喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

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第四章

新たな旅立ち

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   翌日、朝食の席で顔を合わせたカークはやっぱり不機嫌だった。

「いい加減にしてくれよ! 壁が薄いと言っただろう? おかげで二日連続寝不足だ!」

「新婚だからしょうがないんだ」

 朝食を食べながら、エルファンス兄様が悪びれずに言う。
 私は恥ずかしさに涙目でうなだれるしか無かった。

 早起きしたらしく、すでに朝食を終えてお茶を飲んでいたキルアスが、観察するように私達を眺めて尋ねる。

「そういえば気になっていたんだけど、フィーはエルをお兄様って呼ぶけど、二人はもしかしたら兄妹?
 あ、勘違いしないでね、だからと言って批判する訳じゃ無いんだ。良く見たら目の色が全く一緒だから……。
 帝国を出て来た理由もその辺にあるのかと思って……」

 さ、さすがに近親相姦疑惑は否定しとかねば!

「違うわ! 血は繋がっているけど、両親は別よ」

「そうか……という事は親戚なんだね。変なことを訊いて、ごめんね」

 謝るキルアスをいつもとは逆にカークが呆れたような顔で見る。

「一緒に育った兄妹で、普通そんな気になる訳無いだろう?」

 横でその言葉を聞きながら、義理の兄妹として一緒に暮らしていたことは黙っていようと心に誓った。

 キルアスはさらに私達の話題を引っ張った。

「二人は結婚式はどうするの? これからだよね?」

「国に帰ることがあったらその時にしようとは思っている」

 エルファンス兄様は答えながら、食事の手が進まない私を気づかうように、パンを千切って口の前へ差しだしてくる。
 人前で食べさせられるのは恥ずかしいので、一度受け取ってから口に入れる。

「その時は呼んで欲しいな」

「おう、俺も参列してやるぜ! ガウス帝国に一度行ってみたいし」

 結婚式を挙げられる日が来るかどうかはともかくとして、二人の気持ちは嬉しかったので素直に「ありがとう」とお礼を言った。


 朝食を済ませると、ラウルの店に別れを告げ、いよいよ王都へ向けて出発だった。
 馬の背の前側に乗せて貰い、後ろ側に座るエルファンス兄様に手綱を任せる。

「フィーって馬に乗れないのか?」

 たてがみのような赤い髪を靡かせ、並んで馬を走らせるカークが訊いてきた。

「……実はそうなの」

 前方を走っていたキルアスが亜麻色の髪を揺らして振り返る。

「もし良かったら教えてあげようか? 俺は歩き出すより先に馬に乗っていたんだ」

 キルアスの親切な申し出に、エルファンス兄様が不愉快そうな声をあげる。

「俺が乗れるんだから、フィーが習う必要はない」

「でも、エル……」

「ありがとう、キルアス。このままで大丈夫なの」

 だってこうして二人乗りする方が、お兄様の呼吸や温もりを感じていられるし、時々キスもして貰えるから、どう考えても自分で馬に乗れるよりずっといい。
 思考の基準が全て愛するエルファンス兄様になっている私は、今日も恋の微熱状態だった。



 ラディア王国の王都グランスールに到着するには、三つの町を通り過ぎなくてはいけない。
 私達はそれぞれの町で一泊づつして、三日の行程で到着する予定だった。

 荒野を抜けて街道に入ると、自慢気にカークが語る。

「この道は行軍用に敷かれたんだ」

 何でもラディア王国は辺境から王都まで整備された道で繋がっているらしい。

「ねぇ、最初に着く町はどんなところなの?」

 興味しんしんに尋ねる私に、キルアスが丁寧に説明してくれた。

「シャビールは市場や露天で賑わった交易の町で、異国の珍しいものが色々売っている楽しいところだよ。
 ただ、少しだけ治安が悪いから、荷物や馬から目を離さない様に気をつけた方がいいかな」

「異国の人間が多いと、どうも治安が乱れがちになるんだ」

 カークが王子らしい憂いた調子で言った。

「市場! 露天!」

 治安が悪いという部分は耳に入らず、二つの単語に私は反応した。
 前世の記憶を思い出してからというもの、自慢じゃないけど買い物すら行ったことが無いのだ。
 ずっと屋敷に引きこもっていた次は神殿での軟禁生活で、それが終わると皇宮に閉じこめられていた。
 ここに来て、やっと訪れた自由と外の世界の空気に、つい心躍らずにはいられなかった。

 セイレム様のおかげでたくさんお金も持っているし、色々買い物しちゃおう。

「嬉しそうだな。フィー」

 エルファンス兄様が耳元で話しかけたきた。

「うん。買い物するのが楽しみ」

「何を買うんだ?」

「食べ物とか、あと、動きやすそうな服も欲しいかも」

 それとお兄様と二人きりの時に着替える、可愛いナイティーが欲しいかも。

「いいや、動きやすい服より、このローブの方がいい。
 身体のラインが隠れるし、お前の豊満な胸が分かりにくいからな」

 エルファンス兄様の服選びの基準がどうも理解出来ない。

 そんなたわいもない会話をしているうちに民家がまばらに見えてきて、いよいよシャビールの町が近づいてきた。

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