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第五章

宴席での交渉

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 レナード王子に伴なわれて入った宴席会場の広間には、色とりどりの豪華料理が並べられた大テーブルがあり、すでに王族二人が席についていた。

「あなた達がエルにフィーですね。キルアスから話は全て聞いています。
 不詳の息子を助けてくれたことに深く感謝します。ありがとう。
 留守の夫にかわりにあなた達を歓迎します。
 どうぞ今夜は楽しみ、好きなだけ城に滞在していって下さい」

 赤い髪と緑の瞳のラディア王妃は、物言いのはっきりした、いかにも意志の強そうな女性だった。
 横に座る息子のカークは王子らしい緋色のマントに金色の軍服を着て、長い脚を組んで憮然としている。

 着席した私達に真っ先に礼をいったあと、王妃は次にコーデリア姫に話しかけた。

「コーディーもぜひゆっくりしていってちょうだい。近日中にエストリアのラファエル殿下もこちらへ遊びにいらっしゃるそうだから、少なくともそれまでは滞在して欲しいわ」

「……まあ、本当ですの?」

 まさに寝耳に水の言葉だ。

「四カ国同盟の絆を深めるために、次世代の王族同士で親交を深めたいそうよ。
 あの方はカーク、お前と違って、容姿端麗、頭脳明晰にして穏やかで思慮深く、生まれながらに賢王の資質を持った素晴らしい方だわ」

 横で話を聞きながらコーデリア姫と私は微妙な表情になる。
 王妃の言う通りラファエルは、見た目は柔らかな光のベールをまとったような神々しい美しさだが――ひとたび闇の人格になると残虐極まりない。
 おかげで「恋プリ」プレイ時には、色んなバリエーションで殺されたんだよね。
 他の男性をもう見ないようにと目玉を抉られたり、好意の言葉を吐かないように舌をちょん切られる。
 別の攻略キャラとのデート中に出くわせば八つ裂きに、抱き合っている場面を見られたら生皮を剥がされる、等々――ラファエルの殺し方は最高にえぐかった。

 際どい描写は映像はなく文章表現だけだったけど、15禁ゲームじゃなく18禁にしてもいいぐらいな残酷場面が満載という。
 スプラッタが苦手な私にはバッドエンドを回収するのが結構きつかった覚えがある。
 ラファエル・ルート自体は、彼の見た目の麗しさと言葉の甘さと溺愛が、大好きだったんだけどね……。
 バッドエンドと他のキャラ・ルートで出会うラファエルが怖すぎたのが、ヤンデレ好きなのにいまいち彼にはハマりきれなかった理由かもしれない。

「ラファエル殿下はいつ頃いらっしゃるんでしょうか?」

 コーデリア姫が緊張した面持ちで尋ねる。

「来週の半ば頃に来たいと手紙には書いてあったわ。姫ともぜひ語らい合いたいそうよ」

「それは嬉しいこと……」

 口ではそう言いながらも、ラファエルがやってくる来週までにラディアを発とうとコーデリア姫が決意していることは疑いようがない。

「フィー、例のパジャマ・パーティーは今夜でいい?」

 さっそくその事で相談したいと思ったのか、隣の席の私に話しかけてくる。

「ちょっと確認するから待って……。
 ねぇ、お兄様、今夜コーデリア姫の部屋に泊まってもいい?」

 私はコーデリア姫に返事をする前に、横でキルアスに酒を注がれているエルファンス兄様の腕を掴み、上目使いにお伺いを立てる。

「冗談だろ? 駄目に決まっている」

 するとあっさり却下されてしまった。
 だけどここで簡単に引き下がるわけにはいかない。
 大事な話もあるけど、一度でいいから女同士で夜通しおしゃべりしてみたい!

「お願い お兄様。どうしても泊まりたいの」

 しかし、お兄様はまるで取りつくしまがなかった。

「何度言っても駄目なものは駄目だ。わがままも大概にしろ」

 わがままとまで言われショックを受けて固まる私に対し、

「ちょっとエル、あなたのフィーに対する束縛は正直異常よ?」

 コーデリア姫は敢然とエルファンス兄様を批難した。

 とたんに睨み合う二人の間に挟まれた私は、喧嘩が始まりそうな雰囲気に困ってしまい、お兄様の腕をぎゅっと掴んで涙ぐんでしまう。
 そんな様子を見て眼鏡が曇るのを懸念したのか、お兄様は「泣くな」と焦った声を出し、私の頭を抱き寄せてなだめるようなキスした。

 ところがかえってますます悲しくなってしまい、思わずしゃくりをあげて泣いていると、

「しょうがない奴だな……今夜だけだぞ?」

 とうとう盛大ため息とともにエルファンス兄様が折れた。

 喜びのあまりお兄様の胴体に抱きつくと、耳元で甘くでささやかきかけられる。

「フィー、お願いをきいてやるんだから分かっているだろう? 先払いだ」

 言われたとたん激しく胸がどぎまぎしてきて、コーデリア姫に差し出された祝杯のワインの味がまったく分からなかった。

 その後、カークはひたすら一人で飲んだくれ、エルファンス兄様はキルアスとレナード王子に話しかけられ続けていた。
 私もコーデリア姫と王妃を交えての女同士の会話に花を咲かせた。

 やがて宴もたけなわな頃、エルファンス兄様が早めに退席するお詫びを言い――腰を抱かれて立ち上がった私は、支払いの時間の訪れを悟る――

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