上 下
60 / 117
第三章

助言と不安

しおりを挟む
「ありがとう、お願いします!」

「かつてアーウィンはお前を蛇蝎のごとく嫌っていた。
 つまり、お前は昔のように振舞えばいいんじゃないか?」

「……昔の私?」

「そうだ。雷に打たれる前、俺たちにべたべたしていた頃の毒花のようだった頃のお前にだ」

 毒花、かつてのフィーネのように……。
 ううーん。
 少し考え込んでから、ぼそっと呟く。

「……できる自信がない!」

 弱気な私の肩に手を乗せ、励ますようにクリストファーが言った。

「……ためしに何かそれっぽく話してみろよ」

 私は自分の中の内なる元フィーネを呼び覚ますように、言葉をつむぎだす。

「クリストファーあなたって本当に毒舌よね。
 でもあなたのそういうところ、私、案外好きよ。
 こんな感じの話し方してたっけ?」

 クリストファーの演技指導が始まった。

「ちょっと毒が足りないがいい線いってるな。まあ本人だから当然か。
 つけ加えるならそこで俺の首に手を回ししなだれかかるんだ」

「こう?」

 言われるままに私はクリストファーの首に腕を回し、ぶら下がるように全体重を預けてしなだれかかった。

「そう、そんな感じだ」

 うわ、顔が近い。
 目の前にクリストファーの麗しい顔のドアップと、爽やかな息がかかってくる。

「何やってるんだ。お前達」

 そこで不意に怒気を含んだ声がして、視線を巡らせると、数十メートル向こうから足速に歩いてくるアーウィンが見えた。

「何って、フィーに昔のように迫られていただけだよ。なあ?」

「そうよ。何怒ってるの? 幼馴染同士でじゃれあっていただけじゃない」

 内なるフィーネ調で私はクリストファーに合わせて話す。
 アーウィンは眉根を寄せてとても不愉快そうな顔をした。

「その話し方はやめろ。あとクリス、お前といえども、俺の許可なくこいつに触れることは許さない!」

「ふーん、ずいぶん、不安なのねぇ?」

 やっぱり私って何でかんで言ってフィーネなんだな、台詞がスラスラ出てくる。

「何だと?」

「そんな余裕がないなんて、自分に自信がない証拠なんじゃないの?」

「……フィー……お前俺を怒らせるなよ?」

 凄むように睨みつけられ、びくっとする私。
 アーウィンは近寄るなり私の両肩をがっと掴み、クリストファーから引き剥がす。
 そして自分の方へ向かせると、いきなり顔を寄せてきた。

「きゃっ」

 唇同士が触れそうになるすんでで飛び上がり、私は自分の口を押さえる。

「……」

「ふん、いくら強がっても、キスごときに怯えるお前じゃな」

 ほら見たかという顔でアーウィンはせせら笑うと、次にクリストファーを睨みつけ、苛立った口調で言う。

「とにかくもうこいつは俺のものだから馴れ馴れしくするな。
 大体もうじゃれあうような年でもないだろ」

 釘をさされたクリストファーは薄く笑って、両手を少し上げてヒラヒラしながら歩き出す。

「フィー、今回はこれぐらいにしておこう。
 改めて今度、もっとじっくり手取り足取り丁寧に教えてやるよ」

 演技指導をまだしてくれるらしい。

「クリストファー……ありがとう」

 散々酷いことを言わわれたにもかかわらず、自然にお礼の言葉が口から出た。

「教えるって何をだ?」

 アーウィンが怒りもあらわに私を問いただす。

「……秘密」

 私は出来るだけ妖艶に、かつてのフィーネのような笑顔を作って答える。

「気に食わない!」

 アーウィンは憤然と言うと、なんと、そのまま私を置いて、クリストファーを追うようにその場を去ってしまった。
 結構この作戦は効いているかもしれない。

 何だかクリストファーのアドバイスのおかげでイケそうな気がしてきた。

 それにもうすぐリナリーも来るし!
 アーウィンに嫌われるように頑張り、好感度を下げてから、一気にリナリーに心を奪って貰う!

 なかなか良い作戦かもしれない!

 でも、気になるのはエルファンス兄様の事だ。
 クリストファーが言っていたことが真実なら、別の意味でお兄様の事ことが心配だ。

 地下で何を作ってるの? まさか本当に国を吹っ飛ばしたりしないよね? エルファンス兄様……。

 新たな不安で胸に広がり、私は皇宮の広大な庭にしばし一人で立ち尽くした……。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

……モブ令嬢なのでお気になさらず

monaca
恋愛
……。 ……えっ、わたくし? ただのモブ令嬢です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

悪役令嬢に転生したので何もしません

下菊みこと
恋愛
微ざまぁ有りです。微々たるものですが。 小説家になろう様でも投稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...