喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

文字の大きさ
上 下
37 / 117
第二章

フィーネの決意

しおりを挟む

「ああ、それは申し訳ないけど断わっておいて下さい」

 セイレム様は振り返りもせずに答えた。

「えぇ?」

 よほどその答えが意外だったのか、エルノア様が驚いたような声を上げる。

「私には他に優先させなければいけないことがありますので」

 言いながらセイレム様は私に微笑みかけてきた。

 あ、なんだろう。
 今、凄く嬉しいと感じたかも!


 そうして二人で並んで歩いて行き――最後に辿りついたのは、磨き抜かれた床の上に、書類が山積みにされている大きな机が置かれた一室。

「ここが私の執務室です。
 ――はぁっ……また書類がたくさん溜まっていますね。
 なるべく急いで片付けますから、フィーはそこの椅子に腰かけて、本でも読んでいて下さい」

 私はキョロキョロと室内を見回す。
 この部屋「恋プリ」ゲーム内に思い切りて出ていたかも!

 今更ながら、前世セイレム様ファンだった私の血が騒いでくる。

 折角の機会なので机に椅子を寄せて、近くで書類に印章を押しているセイレム様の姿をじっくり観察することにした。

「私の顔に何かついていますか? と、いうか、今日はどうしてそんなにジロジロ見るんですか?」

 セイレム様が照れたように苦笑する。

「いえ、別に!」

 たしか出会った頃にも、こういう会話をしたような気がする。

 そのまましばらく仕事をする麗しいセイレム様の姿を堪能したあと、私はおもむろに口を開いた。

「ねえ、セイレム様……」

「なんですか?」

「私、思ったんですけど、修行がしたいです!」

「え?」

 私の意外な発言にセイレム様はいったん手を止め、書類から顔を上げ、

「急に、どうしたんですか? フィー。勉強嫌いのあなたがそんなことを言うなんて」

 心底驚いたような眼差しを向けてくる。

「――だって、皆さん、私が修行していると思っているみたいだし、私には聖女の資質があるんですよね?」

「ええ、ありますよ。そういえばまだ力を封印したままでしたね」

 私は今回のロザリー様の一件でつくづく思い知ったのだ。
 殺されそうになってもまともに抵抗すらできない、こんな無力な私のままでは駄目だと。

 エルファンス兄様とずっと一緒にいるためにも、死なないように少しは自分の身を守れるようにならなくちゃ!

「だったら、それを磨きたいんです。
 それでセイレム様が危機にあったら今度は私が助けてあげます!」

 それにして貰ってばかりのセイレム様にも、何かお返ししたい気持ちでいっぱいだった。

「非常に嬉しいですが、いったいどうしたんですか?」

「今回の出来事で自分の無力さが身に染みたんです」

 私はしみじみ呟く。

「たしかに今回の件は辛かったでしょうね――今後はこうして私が片時もそばから離れずにあなたの身を守りますが……一応念のために、回復術以外に防御術の方もマスターしておいた方がいいかもしれませんね」

 セイレム様も繊細な指を自身の顎に絡めつつ、私の希望に同意した。


 ――かくして、翌日から、さっそく聖女修行が再開されることとなった――

 と、言っても私は相変わらず劣等生で、飲み込みも要領も悪かった。
 そんな私に対し、セイレム様は笑顔でスパルタ式の指導を加える。

「さあもう一回意識を手に集中して、イメージしながら光の盾を作るのです!
 成功するまで、今夜は食事抜きです!」

 生き生きと私をしごくその姿はどう見ても、楽しんでいるようにしか見えなかった……。



 そうして私達は元の師匠と弟子の関係に戻り、再び穏やかな日々が始まった。

 もちろんセイレム様との関係が良好になろうとも、私の決意は揺るがない。
 何があっても、少なくとも19歳になったら、這ってでも神殿を出て、エルファンス兄様の元へ帰ってみせる!

 けれど今の私は逃げるのではなく、きちんとセイレム様に分かって貰った上で、神殿を出たいと思っていた。

 甘い考えかもしれないけど、少なくとも鋼鉄の扉を破壊するよりも、そのほうが現実的なはずだから。
 何より時間はたっぷりあるし、根気よく気持ちを伝えれば、きっといつかセイレム様は分かってくれるはず。

 差し当たってはまず――

「うなじにキスとかいきなり止めて下さいね!」
「え?」

 過度のスキンシップをやめてもらうようにお願いしなきゃ――
 エルファンス兄様に悪いのと、喪女には刺激が強すぎて心臓にも悪いから……。



 やがて最奥殿でのセイレム様との共同生活にも慣れていき、大聖女修行も順調とは言えないまでも進行していった。 
 私達の絆は命の危機を経たせいか、以前より深まったようだった。
 もちろん折にまぜて私とエルファンス兄様の話をすることも忘れなかった。
 嫉妬されつつもじょじょに理解して貰えているような手応えもあった――

 そんな充実した日々を繰り返しているうちに私は15歳になり、気がつくと16歳の誕生日が目前に迫っていた――
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...