喪女がビッチな悪役令嬢になるとか、無理ゲー過ぎる!

黒塔真実

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第二章

残酷な宣言

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「……それは、そのペンダントです」

「ペンダント?」

「その石は私の魂の一部を込めた聖石なのです。私の心の欠片をあなたに捧げたともいえます。
 その石と私はつねに繋がっており、目や耳として使用し、そこから力を出現させることもできる。
 あなたがいつか指摘したように、セシリア様が持っているペンダントも同じものです。
 ですから先日アーウィンがセシリア様に私を呼び出すように相談するところも……もっとさかのぼるなら、あなたが夕食の席で懺悔するところも、すべて私は見ていました。
 その時、海のように深く青いつぶらな瞳から、真珠のような涙をこぼす、あなたの健気でかつ儚げな美しすぎる姿に心奪われてしまった。それで、ぜひ手に入れたいと思ってしまったのです。託宣もそのための詭弁です」

 聖石は透明な石だから、この見る角度によって色を変える虹色の輝きが、セイレム様の魂の色なんだ。

「――アーウィンがくるのが分かっていたのに、あの日、なぜ出かけたの?」

 一つ答えを貰っても次々と新しい疑問が浮かんでくる。

 セイレム様の表情が暗く陰った。

「簡単な挨拶だけ済ませて戻ってくるつもりでした。私はセシリア様を無視できないのです。
 まさか聖女ロザリーまで加担しているとは思いませんでした」

 そこで、ふっと、私の口元に視線を注ぎ、

「見ていたといえば忘れていました……」

 思い出したように呟くと、セイレム様は無防備だった私の上に青銀の髪を降らせて来た。
 瞬間、ハッとして固まっている私の唇に、セイレム様の冷たい唇の感触がする。

「んっ……!」

 ちゅっと、水音を立てて唇が離れると同時に、セイレム様が身を起こす。

 まったく警戒していなかった私は、激しいショックを受けて口を押さえる。

 正直に言うとまだ頭の隅に、セイレム様がセイさんであることを受け入れれば、元の関係に戻れるかもしれないという希望があったのだ。

 けれど爆弾のように落とされたその口づけが、セイレム様がセイさんと同じ人であっても、まったく違う人物だという事実を教えてくれた。

「もう二度とあの不埒な皇子を大切なあなたに近づかせません。あなたに触れる権利があるのは、世界中で私一人だけだ」

 しっかり言い切ったセイレム様の声は、セイさんと同じ響きを持ちながら、果てしなく遠いものだった。

「――セイさんは、そんなこと言わないし、こんなことしないっ……!
 やっぱりセイレム様はセイさんじゃない!」

 拒絶の叫びをあげながら、再び胸が引き裂かれるようだった。

「そうですね……あなたの言う通り、もう今までの私ではいられない……」

 ぞっとするような低い声音と執着を浮かべた水色の瞳を見返し、私の背筋はゾクリとする。

「……私を、これからどうする気なんですか?」

「あなたは聖女フィーネになります」

 予想だにしていなかった答えだった。

「聖女に? 私はまだ術が使えないのに?」

「……ああ……それは私があなたの力が出現するのを抑えていたからです。
 最初に言った通り、あなたにはすぐに聖女になれる資質を持っていました」

「じゃあ私聖女になれるの?」

 震える声で問いながら、神殿に来たばかりの時に交わした会話を思い出す。
 聖女になれるということは、家族とも面会できる……?

 そう思ったとたん――
 『待ってる』
 エルファンス兄様の面影と温もりが蘇ってくる。
 銀色の髪に深い青の瞳をした、私の最愛の人。
 お兄様に会えるの?

 しかしそんな希望は直後、セイレム様によって無残に打ち砕かれる。

「残念ながらあれはあなたの力を封印し、聖女になる事がないことを知っていたからこそ言えた台詞です。
 初めから面会なんてさせる気はありませんでした。
 あなたに家族なんていらない。私だけいればいいと思っていましたから」

 しかし、はっきり否定されても諦められない私は、セイレム様のローブの裾を掴み、すがるように訴えた。

「……そんな……聖女になれたら、会えるって……言ったのに!!
 じゃあ、聖女にする気がないなら、なんであんなに厳しく指導したの?」

「好きな相手をいじめる喜び……というのは冗談で……ゆくゆく大聖女となったあなたと一生ここで暮らす予定でしたからね」

 私の心は冷や水をかけられたようになる。

「一生?」

 言葉の意味を確認するために発した声が、恐怖で裏返ってしまう。

「予定は少し繰り上がりましたが、今後はあなたを大聖女にするために私が直々に指導する、という名目で二人でここに篭もりましょう」

「それって……」

 蜘糸に囚われた蝶のように追い詰められた私の心境を、セイレム様が言葉で後押しした――

「そうです、あなたはこれから一生この最奥殿で私と暮らすのです」

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