22 / 117
第二章
唐突な告白
しおりを挟む
「え?」
急に顔が迫ってきて、私は目を見開く。
逃げる間もなく――次の瞬間――強引にアーウィンの唇で唇をふさがれていた。
「フィー、こういう時は、目を瞑れよ」
「んっ……」
「まあ……いいか」
いったん、唇を離してから、再度アーウィンが重ねてくる。
「んっ……んっ」
予想もしていなかった展開に激しいパニックに陥りながら、私は必死にアーウィンの胸を押しやろうとした。
すると相変わらず非力な私を憐れんでか、アーウィンの方からいったん唇を離し、身を引いてくれる。
「そんな固く唇を閉じるなよ……お前、こっちの方も11歳の頃より退行しているんじゃないか?」
「……アーウィン、なんでっ……!」
私は動揺に震えながら自分の唇を手で押さえる。
自然に瞳から涙が滲み出た。
「……なんで、と、訊きたいのはこちらの方だ。
少しは喜んでくれると思ったのに……再会のキスをしてやってもその態度。
お前は本当に俺にしつこくつきまとっていた、あのフィーなのか?」
正直、あのフィーかときかれれば「違う」としか答えようがない。
二年経っても、いまだに私は過去の行いの報いを受けないといけないの?
「……私は……もうあの頃の……私とは違うの……」
震えて言いながら逃げるように後退すると、その分アーウィンが前進してくる。
「いやっ……」
ドン、とアーウィンが壁に両手をつき、間に挟まれた私は逃げ道をふさがれ、追い詰められた状態になる。
「なぜ俺から逃げようとしたうえにそんなに怯えた顔をするんだ?」
「はっ、話しがあるんじゃなかったの?……こんな事をしに来たの?」
「もちろん大事な話があるから来たんだ。わざわざ母上に頼み込んで叔父上を呼び出して貰い――ロザリーにも協力を仰ぎ――やっとここまで辿りついた。
ついでに人払いもしてもらったから、このあたりには今誰もいない。
完全にお前と俺の二人きりだよ……フィー」
私の耳元に唇を寄せ、アーウィンが甘くささやきかけてくる。
「セシリア様とロザリー様に?
なんでそこまでして私に?…」
会いに来たの?
疑問に思う私の顔を至近距離で見据え、アーウィンが命令口調で言う。
「フィー、神殿から出て、家へ帰るんだ。
こんな場所は全然、お前に相応しくない」
「帰る?」
「お前を迎えに来たんだ……分からないのか?」
青灰色の瞳が激情にかイラ立ちにか、大きく揺れ動く。
私を迎えに?
アーウィンが?
嘘っ……だってアーウィンは……。
「あなたは私が嫌いなんでしょう?」
ドキマギして尋ねた。
アーウィンはそれに答えず、代わりに遠い目で語り始める――
「12歳の誕生パーティーの日」
「え?」
「純白のドレスに身を包んだお前はどこまでも清らかで、あたかも奇跡の白薔薇のようだった。その輝くばかりの美しさは会場にいる誰よりも俺の瞳を引きつけ、釘づけにした。
その時、俺は初めて、それまで嫌っていたはずのお前が愛しく思えて愕然とした。同時に神殿へ去っていくことが非常に寂しくなった。
そしてその気持ちは時が経過するごとに消えさるどころか、ますます大きくなり、やがて俺の中で埋めがたい喪失感となった……。
……あれからいなくなったお前の代わりに、婚約者候補として色んな相手と引き会わされたが……。
どんな美貌の令嬢に会おうとも、あの日のお前の可憐な姿がチラついて霞ませてしまう……」
驚きに口を開けっぱなしの私の喉はカラカラになった。
「……つまり……私の見た目が綺麗だから……好きになった……?」
「そうだけど違う!」
「違うの?」
そこで肩を掴むアーウィンの手の力がこもり、痛いほどになる。
「あの時……頬を上気させたお前が、エルの名を呼びながら走ってきた……。
そのひたむきな顔を見たとたん、俺は……お前が探しているのが俺なら良かったのにと強く思った。
その瞬間、俺は自覚したんだ……自分の中に芽生えた……感情に……。
だからあの後、ここからお前を連れ戻すために――お前に会うために再三努力した。
ところが悔しいことに叔父上に強く阻まれ、今日の今日までそれが叶わなかった。
……この神殿で、叔父上は絶対的な権力を持っているからな……」
もしかしなくても私は今、アーウィンから愛の告白を受けている!?
しかも連れ戻しに来たなんて……!
とまどいながらも私の心臓は痛いほど早鐘をうち、全身が火照ってくる。
「――俺の話は以上だ。次はお前の話をしろよ」
アーウィンは一息つき、今度は私に話を促す。
「私の話?」
「セイって誰だ?」
訊かれたとたん私の鼓動はなぜか、ドクン、と大きく跳ね上がった。
「お前の男か?」
私は慌てて首を振る。
「違う……セイさんは……私の先生で……」
「先生? まるで愛しい恋人が帰ってきたかのような出迎えだったが?」
「そ……それは……」
「好きなのか? そいつの事?」
青灰色の瞳が探るように私の瞳を覗き込んでくる。
急に顔が迫ってきて、私は目を見開く。
逃げる間もなく――次の瞬間――強引にアーウィンの唇で唇をふさがれていた。
「フィー、こういう時は、目を瞑れよ」
「んっ……」
「まあ……いいか」
いったん、唇を離してから、再度アーウィンが重ねてくる。
「んっ……んっ」
予想もしていなかった展開に激しいパニックに陥りながら、私は必死にアーウィンの胸を押しやろうとした。
すると相変わらず非力な私を憐れんでか、アーウィンの方からいったん唇を離し、身を引いてくれる。
「そんな固く唇を閉じるなよ……お前、こっちの方も11歳の頃より退行しているんじゃないか?」
「……アーウィン、なんでっ……!」
私は動揺に震えながら自分の唇を手で押さえる。
自然に瞳から涙が滲み出た。
「……なんで、と、訊きたいのはこちらの方だ。
少しは喜んでくれると思ったのに……再会のキスをしてやってもその態度。
お前は本当に俺にしつこくつきまとっていた、あのフィーなのか?」
正直、あのフィーかときかれれば「違う」としか答えようがない。
二年経っても、いまだに私は過去の行いの報いを受けないといけないの?
「……私は……もうあの頃の……私とは違うの……」
震えて言いながら逃げるように後退すると、その分アーウィンが前進してくる。
「いやっ……」
ドン、とアーウィンが壁に両手をつき、間に挟まれた私は逃げ道をふさがれ、追い詰められた状態になる。
「なぜ俺から逃げようとしたうえにそんなに怯えた顔をするんだ?」
「はっ、話しがあるんじゃなかったの?……こんな事をしに来たの?」
「もちろん大事な話があるから来たんだ。わざわざ母上に頼み込んで叔父上を呼び出して貰い――ロザリーにも協力を仰ぎ――やっとここまで辿りついた。
ついでに人払いもしてもらったから、このあたりには今誰もいない。
完全にお前と俺の二人きりだよ……フィー」
私の耳元に唇を寄せ、アーウィンが甘くささやきかけてくる。
「セシリア様とロザリー様に?
なんでそこまでして私に?…」
会いに来たの?
疑問に思う私の顔を至近距離で見据え、アーウィンが命令口調で言う。
「フィー、神殿から出て、家へ帰るんだ。
こんな場所は全然、お前に相応しくない」
「帰る?」
「お前を迎えに来たんだ……分からないのか?」
青灰色の瞳が激情にかイラ立ちにか、大きく揺れ動く。
私を迎えに?
アーウィンが?
嘘っ……だってアーウィンは……。
「あなたは私が嫌いなんでしょう?」
ドキマギして尋ねた。
アーウィンはそれに答えず、代わりに遠い目で語り始める――
「12歳の誕生パーティーの日」
「え?」
「純白のドレスに身を包んだお前はどこまでも清らかで、あたかも奇跡の白薔薇のようだった。その輝くばかりの美しさは会場にいる誰よりも俺の瞳を引きつけ、釘づけにした。
その時、俺は初めて、それまで嫌っていたはずのお前が愛しく思えて愕然とした。同時に神殿へ去っていくことが非常に寂しくなった。
そしてその気持ちは時が経過するごとに消えさるどころか、ますます大きくなり、やがて俺の中で埋めがたい喪失感となった……。
……あれからいなくなったお前の代わりに、婚約者候補として色んな相手と引き会わされたが……。
どんな美貌の令嬢に会おうとも、あの日のお前の可憐な姿がチラついて霞ませてしまう……」
驚きに口を開けっぱなしの私の喉はカラカラになった。
「……つまり……私の見た目が綺麗だから……好きになった……?」
「そうだけど違う!」
「違うの?」
そこで肩を掴むアーウィンの手の力がこもり、痛いほどになる。
「あの時……頬を上気させたお前が、エルの名を呼びながら走ってきた……。
そのひたむきな顔を見たとたん、俺は……お前が探しているのが俺なら良かったのにと強く思った。
その瞬間、俺は自覚したんだ……自分の中に芽生えた……感情に……。
だからあの後、ここからお前を連れ戻すために――お前に会うために再三努力した。
ところが悔しいことに叔父上に強く阻まれ、今日の今日までそれが叶わなかった。
……この神殿で、叔父上は絶対的な権力を持っているからな……」
もしかしなくても私は今、アーウィンから愛の告白を受けている!?
しかも連れ戻しに来たなんて……!
とまどいながらも私の心臓は痛いほど早鐘をうち、全身が火照ってくる。
「――俺の話は以上だ。次はお前の話をしろよ」
アーウィンは一息つき、今度は私に話を促す。
「私の話?」
「セイって誰だ?」
訊かれたとたん私の鼓動はなぜか、ドクン、と大きく跳ね上がった。
「お前の男か?」
私は慌てて首を振る。
「違う……セイさんは……私の先生で……」
「先生? まるで愛しい恋人が帰ってきたかのような出迎えだったが?」
「そ……それは……」
「好きなのか? そいつの事?」
青灰色の瞳が探るように私の瞳を覗き込んでくる。
3
お気に入りに追加
2,622
あなたにおすすめの小説
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。
シェルビビ
恋愛
明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。
いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。
監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。
元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。
しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。
「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?
KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※
ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。
しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。
でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。
ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない)
攻略キャラは婚約者の王子
宰相の息子(執事に変装)
義兄(再婚)二人の騎士
実の弟(新ルートキャラ)
姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。
正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて)
悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…
初めての相手が陛下で良かった
ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。
※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる