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第三章
助言と不安
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「ありがとう、お願いします!」
「かつてアーウィンはお前を蛇蝎のごとく嫌っていた。
つまり、お前は昔のように振舞えばいいんじゃないか?」
「……昔の私?」
「そうだ。雷に打たれる前、俺たちにべたべたしていた頃の毒花のようだった頃のお前にだ」
毒花、かつてのフィーネのように……。
ううーん。
少し考え込んでから、ぼそっと呟く。
「……できる自信がない!」
弱気な私の肩に手を乗せ、励ますようにクリストファーが言った。
「……ためしに何かそれっぽく話してみろよ」
私は自分の中の内なる元フィーネを呼び覚ますように、言葉をつむぎだす。
「クリストファーあなたって本当に毒舌よね。
でもあなたのそういうところ、私、案外好きよ。
こんな感じの話し方してたっけ?」
クリストファーの演技指導が始まった。
「ちょっと毒が足りないがいい線いってるな。まあ本人だから当然か。
つけ加えるならそこで俺の首に手を回ししなだれかかるんだ」
「こう?」
言われるままに私はクリストファーの首に腕を回し、ぶら下がるように全体重を預けてしなだれかかった。
「そう、そんな感じだ」
うわ、顔が近い。
目の前にクリストファーの麗しい顔のドアップと、爽やかな息がかかってくる。
「何やってるんだ。お前達」
そこで不意に怒気を含んだ声がして、視線を巡らせると、数十メートル向こうから足速に歩いてくるアーウィンが見えた。
「何って、フィーに昔のように迫られていただけだよ。なあ?」
「そうよ。何怒ってるの? 幼馴染同士でじゃれあっていただけじゃない」
内なるフィーネ調で私はクリストファーに合わせて話す。
アーウィンは眉根を寄せてとても不愉快そうな顔をした。
「その話し方はやめろ。あとクリス、お前といえども、俺の許可なくこいつに触れることは許さない!」
「ふーん、ずいぶん、不安なのねぇ?」
やっぱり私って何でかんで言ってフィーネなんだな、台詞がスラスラ出てくる。
「何だと?」
「そんな余裕がないなんて、自分に自信がない証拠なんじゃないの?」
「……フィー……お前俺を怒らせるなよ?」
凄むように睨みつけられ、びくっとする私。
アーウィンは近寄るなり私の両肩をがっと掴み、クリストファーから引き剥がす。
そして自分の方へ向かせると、いきなり顔を寄せてきた。
「きゃっ」
唇同士が触れそうになるすんでで飛び上がり、私は自分の口を押さえる。
「……」
「ふん、いくら強がっても、キスごときに怯えるお前じゃな」
ほら見たかという顔でアーウィンはせせら笑うと、次にクリストファーを睨みつけ、苛立った口調で言う。
「とにかくもうこいつは俺のものだから馴れ馴れしくするな。
大体もうじゃれあうような年でもないだろ」
釘をさされたクリストファーは薄く笑って、両手を少し上げてヒラヒラしながら歩き出す。
「フィー、今回はこれぐらいにしておこう。
改めて今度、もっとじっくり手取り足取り丁寧に教えてやるよ」
演技指導をまだしてくれるらしい。
「クリストファー……ありがとう」
散々酷いことを言わわれたにもかかわらず、自然にお礼の言葉が口から出た。
「教えるって何をだ?」
アーウィンが怒りもあらわに私を問いただす。
「……秘密」
私は出来るだけ妖艶に、かつてのフィーネのような笑顔を作って答える。
「気に食わない!」
アーウィンは憤然と言うと、なんと、そのまま私を置いて、クリストファーを追うようにその場を去ってしまった。
結構この作戦は効いているかもしれない。
何だかクリストファーのアドバイスのおかげでイケそうな気がしてきた。
それにもうすぐリナリーも来るし!
アーウィンに嫌われるように頑張り、好感度を下げてから、一気にリナリーに心を奪って貰う!
なかなか良い作戦かもしれない!
でも、気になるのはエルファンス兄様の事だ。
クリストファーが言っていたことが真実なら、別の意味でお兄様の事ことが心配だ。
地下で何を作ってるの? まさか本当に国を吹っ飛ばしたりしないよね? エルファンス兄様……。
新たな不安で胸に広がり、私は皇宮の広大な庭にしばし一人で立ち尽くした……。
「かつてアーウィンはお前を蛇蝎のごとく嫌っていた。
つまり、お前は昔のように振舞えばいいんじゃないか?」
「……昔の私?」
「そうだ。雷に打たれる前、俺たちにべたべたしていた頃の毒花のようだった頃のお前にだ」
毒花、かつてのフィーネのように……。
ううーん。
少し考え込んでから、ぼそっと呟く。
「……できる自信がない!」
弱気な私の肩に手を乗せ、励ますようにクリストファーが言った。
「……ためしに何かそれっぽく話してみろよ」
私は自分の中の内なる元フィーネを呼び覚ますように、言葉をつむぎだす。
「クリストファーあなたって本当に毒舌よね。
でもあなたのそういうところ、私、案外好きよ。
こんな感じの話し方してたっけ?」
クリストファーの演技指導が始まった。
「ちょっと毒が足りないがいい線いってるな。まあ本人だから当然か。
つけ加えるならそこで俺の首に手を回ししなだれかかるんだ」
「こう?」
言われるままに私はクリストファーの首に腕を回し、ぶら下がるように全体重を預けてしなだれかかった。
「そう、そんな感じだ」
うわ、顔が近い。
目の前にクリストファーの麗しい顔のドアップと、爽やかな息がかかってくる。
「何やってるんだ。お前達」
そこで不意に怒気を含んだ声がして、視線を巡らせると、数十メートル向こうから足速に歩いてくるアーウィンが見えた。
「何って、フィーに昔のように迫られていただけだよ。なあ?」
「そうよ。何怒ってるの? 幼馴染同士でじゃれあっていただけじゃない」
内なるフィーネ調で私はクリストファーに合わせて話す。
アーウィンは眉根を寄せてとても不愉快そうな顔をした。
「その話し方はやめろ。あとクリス、お前といえども、俺の許可なくこいつに触れることは許さない!」
「ふーん、ずいぶん、不安なのねぇ?」
やっぱり私って何でかんで言ってフィーネなんだな、台詞がスラスラ出てくる。
「何だと?」
「そんな余裕がないなんて、自分に自信がない証拠なんじゃないの?」
「……フィー……お前俺を怒らせるなよ?」
凄むように睨みつけられ、びくっとする私。
アーウィンは近寄るなり私の両肩をがっと掴み、クリストファーから引き剥がす。
そして自分の方へ向かせると、いきなり顔を寄せてきた。
「きゃっ」
唇同士が触れそうになるすんでで飛び上がり、私は自分の口を押さえる。
「……」
「ふん、いくら強がっても、キスごときに怯えるお前じゃな」
ほら見たかという顔でアーウィンはせせら笑うと、次にクリストファーを睨みつけ、苛立った口調で言う。
「とにかくもうこいつは俺のものだから馴れ馴れしくするな。
大体もうじゃれあうような年でもないだろ」
釘をさされたクリストファーは薄く笑って、両手を少し上げてヒラヒラしながら歩き出す。
「フィー、今回はこれぐらいにしておこう。
改めて今度、もっとじっくり手取り足取り丁寧に教えてやるよ」
演技指導をまだしてくれるらしい。
「クリストファー……ありがとう」
散々酷いことを言わわれたにもかかわらず、自然にお礼の言葉が口から出た。
「教えるって何をだ?」
アーウィンが怒りもあらわに私を問いただす。
「……秘密」
私は出来るだけ妖艶に、かつてのフィーネのような笑顔を作って答える。
「気に食わない!」
アーウィンは憤然と言うと、なんと、そのまま私を置いて、クリストファーを追うようにその場を去ってしまった。
結構この作戦は効いているかもしれない。
何だかクリストファーのアドバイスのおかげでイケそうな気がしてきた。
それにもうすぐリナリーも来るし!
アーウィンに嫌われるように頑張り、好感度を下げてから、一気にリナリーに心を奪って貰う!
なかなか良い作戦かもしれない!
でも、気になるのはエルファンス兄様の事だ。
クリストファーが言っていたことが真実なら、別の意味でお兄様の事ことが心配だ。
地下で何を作ってるの? まさか本当に国を吹っ飛ばしたりしないよね? エルファンス兄様……。
新たな不安で胸に広がり、私は皇宮の広大な庭にしばし一人で立ち尽くした……。
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