喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

文字の大きさ
上 下
90 / 117
第四章

浴室の攻略会議

しおりを挟む
「そうよ。だからこそ筋書きを無視してエルファンスやアーウィン、さらにセイレムまでもがあなたに惚れているのよ。
 色々試して検証してみたけど、シナリオにも設定にも強制力は一切無いわ。
 だから、ガウス帝国さえ滅亡しなければ、悪事を働かず、ラファエルとも出会わないあなたなら、簡単に死亡エンドを回避出来た筈なのよ。
 ――これからはそれを踏まえて安心して生きていくがいいわ……」

 今更そう言われても色々手遅れな気もするんだけど……とりあえず処刑エンドにはならないと知れて一安心だった。
 それにしても、コーデリア姫は生まれた時から前世の知識があったなんて凄過ぎる!
 もしかしたらリナリーもそうなのかしら? 

 そう思って疑問を口にしたところ、コーデリア姫は明快な返事をくれた。

「リナリーは7歳の時に前世の記憶を思い出したみたいよ。
 私とリナリーはハトコで、加えて、あなたも知っての通り親友設定になっているから、幼い頃から会って話す機会が多かったの」

「そんなに早くから……!?」

 私の11歳は二人よりだいぶ遅れての覚醒のようだった。

「……その分と言っては何だけど、私にもハンデがあって……実は前世で恋プリを全クリしないうちに、死んでしまったの……。
 リナリーの場合は全てのキャラをクリアはしているんだけど、エンドやスチルをフルコンプしていなかったそうよ。
 ――あなたはどう?」

 訊かれて私は胸を張って自慢にならない自慢をする。

「私は……全クリ・フルコンプ、好きなキャラを35周ばかりしていました……!」

「35周って、凄いわねー! 間違いなく、ゲーム知識は三人の中ではあなたが一番よ。
 これからは、分からないことはあなたに聞くわね!」

「私なんかで良ければ」

 褒められて思わず照れてしまう。

「その知識を生かしたからこそ、きっとあなたは二人の攻略キャラを落とすことが出来たのね!
 初印象と違って、なんだかあなたがとっても頼もしく思えてきたわ。
 実は私、ガウス帝国のキャラはクリストファーしかやっていないのよ。
 一番、悪いことには、カーク・ルートもやっていないの。
 ぜひとも、あなたには力になって欲しいわ。
 その代わり、この世界の知識と情報なら何でも聞いてね!」

「は、はい、こちらこそ!」

 珍しく人に頼られ、なんだか嬉しくなってくる。

「さし当たってはカークをどうやったら攻略出来るか教えて協力して欲しいの」

 話の流れついでに、出会った時から気になっていたことを訊いてみる。

「コーデリア姫はカーク・クラフトが好きだから婚約しているの?」

 対するコーデリア姫の答えは、彼への積極的な態度とは裏腹にクールなものだった。

「別に好きじゃないわ。全く好みでもないし。
 私がこのゲームで一番好きなのはクリストファーで、次がサイラスだもの。
 知的でクールでやや毒舌でありながら、デレるキャラが大好きなの」

 知的、クール、全てカークとは相反している!!

「じゃあ、なぜカークを攻略したいの?」

 心からの疑問だった。

「なぜって、だって、あなたもこのゲームをやったなら分かるでしょう?
 このゲームには戦争シナリオがあるから、あなたと違って私とリナリーは国の滅亡=死亡エンドを迎える確率が高いのよ。
 だから国力を高める為に他国の跡継ぎと政略結婚するのがベターなんだけど、ガウス帝国のアーウィンを落とすのはリナリーの方が有利そうだから譲ったの。
 そうすると、残りの攻略対象者で世継ぎの王子と言ったら、カークとエストリアのラファエル王子だけでしょう?」

「でも、それでどうしてカークを選んだの?
 ラファエルってカークよりも人気があるキャラだし、このゲームの美形度ランキングでも1・2位を争っていた気がするんだけど」

 ちなみに彼と容姿の美しさで競っているのはセイレム様である。

「フィー、あなた本気で言ってるの? ラファエルが争っているのはそれだけじゃないでしょ!
 ラファエルはこのゲーム1のヤンデレで死神と呼ぶべきキャラじゃない!
 それも彼のルートに入らなくても好かれただけで確実に死亡ルートに入るという、有りえないレベルの!
 まだ監禁大神官セイレムのがマシよ!
 攻略する前にあんな死神男を狙いにいったら、殺されてしまうわ!」

 監禁大神官なんてセイレム様ったら随分な言われよう……。

「確かにラファエルには私もゲームしてて100回以上殺されたかも……」

 私の発言にコーデリア姫は盛大に噴出した。

「ぶっ――100回って、ちょっとやり込み過ぎなんじゃないの!
 ――とにかく、国の滅亡エンドの次に私とリナリーが回避しないといけないのはラファエルに殺されることなのよ。
 リナリーは女好きは絶対嫌だとカークも嫌がって、ガウス帝国のアーウィン殿下を狙いに行き、それが叶わない場合は、ラファエル対策にセイレムを攻略する気だと手紙には書いてあったわ。
 私もアーウィンをリナリーに譲ったらカークが次にベターな選択で、それが駄目ならキルアスってところだったの。
 騎馬民族も戦力としてはかなり美味しいから、彼と結ばれても戦争シナリオで役に立つわ」

 そうか、私だけじゃなく、彼女達も自分達の死亡エンドを回避すべく、努力を積み重ねてきたのか。
 私は長い会話にお風呂で茹りそうになりながら、コーデリア姫の青い瞳を感慨深く眺めた。

「とにかく、頼もしい新たな転生者の仲間に出会えて心強いわ。
 私とリナリーは、自分達が死なないために同盟を組んでいるの、あなたも今日からその一員に加わってくれるわよね?」

 言いながらコーデリア姫は手を差し出してきた。

「?」

「握手よ!」

「あ!」

 あわててコーデリア姫の手に自分の手を重ね、がっしりと握り合わせる。

「私で良ければ、お仲間に加えてください」

「これから世界平和をかねた戦争回避の戦略を練ることは勿論、そのための恋の攻略とラファエル対策など、やるべきことはたくさんあるわ!
 当座は私とリナリーの恋に協力して貰えると有りがたいわ!」

 リナリーの恋は機会があればだけど、コーデリア姫の恋にはぜひとも協力したい。

「私に出来ることなら喜んで」

「それで、あなたは、しばらくラディアにいるの?」

「ううん、ラディア城へ寄って、それからあちこち諸国を旅行しようという話になってて……」

「じゃあ、私と一緒に行動しましょう!」

「……うん、お兄様に訊いてみる……」

「お兄様にって……フィーネ、何を呑気なことを言っているの? 
 あなたは今ガウス帝国を出ているのよ? この危険さが分からないの?」

「危険さ?」
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

目には目を歯には歯を!ビッチにはビッチを!

B介
恋愛
誰もいないはずの教室で絡み合う男女! 喘ぐ女性の声で、私は全て思い出した! ここは乙女ゲームの世界!前世、親の借金のせいで若くして風俗嬢となった私の唯一のオアシス!純愛ゲームの中で、私は悪役令嬢!! あれ?純愛のはずが、絡み合っているのはヒロインと…へ?モブ? せめて攻略キャラとじゃないの!? せめて今世は好きに行きたい!!断罪なんてごめんだわ!! ヒロインがビッチなら私もビッチで勝負!! *思いつきのまま書きましたので、何となくで読んで下さい!! *急に、いや、ほとんどR 18になるかもしれません。 *更新は他3作が優先となりますので、遅い場合申し訳ございません!

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...