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第四話「こんなゾンビだらけの世界なんてもう沢山だ!」と彼はわたしに銃口を向けた
Chapter 5、お姫様抱っこと、慰め合った夜
しおりを挟む究極の二択を突きつけられた緑は、衝撃を受けたように大きく目を見張ったあと、血のついた爪に視線を落とし、一言。
「……姫抱っこ……」
「はっ?」
反射的に怜が聞き返す。
「あんたか圭が、お姫さま抱っこしてベランダまで運んでくれるなら、落とされてやってもいい」
ーーって!?
簡単に言ってるけど相当キツいミッションだ。
繊細な圭にはとうてい無理に思える。
怜は覚悟を決めたように頷く。
「……わかった。俺が運ぶ」
ーーちょっ、大丈夫なの?
わたしは内心ハラハラしながら、緑に近づいていく怜の姿を凝視する。
怜は先にベランダの窓を開いてから、屈んで緑の背中に片腕を回し、もう一方の腕を膝の下に差し入れた。
そして両足を踏ん張り、見事お姫さま抱っこで緑を持ち上げると、ふらつきながらもベランダへと運んでゆく。
最期の刻が迫っているというのに、こういうシチュに憧れでもしていたのか、緑はうっとりしたように怜の顔を見上げていた。
まさに王子に運ばれるお姫さまの気分なのかもしれない。
無事にベランダの手すりまで到着した怜は、いかにも限界が近そうな苦しげな表情と声で「緑、いくぞ」と最後の声をかけた。
「さようなら緑」
わたしもベランダについていって、一応お別れを言う。
圭はショックで口もきけないのか、窓の近くで蒼ざめて震えていた。
いよいよ、怜が緑の身体を持ち上げ、手すりの外側に突きだした手を、バッ、と離す。
果たして、そのまま落下していくかのように見えた緑だが、すんでで手を振り上げ、ガッ、と怜の片腕を掴んでぶら下がった。
「……っ!?」
慌てて駆け寄ったわたしは、怜の身体が持ってかれないように腰に飛びつく。
「離せ、緑っ……!」
「ふふっ」
離すまでもなく、緑の腕は重すぎる自身の体重に長くは耐えられなかったようだ。
ずるずると両手が怜の手首を滑り、彼女の巨体は地上へと落ちていったーー
さすがのわたしもその晩は、緑との共同部屋に戻って一人で寝たい気分ではなかった。
最悪の役目を終えた怜だけではなく、わたしにもお慰めが必要だったのだ。
だから久しぶりに怜の部屋を訪ずれ、こちらからベッドに誘った。
そして真っ暗な室内で憂鬱な気持ちを振り払うように、怜と激しく抱き合ってから眠りについた。
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