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第三章

シナリオの始まり

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 アーウィンの自分への好感度を下げる。

 私はその作戦決行のために、アーウィンの訪問を日々離宮で待ち続けた。
 しかし重要な式典を控え、皇太子の彼は色々忙しいらしい。
 数日置きに短時間のみ私の顔を見にやってくる。
 そのたびに私は張り切って毒花的演技を試みる。
 その結果判明したのは、いつだかお兄様が言っていたように、アーウィンは元フィーネに対してアレルギーがあるみたい。
 無理に迫ってくるどころか怖気を奮ったような表情になる。
 好感度の下げ幅は不明だけど効果は上々のよう。

 もちろんアーウィンだけではなく、機会があるごとにセシリア様にも婚約解消について相談した。
 初めて私の意志を伝えた時、セシリア様はとても困惑した様子だった。

「以前、皇宮によく遊びに来いていた頃の言動から、てっきり私あなたがアーウィンを好きだと思って……」

「今は違うんです!」

 私は自分の気持ちと、どうにか婚約を無効にするようにアーウィンを説得して欲しいとお願いした。
 ところがセシリア様は、

「ごめんなさい。もうこうなってしまっては解消するのは無理だと思うわ。
 あの子は一度言い出したらきかないから」

 何度頼もうとも良い返事はくれなかった。

 おまけにクリストファーも多忙みたいで捕まらない。
 あれから一度も演技指導の続きを受けることはできなかった。

 そうこうしている間に、日にちはどんどん過ぎていき――気がつくとリナリー・コットが訪れる当日になっていた――

 ここにいたって「恋プリ」をやりつくした私に隙はない。

 到着の日にリナリー・コットが『庭園を散歩する』の選択肢を選ぶと、アーウィンとばったり出会うイベントへ。
 違う選択肢『書物庫に案内して貰う』を選ぶとクリストファーとの出会いイベントに入ることを知っていた。

 もう一つつけ加えるなら『首都を見て回る』の選択肢で、エルファンス兄様との出会いイベントに入ってしまう。

 お願いだから最後の選択肢だけは、絶対に選ぶのをやめてほしい!!!!

 とにかく、リナリーが普通に行動していたら、王道のアーウィン・ルートに入るのだと信じたい。

 私は朝からそわそわした気持ちで、二人の出会いを見届けるために薔薇園に張り込んでいた。
 現在私がいる薔薇が咲き誇るこの庭で、アーウィンとリナリーはロマンチックに出会うのだ。
 さすがに具体的な時間までは不明だけど。

 私が茂みの陰に隠れて息をひそめ、小一時間ほど待ち構えていると、

「何やってるんだ?」

 背後からイベントの当事者であるアーウィンがいきなり声をかけてくる。

「きゃっ!」

 驚いて飛び上がる。

「最近構ってやれなかったから、寂しくて俺を待っていたのか?」

 アーウィンはいたずらっぽく言いながら、動揺する私の前側に回り込んでくる。
 反射的に後ずさるとドンと背中に木の幹がぶつかった。
 すかさずアーウィンは私を挟んで両手をつき、さっと顔を近ずけてくる。

 突然の展開についていけずに硬直した私は、いつかのように目を開けたままアーウィンに唇を奪われていた。
 どうしても目を閉じることが出来なかったのだ。
 あまりにも、リナリーのことが気になりすぎて!

「……………!?」

 と、その時、薔薇のアーチの陰から、とうとう揺れる蜂蜜色のツィンテールが現れる。

 一国の王女がツィンテールってどうなの?
 というつっこみはさて置き、ふわふわした髪を揺らしながら愛されヒロイン、リナリー・コットが薔薇園にやってきた。
 私はアーウィンに口づけされつつ横目で凝視する。

 ほどなくリナリーは私達が潜む薔薇の茂みの前まで来て――さっさとそこを通り過ぎていった――

 完全にイベントスルーとか!!!!

「お前、こういう時は目を閉じろと何度言えば……」

 アーウィンのが苦言が虚しく響く。

 おまけにショックのあまり抜け殻状態になった私は、そのままアーウィンにしばらく唇を許し続けてしまった。
 お、お兄様ごめんなさいっ……!

 駄目だ……立ち直らなくちゃ……。
 まだ重要イベントがあるんだから……。

 そう明日開かれる和平条約を記念式典後のパーティーが!

 そのパーティーの時、アーウィンとリナリーは一曲目から踊り続け、その後テラスに出て語り明かす。

 当日、侍女達の手によって飾り立てられた私は、鏡の中の自分の神がかった美しさに恐ろしくなる。
 アーウィンからの贈り物のドレスは、光沢のある白地に無数の宝石が縫い付けられた豪華なものだった。
 さらにでかい宝石のついたネックレス、イヤリング、腕輪とアクセサリーが身体の随所で煌めいている。
 こんなに綺麗にしてくれなくて良かったのに!!!

 だが、今度こそ失敗は許されない。
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