【完結】君に捧げる異世界ゾンビゲーム

黒塔真実

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第五話「現実はクソだ」と少女は思っていた

Chapter 4、ショッピングセンター

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 ショッピングセンター・ニャオンモールは、マンションからバイクで三分もかからない距離にあった。
 店のまん前にバイクを停め、ガラスの二重扉ごしに店内を覗くと、徘徊するたくさんのゾンビの姿が見える。

「これは……倒しがいがありそうね」
「だな」

 ここに来る前に保行きつけのガンショップに寄ってきたので、かつてないほど装備はばっちり。弾薬ベストを着たうえに換えの武器と弾が満載のバッグパックを背負っていた。
 久しぶりに胸が弾む。

「ねえ、わたしが先に入っていい?」
「おう」

 了解を得たわたしはさっそく銃を構え、ガラスが大きく割れた箇所から中へとつっこんでいくーー

 入ってすぐの壁に店内図があり、軽く確認したところ、売り場は二階までで三階と屋上は駐車場になっているようだった。

「わたしは上の階に行くわね」
「待てよ、さすがにゾンビの数が多いから、単独行動は危険だ」
「じゃあ、ついてくれば?」

 さっさと言い捨て、止まっているエスカレータを駆け上がりつつ、ショットガンを連射して進行方向のゾンビを倒してゆく。
 そのまま二階のフロアに出ても足を止めず走り続け、ひたすら銃を撃ちまくっていった。
 まさに後ろから保が援護してくれるおかげで可能な超ハイスピードだ。

「おい、晶、飛ばしすぎ」

「あははははは」

「今日はいつもに増して楽しそうだな」

 追いついてきた保に、わたしはドンと後ろ向きで身体をぶつける。

「うん、今まで生きてきたなかで一番楽しいかも!」

 厳密にいうと、ここは仮想世界で現実世界の記憶は車に轢かれたところで終わっているから、生きてるという表現は間違っているかもしれない。

 でも、楽しいものは楽しい!

 笑いながら再び走り出したわたしは、非常階段を探して屋上まで一気に駈け上がり、端からゾンビの頭を吹き飛ばしていった。
 しかし駐車場にいるゾンビの数は少なく、すぐに駆逐し終わって二階へ舞い戻る。
 当たり前かもしれないが、下の階ほどゾンビが多いみたいだ。


「ああ、あんなにいたゾンビがもういない!」

 ーーいつだって、楽しい時間は経過するのが早いーー

 二人だと倍速でゾンビを狩れるものだから、あっという間に最後の一階からも歩き回るゾンビの姿が消えしまっていた。
 わたしは名残惜しい思いで、床に倒れてピクピクしている一体のゾンビに止めをさす。

「意外とあっけなかったわね」
「そうか? 正午ぐらいから始めて、もう三時近くだぞ」
「ふうん、意外と時間がかかったのね。じゃあ、本格的に食料を運ぶのは明日にする?」
「いや、頑張って今日中に運んでしまおう」
「うーん、でもわたしのバイクは超小型であんまり積めないし、何往復かかるか分からないから、今日中は無理じゃない?」
「いいや、距離が近いし百往復だって余裕だろ! なんだったら晶は休んでいろよ。俺が意地でも今日中に終わらせてみせるから!」
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 休んでていいなんて願ってもない言葉だ。
 肉体労働が苦手なわたしは、素直に荷物運びを保に任せることにした。


 最初の荷物をバイクに積んでマンションに戻り、エレベーターが止まっているので階段で七階まで上っていく。
 ようやく辿りついた4LDKの住居の共有スペースは、モデルルームのようにすっきりした空間で、運んできた荷物を入れやすかった。

「晶っ、俺の部屋はこっちだから、搬入作業を終えるまでに支度して、ベッドで待ってろよ」
「……はい、はい……」

 生返事したわたしはさっそく携帯食と水を持ち、黒とミリタリーカラーが多用された男臭い保の個室へと移動した。
 部屋に入ると、まずは黒のかけ布団カバーの上に溜まった埃を払い、ベッドの上に座ってから、近くの机の上に積んであったゲームケースを手に取って眺める。
 アクションアドベンチャーゲームのタイトルが多く、中にはわたしの好きなゾンビ・ゲームもあった。




「晶、運び終わったから、起きろ」
「ん?」

 眩しい光と声が降ってきて目を開くと、寝ているベッド脇にヘッドライトをつけた保が立っていた。
 どうやらいつの間にかうたた寝していたらしく、室内は真っ暗だった。
 腕を掴まれて引っ張り起こされながら、ぼやけた頭で保に質問する。

「今、何時?」
「もう夜中だ。それより、早くリビングに行って、チェックしろよ」
「うん」

 移動した20畳ほどの広さのリビングは、バッテリーを電源にしたライトで明るく照らされていた。
 床の半分ぐらいの面積が保存のきく食糧と、飲み物の入った箱で埋められている。

「どうだ?」
「いいんじゃない?」

 頷いたとたん、がばっと保に身体を抱き上げられた。

「じゃあ、約束だから、いいな?」
「……うん」

 個室へと移動しながら、待ちきれないように熱い唇を重ねてくる保の首に腕を回し、わたしも積極的にキスを返した。

 ーーいよいよ、駄目押しの実験の始まりだったーー

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