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第三章
蛙と王子様
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「クリストファー……殿下……!」
呼び捨てにしかけてから、一応殿下とつける。
久しぶりに会ったクリストファーは当然だが物凄く大人になっていた。
そこでハタと自分の情けない格好を思い出し、カーッと顔が熱くなってくる。
倒れている格好もそうだけど着ているドレスが若草色なので、今の私はまさに「蛙」という表現がドハマりしている。
「ほらっ」
腹ばいのまま涙目でいると、クリストファーがスッと手を差し出してきた。
応えるように手を出すと、がしっと手首を掴まれ、一気に引き起こされる。
「ちょうどいいところで出会った。
お前には言ってやりたい事が山ほどあったんだ」
って、なんだかそう言うクリストファーの目がとっても怖いっ!
しかし山ほどって。
しばらく会ってないのに何だろう?
今更過去の恨み言でもないだろうし。
疑問に思いつつも促されるままに二人で並んで庭園を歩き出す。
クリストファーは漆黒の髪を揺らし、憂いに満ちた青灰色の瞳を向けて話しだす。
「フィー、お前、2年前アーウィンが神殿迎えに行ったのに袖にしたんだって?
しかも叔父上といちゃいちゃしていたそうじゃないか。
神職に仕える叔父上までをも垂らしこむとは誠に恐れ入ったというか、本当に根っからの男好きだな。
しかも雷に打たれてからこっち脳みそがかなり残念な感じになっているとみえる」
相変わらず綺麗な顔でなんという矢継ぎ早の毒舌!
しかもすごーく耳に痛い!
クリストファーはさらにその美しい口から愚痴っぽい文句を重ねる。
「本当に俺にはアーウィンの趣味の悪さが理解出来ない。
たしかにお前はその年頃では帝国一の美貌なんだろうが、皇太子なんだから他国の美しい姫を娶る選択肢もあるだろうに……」
あれ、ひょっとしてクリストファーって……。
話の流れに、ハッと、気がつく。
「アーウィンと私が結婚することにクリストファーは反対なの?」
期待を込めて見つめ、返事を待っていると、クリストファーは同意するように大きく頷く。
「当たり前だろう。中身が残念だという事を差し引いても、お前がアーウィンと結婚するなんて最悪だ」
ここに来てようやく私は心強い味方を得た気がする。
しかし、この口ぶりだと、頭の残念さ以外にもアーウィンと結婚して欲しくない理由があるような?
「それはなんで?」
「何で? って、お前本気で訊いているのか?
――はぁ……お前って女は、想像以上に頭の中がおめでたいんだな」
「だからどういう意味?」
「エルが……最近魔導省にいる間、一人で地下に引きこもって何かを作っている」
「お兄様が?」
全然話が見えてこない。
「俺はアーウィンに何度も言ったんだ。
エルを追い詰めるなって。お前という問題が出来る前は、あの二人は兄弟のように仲が良かったんだ。
ところが今じゃお前を巡って、とんでもなく険悪なムードになっている」
「……そんなに?……」
「ああ、そうだ。フィー、エルが皇帝の引き立てで魔導省長官になるって知ってたか? 実力主義の父上は優秀な人材を重用するからな。
魔導省といったら、この国をふっとばせるぐらいの兵器を収容・管理している機関だ。
そこの最高責任者のエルが暴走したらどうなるか……想像するだに恐ろしい。
お前が知っているかは知らないが、強力な魔導兵器を扱うには本来それなりの数の魔導士が必要になる。
しかしだ、エルが天才といわれているゆえんだが、あいつは本来数百人がかりでやっとの兵器を一人で扱える。これの意味するところがお前にわかるか?
エルの一存で下手したら国がふっとびかねない」
そこまで?
「国の滅亡の危機を作ってまでお前が欲しいというんだから、アーウィンは相当頭がいかれている。そしてお前の存在は国家レベルで迷惑すぎる。
出来れば一生神殿へ引っ込んでいるべきだった。今からでも遅くないから帰ったらどうだ?」
なんだか聞いていると本当に大変そうなムードが漂ってきて、本気で神殿へ戻るべきなのかと、ズーンと落ち込んでくる。
「つまりクリストファーは、私がアーウィンと結婚したら、エルファンス兄様が帝国を吹っ飛ばすかもしれないと言ってるの?」
そんなこと有り得るんだろうか?
「飛躍し過ぎかもしれないが、最近のエルの何かに取り憑かれたような様子を見てると、悪い予感しかしない……」
考え過ぎだと思いたいけど、クリストファーの口調から、真面目に心配になってくる。
会話しているうちに物凄く暗い雰囲気になってしまった。
このまま仮定の話をしていても仕方がないと、私は気を取り直す。
せっかくクリストファーと会話する機会を得たことだし、もっと建設的な話をしよう!
「クリストファー、どうしたらアーウィンは婚約を解消してくれると思う?」
「今のところ難しいんじゃないか?」
って、そんな即答しなくても!
「そこをどうにか足りない頭の私のかわりに知恵を貸してよ!」
「……自分で自分の頭が足りないのを認めるとか、お前のプライドもずいぶん地に落ちたもんだな。
雷に打たれる前は高飛車の代名詞みたいな女だったのに……」
心底呆れたようにクリストファーが呟く。
ううっ……。
心なしか以前より毒舌がパワーアップしている。
「まあいいか、その素直さに免じて一つだけアドバイスをやろう」
溜め息をつくとクリストファーは立ち止まり、改まったように私に向き直る。
呼び捨てにしかけてから、一応殿下とつける。
久しぶりに会ったクリストファーは当然だが物凄く大人になっていた。
そこでハタと自分の情けない格好を思い出し、カーッと顔が熱くなってくる。
倒れている格好もそうだけど着ているドレスが若草色なので、今の私はまさに「蛙」という表現がドハマりしている。
「ほらっ」
腹ばいのまま涙目でいると、クリストファーがスッと手を差し出してきた。
応えるように手を出すと、がしっと手首を掴まれ、一気に引き起こされる。
「ちょうどいいところで出会った。
お前には言ってやりたい事が山ほどあったんだ」
って、なんだかそう言うクリストファーの目がとっても怖いっ!
しかし山ほどって。
しばらく会ってないのに何だろう?
今更過去の恨み言でもないだろうし。
疑問に思いつつも促されるままに二人で並んで庭園を歩き出す。
クリストファーは漆黒の髪を揺らし、憂いに満ちた青灰色の瞳を向けて話しだす。
「フィー、お前、2年前アーウィンが神殿迎えに行ったのに袖にしたんだって?
しかも叔父上といちゃいちゃしていたそうじゃないか。
神職に仕える叔父上までをも垂らしこむとは誠に恐れ入ったというか、本当に根っからの男好きだな。
しかも雷に打たれてからこっち脳みそがかなり残念な感じになっているとみえる」
相変わらず綺麗な顔でなんという矢継ぎ早の毒舌!
しかもすごーく耳に痛い!
クリストファーはさらにその美しい口から愚痴っぽい文句を重ねる。
「本当に俺にはアーウィンの趣味の悪さが理解出来ない。
たしかにお前はその年頃では帝国一の美貌なんだろうが、皇太子なんだから他国の美しい姫を娶る選択肢もあるだろうに……」
あれ、ひょっとしてクリストファーって……。
話の流れに、ハッと、気がつく。
「アーウィンと私が結婚することにクリストファーは反対なの?」
期待を込めて見つめ、返事を待っていると、クリストファーは同意するように大きく頷く。
「当たり前だろう。中身が残念だという事を差し引いても、お前がアーウィンと結婚するなんて最悪だ」
ここに来てようやく私は心強い味方を得た気がする。
しかし、この口ぶりだと、頭の残念さ以外にもアーウィンと結婚して欲しくない理由があるような?
「それはなんで?」
「何で? って、お前本気で訊いているのか?
――はぁ……お前って女は、想像以上に頭の中がおめでたいんだな」
「だからどういう意味?」
「エルが……最近魔導省にいる間、一人で地下に引きこもって何かを作っている」
「お兄様が?」
全然話が見えてこない。
「俺はアーウィンに何度も言ったんだ。
エルを追い詰めるなって。お前という問題が出来る前は、あの二人は兄弟のように仲が良かったんだ。
ところが今じゃお前を巡って、とんでもなく険悪なムードになっている」
「……そんなに?……」
「ああ、そうだ。フィー、エルが皇帝の引き立てで魔導省長官になるって知ってたか? 実力主義の父上は優秀な人材を重用するからな。
魔導省といったら、この国をふっとばせるぐらいの兵器を収容・管理している機関だ。
そこの最高責任者のエルが暴走したらどうなるか……想像するだに恐ろしい。
お前が知っているかは知らないが、強力な魔導兵器を扱うには本来それなりの数の魔導士が必要になる。
しかしだ、エルが天才といわれているゆえんだが、あいつは本来数百人がかりでやっとの兵器を一人で扱える。これの意味するところがお前にわかるか?
エルの一存で下手したら国がふっとびかねない」
そこまで?
「国の滅亡の危機を作ってまでお前が欲しいというんだから、アーウィンは相当頭がいかれている。そしてお前の存在は国家レベルで迷惑すぎる。
出来れば一生神殿へ引っ込んでいるべきだった。今からでも遅くないから帰ったらどうだ?」
なんだか聞いていると本当に大変そうなムードが漂ってきて、本気で神殿へ戻るべきなのかと、ズーンと落ち込んでくる。
「つまりクリストファーは、私がアーウィンと結婚したら、エルファンス兄様が帝国を吹っ飛ばすかもしれないと言ってるの?」
そんなこと有り得るんだろうか?
「飛躍し過ぎかもしれないが、最近のエルの何かに取り憑かれたような様子を見てると、悪い予感しかしない……」
考え過ぎだと思いたいけど、クリストファーの口調から、真面目に心配になってくる。
会話しているうちに物凄く暗い雰囲気になってしまった。
このまま仮定の話をしていても仕方がないと、私は気を取り直す。
せっかくクリストファーと会話する機会を得たことだし、もっと建設的な話をしよう!
「クリストファー、どうしたらアーウィンは婚約を解消してくれると思う?」
「今のところ難しいんじゃないか?」
って、そんな即答しなくても!
「そこをどうにか足りない頭の私のかわりに知恵を貸してよ!」
「……自分で自分の頭が足りないのを認めるとか、お前のプライドもずいぶん地に落ちたもんだな。
雷に打たれる前は高飛車の代名詞みたいな女だったのに……」
心底呆れたようにクリストファーが呟く。
ううっ……。
心なしか以前より毒舌がパワーアップしている。
「まあいいか、その素直さに免じて一つだけアドバイスをやろう」
溜め息をつくとクリストファーは立ち止まり、改まったように私に向き直る。
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