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第五話「現実はクソだ」と少女は思っていた

Chapter 7、映の苦悩と晶の願望

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『……ごめんね、俺もホラーが苦手じゃなかったから、一緒にやってあげるんだけど……』
『いいのよ、そんなの』
『正直に言うと怖いというより、なんだかゾンビや化け物をみてると自分を見ているみたいで、気持ち悪くなってしまうんだ』
『え?』
『俺は生まれたときから、周囲から浮いている異端の存在だったから……。両親が離婚したのも、俺がこんなだからだし……』

 映はわたしに、数学者だった父が何年も取り組んでいた数式を良かれと思って自分が証明してみせたせいで家庭が崩壊した、七歳の頃のエピソードを話してくれた。

『人の心が理解できない俺は欠陥品なんだ』
『……それを言うなら、わたしもそうだよ。集団行動は苦手だし、他人の気持ちが分からなくて、よく心が冷たい人間だっていわれる』
『晶は、冷たくなんてないよ!』
『別に気をつかってくれなくていいの。自覚あるから』
『本気で言ってるんだよ。現に俺は晶といると心が癒される。きっと晶自身も周りの人間も気がついてないだけなんだ。晶の心の温かい部分に』

 わたしは映の言葉を笑い飛ばし、

『自分で自分の心に気づけないなんてことある?』

 なんて返しつつ、ゆいいつ映とだけは、ただ一緒にいるだけでも楽しいのは、容姿に惹かれている以上に、同じ「異端者」同士だからかもしれないと思えた。

 なぜなら、他の大勢とは違い、映だけはわたしに決して「害」を与えないと信じられる。

 だから決してわたしも彼だけは傷つけない。

 きっと、人一倍繊細な映は、わたしが欲望のままに求めれば、容易に傷つき、壊れてしまうから。

 ――どんなに惹かれても、彼にだけは手を出してはいけない――

 そう心に誓っていたのに、だんだんお互いの距離が縮まっていき、いつしかわたしに接する映の態度に、親しみ以上の「愛」が感じられるようになっていた。

 密かに危機感をつのらせながら、破壊するぐらいなら、いっそ彼から離れようと心に決めていた。

『もしもこのゲームが完成したら……』

 そうだ、わたしはあの時、このクズ過ぎる自分から可愛い義弟を守りたくて逃げたのだ――

 万が一にも、好意を口に出されたら、きっと自分の感情を抑えきれなくなる。

 いつだって、恐れながら、期待していた。

 映にずっと触れたかった。
 あの美しい手にこうして身体中を撫で回されたかった。

 わたしは薄く瞳を開き、肌を這い回る保の大きな手を取り、口元に運んで指先を舐める。

「晶、目を覚ましたのか?」
「うん」

 笑って頷くと、少し眠って体力を回復させたわたしは、遂げられなかったぶんの想いもこめ、保の肉体に思い切り己の欲望をぶつけていった――


 やがて白々と夜が明け、開きっぱなしのカーテンから陽が差し込んできた頃、保が伸びをしながら起き上がる。

「コンドームの箱が今ので空になった。こんなに一晩でやったのは生まれて始めてかも」
「わたしも……」

 山頂のホテルのときの四倍。これまで一番した伶とのときにくらべても二倍以上はやってしまった。
 もしも性交回数とゾンビ数の相関関係があるなら、今頃外は物凄いことになっているだろう。

「さて、いよいよ、実験結果があきらかになるな」

 わたしは保が差し出してきた手を掴んで起き上がる。

「そうね」

 ほぼ結果が分かっているとはいえ、それでも窓に向かって歩いていく間、異様に胸がどきどきとした。
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