喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

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第二章

脱走か死か

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 はやる思いが止められず、私は扉に飛びついて外の気配に耳を澄ました。

「もう大丈夫でしょうか?」
「そうですね」

 ――と、ロザリー様が返事をするのと同時だった――

 背後からいきなり私の首に、ガッ、と腕が巻きついてきて、強い力で絞めつけてきたのだ――

「――ぐっ――!?」

 くっ、苦しい! 息が出来ない!

 突然過ぎて何が起こったのか理解できず、混乱している私の耳に――低くくぐもったロザリー様の声が聞こえる。

「……私には夢がありました。大聖女になってこの奥殿であの方とずっと一緒に暮らすという夢が……!
 あなたさえいなければその夢が叶うのです! 
 事実、私はあなたが来るまで一番大聖女に近いといわれていた存在でしたから……!」

 ロザロー様は万力のように絞めつける片腕に力を込めながら、もう一方の手で私の口元へ何かの飲み口を押しつけてくる――

「――さあ、お飲みなさい! あなたのために持ってきた猛毒です。 
 あなたはこの不自由な神殿生活を悲観して、今ここで自殺するのです――死んでここから出て行くのですよ!」

「うっ……」

 唇に触れたのはぞっとするほどに生々しい死の感触。
 私はトロリと口中に流れ込んでくる毒を必死に吐き出そうと唾液をこぼす。

 死にたくない一心で身をよじり、ロザリー様の腕を必死にほどこうとしたけど――逆に絞めつけは酷くなり、首からミシミシと今にも折れそうな悲鳴の音が上がる。

 あ……、もう……駄目。

 急速に視界が霞んでいく……。

 ――遠のく意識にロザリー様の言葉が響く。

「私はあの人を一目見た時から心奪われ、男爵令嬢の暮らしを捨ててこの神殿へ入ったんです。
 あの人の傍にずっとずっといるためだけに……!
 その邪魔をする者は何人たりとも許しません……!」

 そんな――ロザリー様が――……!?
 優しく思いやりのある、清らかな人に見えたのに――

 セイさんに勝手な幻想を押しつけていたように、またしても私は見たい物だけを見ていたの……?
 その報いを受けてこのまま殺されて死んでしまう?
 エルファンス兄様にももう二度と会えない?

 まさに天国から地獄に叩き落とされる思い――

 絶望と後悔が頭の中を駆け巡る。

 思えばここに至るまでに逃げるチャンスは何度かあったのに、どれも自らフイにしてしまった。
 たとえばアーウィンが迎えに来た時。
 あるいはここに向かっている途中にお兄様と駆け落ちしていれば――!?

 ううん、こうなってしまうならいっそあの時、お兄様に純潔を捧げてしまえば良かった!!

 ああ……だけど……ひょっとしたら、死亡エンドしかない悪役令嬢である私は、何をしても死の運命からは逃れられないのかも……。
 どこに行ってもこうして死神に追いつかれるのかもしれない……。

 現に死亡エンドを回避したくて神殿へ逃げ込んだのに――結局こうやって殺されようとしているのだから。

 ――せめて最期に一目だけでも、愛しいエルファンスお兄様の顔が見たかった――

 苦しみより後悔の涙が溢れて止まらなかった。

 ――そうして私の意識は真っ黒な闇底へと飲み込まれていった――

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