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第四章

浴室の攻略会議

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「そうよ。だからこそ筋書きを無視してエルファンスやアーウィン、さらにセイレムまでもがあなたに惚れているのよ。
 色々試して検証してみたけど、シナリオにも設定にも強制力は一切無いわ。
 だから、ガウス帝国さえ滅亡しなければ、悪事を働かず、ラファエルとも出会わないあなたなら、簡単に死亡エンドを回避出来た筈なのよ。
 ――これからはそれを踏まえて安心して生きていくがいいわ……」

 今更そう言われても色々手遅れな気もするんだけど……とりあえず処刑エンドにはならないと知れて一安心だった。
 それにしても、コーデリア姫は生まれた時から前世の知識があったなんて凄過ぎる!
 もしかしたらリナリーもそうなのかしら? 

 そう思って疑問を口にしたところ、コーデリア姫は明快な返事をくれた。

「リナリーは7歳の時に前世の記憶を思い出したみたいよ。
 私とリナリーはハトコで、加えて、あなたも知っての通り親友設定になっているから、幼い頃から会って話す機会が多かったの」

「そんなに早くから……!?」

 私の11歳は二人よりだいぶ遅れての覚醒のようだった。

「……その分と言っては何だけど、私にもハンデがあって……実は前世で恋プリを全クリしないうちに、死んでしまったの……。
 リナリーの場合は全てのキャラをクリアはしているんだけど、エンドやスチルをフルコンプしていなかったそうよ。
 ――あなたはどう?」

 訊かれて私は胸を張って自慢にならない自慢をする。

「私は……全クリ・フルコンプ、好きなキャラを35周ばかりしていました……!」

「35周って、凄いわねー! 間違いなく、ゲーム知識は三人の中ではあなたが一番よ。
 これからは、分からないことはあなたに聞くわね!」

「私なんかで良ければ」

 褒められて思わず照れてしまう。

「その知識を生かしたからこそ、きっとあなたは二人の攻略キャラを落とすことが出来たのね!
 初印象と違って、なんだかあなたがとっても頼もしく思えてきたわ。
 実は私、ガウス帝国のキャラはクリストファーしかやっていないのよ。
 一番、悪いことには、カーク・ルートもやっていないの。
 ぜひとも、あなたには力になって欲しいわ。
 その代わり、この世界の知識と情報なら何でも聞いてね!」

「は、はい、こちらこそ!」

 珍しく人に頼られ、なんだか嬉しくなってくる。

「さし当たってはカークをどうやったら攻略出来るか教えて協力して欲しいの」

 話の流れついでに、出会った時から気になっていたことを訊いてみる。

「コーデリア姫はカーク・クラフトが好きだから婚約しているの?」

 対するコーデリア姫の答えは、彼への積極的な態度とは裏腹にクールなものだった。

「別に好きじゃないわ。全く好みでもないし。
 私がこのゲームで一番好きなのはクリストファーで、次がサイラスだもの。
 知的でクールでやや毒舌でありながら、デレるキャラが大好きなの」

 知的、クール、全てカークとは相反している!!

「じゃあ、なぜカークを攻略したいの?」

 心からの疑問だった。

「なぜって、だって、あなたもこのゲームをやったなら分かるでしょう?
 このゲームには戦争シナリオがあるから、あなたと違って私とリナリーは国の滅亡=死亡エンドを迎える確率が高いのよ。
 だから国力を高める為に他国の跡継ぎと政略結婚するのがベターなんだけど、ガウス帝国のアーウィンを落とすのはリナリーの方が有利そうだから譲ったの。
 そうすると、残りの攻略対象者で世継ぎの王子と言ったら、カークとエストリアのラファエル王子だけでしょう?」

「でも、それでどうしてカークを選んだの?
 ラファエルってカークよりも人気があるキャラだし、このゲームの美形度ランキングでも1・2位を争っていた気がするんだけど」

 ちなみに彼と容姿の美しさで競っているのはセイレム様である。

「フィー、あなた本気で言ってるの? ラファエルが争っているのはそれだけじゃないでしょ!
 ラファエルはこのゲーム1のヤンデレで死神と呼ぶべきキャラじゃない!
 それも彼のルートに入らなくても好かれただけで確実に死亡ルートに入るという、有りえないレベルの!
 まだ監禁大神官セイレムのがマシよ!
 攻略する前にあんな死神男を狙いにいったら、殺されてしまうわ!」

 監禁大神官なんてセイレム様ったら随分な言われよう……。

「確かにラファエルには私もゲームしてて100回以上殺されたかも……」

 私の発言にコーデリア姫は盛大に噴出した。

「ぶっ――100回って、ちょっとやり込み過ぎなんじゃないの!
 ――とにかく、国の滅亡エンドの次に私とリナリーが回避しないといけないのはラファエルに殺されることなのよ。
 リナリーは女好きは絶対嫌だとカークも嫌がって、ガウス帝国のアーウィン殿下を狙いに行き、それが叶わない場合は、ラファエル対策にセイレムを攻略する気だと手紙には書いてあったわ。
 私もアーウィンをリナリーに譲ったらカークが次にベターな選択で、それが駄目ならキルアスってところだったの。
 騎馬民族も戦力としてはかなり美味しいから、彼と結ばれても戦争シナリオで役に立つわ」

 そうか、私だけじゃなく、彼女達も自分達の死亡エンドを回避すべく、努力を積み重ねてきたのか。
 私は長い会話にお風呂で茹りそうになりながら、コーデリア姫の青い瞳を感慨深く眺めた。

「とにかく、頼もしい新たな転生者の仲間に出会えて心強いわ。
 私とリナリーは、自分達が死なないために同盟を組んでいるの、あなたも今日からその一員に加わってくれるわよね?」

 言いながらコーデリア姫は手を差し出してきた。

「?」

「握手よ!」

「あ!」

 あわててコーデリア姫の手に自分の手を重ね、がっしりと握り合わせる。

「私で良ければ、お仲間に加えてください」

「これから世界平和をかねた戦争回避の戦略を練ることは勿論、そのための恋の攻略とラファエル対策など、やるべきことはたくさんあるわ!
 当座は私とリナリーの恋に協力して貰えると有りがたいわ!」

 リナリーの恋は機会があればだけど、コーデリア姫の恋にはぜひとも協力したい。

「私に出来ることなら喜んで」

「それで、あなたは、しばらくラディアにいるの?」

「ううん、ラディア城へ寄って、それからあちこち諸国を旅行しようという話になってて……」

「じゃあ、私と一緒に行動しましょう!」

「……うん、お兄様に訊いてみる……」

「お兄様にって……フィーネ、何を呑気なことを言っているの? 
 あなたは今ガウス帝国を出ているのよ? この危険さが分からないの?」

「危険さ?」
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