと、蛙のような格好で一気に半階下の踊り場まで落とされたわたしは、なんとか手と膝の痛みを堪えて間を急いで起き上がった。
「大丈夫、保……!?」
ばっと見上げると、覆いかぶさるゾンビを払いのけながら、保が血まみれでサブマシンガンを連射していた。
「立ち止まってないで、早く行け!」
「……っ!?」
声に押されるように慌てて走り出す。
幸いというのも変だが、巨大クリーチャーの材料になったのと建物が揺れたせいで、マンションの壁際に積み重なっていたゾンビの山はかなり崩れて低くなっていた。
保がマシンガンを撃つ合間に手榴弾を投げつけ、地面に通り道を作る。
「俺が先に地面に降りてお前の壁になるから、ぴったり後からついてこい」
「壁って……?」
「実はさっきのであちこち噛まれちまってな、俺のゾンビ化はもう避けられない」
「……そんなっ……!?」
「こうなったのはすべて俺のせいだ。せめてお前だけでも無事に逃がしたい」
悲壮な決意を告げた保は、さっそく先行して地面に降りると、サブマシンガンを撃ちながらゾンビの群れへとつっこんでいく。
わたしも怜の形見であるアサトライフルを持って、間を置かずにあとに続いた。
巨大ゾンビのほうは、まるで本能のまま動いているかのように、いまだにマンションを殴り続けていた。
――ゾンビの群れさえ突破すれば、あるいは――
そんな希望的観測を抱いていたとき。
建物から通りへ出て数十メートルの地点で、保が急にガクッと膝を折った。
「……クソっ……!?」
「どうしたの?」
「……俺のことは構わず……晶っ、ここからはお前一人で行け!」
苦しげに言った保の口からは、だらだらと絶え間なく鮮血がこぼれ出していた。
先刻の怪物の一撃で深手を負ったらしい。
「保っ!」
「……早く……行けっ!」
最期の気力を振り絞るように叫んで保は手榴弾を投げつけると、そのまま前のめりに地面に倒れこんだ。
――言われたようにここは一刻も早く逃げるべきだし、これ以上この場に留まるのは自殺行為だ。
そう分かっていながらもその場に留まり、アサトライフルを撃ち続ける――
わたしの理性ではなく感情が、保を置いて逃げることを許さなかった。
「……保、わたしがあなたの最期を見届けて、止めをさしてあげる!」
決意をこめて誓った時、ふと頭上からしていた打撃音が止み、代わりにズシンと近くで地響がした。
反射的に振り仰ぐと、巨大クリーチャーが腕をだらんとさせ、足下にいるわたしをじっと見下ろしていた。
試しに左右移動してみると、一拍遅れで瞳が追うように動く。
――視力は悪いようだが間違いなく見えているらしい――
判断するやいなやわたしは走り出し、近くに見える巨大な足を狙ってアサトライフルを連射する。
動きを封じれば勝機はあるはずだ。
そう信じて、巨大怪物に踏み潰されないように走り回りながら、ひたすら銃を撃ち続ける。
と、なにかに躓いた拍子に、片足が重りがついたように動かなくなった。
「痛っ」
直後、足首に激痛が走り、見ると地面に横たわっていたゾンビに足を掴まれ、噛みつかれていた。
皮肉なことに、巨大ゾンビの足を撃つのに夢中になって、自分の足元がお留守になっていたらしい。
ゾンビを足から振りほどこうとしている間に、わたし目がけて巨大クリーチャーの腕が容赦なく振り落とされる。
一目で除けきれないと悟り、「終わり」だと諦めて目を瞑った――次の瞬間――
「なあ、晶、ここから無事に脱出したら俺と結……」
「止めて、保! 変なフラグ立てないで!」
その時、まるでわたし達の会話を邪魔するように、巨大ゾンビの拳がこちらへと迫ってきた。
「――危ないっ、晶っ!」
鋭い叫びと同時に強い力で背中を押される。
どちゃっと、蛙のような格好で一気に半階下の踊り場まで落とされたわたしは、なんとか手と膝の痛みを堪えて間を急いで起き上がった。
「大丈夫、保……!?」
ばっと見上げると、覆いかぶさるゾンビを払いのけながら、保が血まみれでサブマシンガンを連射していた。
「立ち止まってないで、早く行け!」
「……っ!?」
声に押されるように慌てて走り出す。
幸いというのも変だが、巨大クリーチャーの材料になったのと建物が揺れたせいで、マンションの壁際に積み重なっていたゾンビの山はかなり崩れて低くなっていた。
保がマシンガンを撃つ合間に手榴弾を投げつけ、地面に通り道を作る。
「俺が先に地面に降りてお前の壁になるから、ぴったり後からついてこい」
「壁って……?」
「実はさっきのであちこち噛まれちまってな、俺のゾンビ化はもう避けられない」
「……そんなっ……!?」
「こうなったのはすべて俺のせいだ。せめてお前だけでも無事に逃がしたい」
悲壮な決意を告げた保は、さっそく先行して地面に降りると、サブマシンガンを撃ちながらゾンビの群れへとつっこんでいく。
わたしも怜の形見であるアサトライフルを持って、間を置かずにあとに続いた。
巨大ゾンビのほうは、まるで本能のまま動いているかのように、いまだにマンションを殴り続けていた。
――ゾンビの群れさえ突破すれば、あるいは――
そんな希望的観測を抱いていたとき。
建物から通りへ出て数十メートルの地点で、保が急にガクッと膝を折った。
「……クソっ……!?」
「どうしたの?」
「……俺のことは構わず……晶っ、ここからはお前一人で行け!」
苦しげに言った保の口からは、だらだらと絶え間なく鮮血がこぼれ出していた。
先刻の怪物の一撃で深手を負ったらしい。
「保っ!」
「……早く……行けっ!」
最期の気力を振り絞るように叫んで保は手榴弾を投げつけると、そのまま前のめりに地面に倒れこんだ。
――言われたようにここは一刻も早く逃げるべきだし、これ以上この場に留まるのは自殺行為だ。
そう分かっていながらもその場に留まり、アサトライフルを撃ち続ける――
わたしの理性ではなく感情が、保を置いて逃げることを許さなかった。
「……保、わたしがあなたの最期を見届けて、止めをさしてあげる!」
決意をこめて誓った時、ふと頭上からしていた打撃音が止み、代わりにズシンと近くで地響がした。
反射的に振り仰ぐと、巨大クリーチャーが腕をだらんとさせ、足下にいるわたしをじっと見下ろしていた。
試しに左右移動してみると、一拍遅れで瞳が追うように動く。
――視力は悪いようだが間違いなく見えているらしい――
判断するやいなやわたしは走り出し、近くに見える巨大な足を狙ってアサトライフルを連射する。
動きを封じれば勝機はあるはずだ。
そう信じて、巨大怪物に踏み潰されないように走り回りながら、ひたすら銃を撃ち続ける。
と、なにかに躓いた拍子に、片足が重りがついたように動かなくなった。
「痛っ」
直後、足首に激痛が走り、見ると地面に横たわっていたゾンビに足を掴まれ、噛みつかれていた。
皮肉なことに、巨大ゾンビの足を撃つのに夢中になって、自分の足元がお留守になっていたらしい。
ゾンビを足から振りほどこうとしている間に、わたし目がけて巨大クリーチャーの腕が容赦なく振り落とされる。
一目で除けきれないと悟り、「終わり」だと諦めて目を瞑った――次の瞬間――
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