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第二章

唐突な告白

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「え?」

 急に顔が迫ってきて、私は目を見開く。
 逃げる間もなく――次の瞬間――強引にアーウィンの唇で唇をふさがれていた。

「フィー、こういう時は、目を瞑れよ」

「んっ……」

「まあ……いいか」

 いったん、唇を離してから、再度アーウィンが重ねてくる。

「んっ……んっ」

 予想もしていなかった展開に激しいパニックに陥りながら、私は必死にアーウィンの胸を押しやろうとした。
 すると相変わらず非力な私を憐れんでか、アーウィンの方からいったん唇を離し、身を引いてくれる。

「そんな固く唇を閉じるなよ……お前、こっちの方も11歳の頃より退行しているんじゃないか?」

「……アーウィン、なんでっ……!」

 私は動揺に震えながら自分の唇を手で押さえる。
 自然に瞳から涙が滲み出た。

「……なんで、と、訊きたいのはこちらの方だ。
 少しは喜んでくれると思ったのに……再会のキスをしてやってもその態度。
 お前は本当に俺にしつこくつきまとっていた、あのフィーなのか?」

 正直、あのフィーかときかれれば「違う」としか答えようがない。
 二年経っても、いまだに私は過去の行いの報いを受けないといけないの?

「……私は……もうあの頃の……私とは違うの……」

 震えて言いながら逃げるように後退すると、その分アーウィンが前進してくる。

「いやっ……」

 ドン、とアーウィンが壁に両手をつき、間に挟まれた私は逃げ道をふさがれ、追い詰められた状態になる。

「なぜ俺から逃げようとしたうえにそんなに怯えた顔をするんだ?」

「はっ、話しがあるんじゃなかったの?……こんな事をしに来たの?」

「もちろん大事な話があるから来たんだ。わざわざ母上に頼み込んで叔父上を呼び出して貰い――ロザリーにも協力を仰ぎ――やっとここまで辿りついた。 
 ついでに人払いもしてもらったから、このあたりには今誰もいない。
 完全にお前と俺の二人きりだよ……フィー」

 私の耳元に唇を寄せ、アーウィンが甘くささやきかけてくる。

「セシリア様とロザリー様に?
 なんでそこまでして私に?…」

 会いに来たの?

 疑問に思う私の顔を至近距離で見据え、アーウィンが命令口調で言う。

「フィー、神殿から出て、家へ帰るんだ。
 こんな場所は全然、お前に相応しくない」

「帰る?」

「お前を迎えに来たんだ……分からないのか?」

 青灰色の瞳が激情にかイラ立ちにか、大きく揺れ動く。

 私を迎えに?
 アーウィンが?

 嘘っ……だってアーウィンは……。

「あなたは私が嫌いなんでしょう?」

 ドキマギして尋ねた。

 アーウィンはそれに答えず、代わりに遠い目で語り始める――

「12歳の誕生パーティーの日」

「え?」

「純白のドレスに身を包んだお前はどこまでも清らかで、あたかも奇跡の白薔薇のようだった。その輝くばかりの美しさは会場にいる誰よりも俺の瞳を引きつけ、釘づけにした。
 その時、俺は初めて、それまで嫌っていたはずのお前が愛しく思えて愕然とした。同時に神殿へ去っていくことが非常に寂しくなった。
 そしてその気持ちは時が経過するごとに消えさるどころか、ますます大きくなり、やがて俺の中で埋めがたい喪失感となった……。
 ……あれからいなくなったお前の代わりに、婚約者候補として色んな相手と引き会わされたが……。
 どんな美貌の令嬢に会おうとも、あの日のお前の可憐な姿がチラついて霞ませてしまう……」

 驚きに口を開けっぱなしの私の喉はカラカラになった。

「……つまり……私の見た目が綺麗だから……好きになった……?」

「そうだけど違う!」

「違うの?」

 そこで肩を掴むアーウィンの手の力がこもり、痛いほどになる。

「あの時……頬を上気させたお前が、エルの名を呼びながら走ってきた……。
 そのひたむきな顔を見たとたん、俺は……お前が探しているのが俺なら良かったのにと強く思った。
 その瞬間、俺は自覚したんだ……自分の中に芽生えた……感情に……。
 だからあの後、ここからお前を連れ戻すために――お前に会うために再三努力した。
 ところが悔しいことに叔父上に強く阻まれ、今日の今日までそれが叶わなかった。
 ……この神殿で、叔父上は絶対的な権力を持っているからな……」

 もしかしなくても私は今、アーウィンから愛の告白を受けている!?

 しかも連れ戻しに来たなんて……!

 とまどいながらも私の心臓は痛いほど早鐘をうち、全身が火照ってくる。

「――俺の話は以上だ。次はお前の話をしろよ」

 アーウィンは一息つき、今度は私に話を促す。

「私の話?」

「セイって誰だ?」

 訊かれたとたん私の鼓動はなぜか、ドクン、と大きく跳ね上がった。

「お前の男か?」

 私は慌てて首を振る。

「違う……セイさんは……私の先生で……」

「先生? まるで愛しい恋人が帰ってきたかのような出迎えだったが?」

「そ……それは……」

「好きなのか? そいつの事?」

 青灰色の瞳が探るように私の瞳を覗き込んでくる。


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