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第二章
神殿生活の始まり
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幸いセイさんは私が毛虫と会話していたことには一切触れなかった。
「隣の学習室で今後の神殿での基本生活についてお話します」
さっそく続きの間の扉を開き、移動するように促す。
そこは四方の壁を本棚で埋められ、中央に大きな机が一つ置かれている、いかにも学習専用の部屋だった。
私は相談室に呼ばれた生徒のような心境で、セイさんと机を挟んだ対面に着席する。
「そんなに固くならないで下さい」
そう言われてもこの慣れない状況では無理だった。
ふっとセイさんは長い睫毛を伏せて微笑むと、本題に入る。
「まず最初に神殿では規則正しい生活が基本です。
起床時間と食事の時間、就寝時間は毎日決められています。
午前中は座学、午後からは実習および実技で、授業は全て私が担当します。
もちろん休憩や自由時間もありますからご安心下さい。
あと一番大切なことですが、あなたが行動出来るエリアは限られています。そこから決して出ないように気をつけて下さい。
ここまでで何か質問はありますか?」
「は、はい!」
私の関心はただ一つ。お兄様に会えるチャンスがあるかということだけだ。
「行動エリアが決まっているということですが……許可を取ったら神殿の外に出られますか?」
「出来ません」
即答だった。
「では、当然、里帰りなんかも?」
「無理です」
まるで取りつく島もない感じだ。
「家族の面会は?」
「それは許されます」
初めて得られた良い返事に私は瞳を輝かせた――が、
「ただし正式な聖女になってからですが……。
何よりも修行して一人前になることが優先されますので、家族との手紙のやり取りが可能になるのもそれからになります」
続けて言われた台詞にがっくりする。
し、しかも手紙まで制限されるとか!
だいたいなってからって、なれるかどうかもわからないのに……!
――神殿から出ていく日の方が先だったりして……。
「そう気落ちしないで下さい。まじめに勉強して修行すれば、あなたならすぐに聖女になれますよ」
セイさんが低く優しい声で励ますように言った。
『すぐに』という単語に私は反応する。
「本当ですか?」
「ええ……私を信じて下さい」
それが本当なら、私は近いうちにお兄様と面会できちゃう。
おまけ回復術とかも使えるようになって、将来役立つスキルまで手に入れられちゃうんだ!
「私、修行頑張ります!」
力を込めて宣言すると、セイさんは美しい口元をほころばせた。
「あなたは相当素直な性格なんですね。それにすぐ感情が顔に出て可愛いですね」
「そ、そうですか?」
そんなに感情が駄々漏れだったんだろうか。
私は思わず恥ずかしさに顔を熱くする。
「ええ、私が聞いていたあなたの評判とずいぶん違って驚いています」
って、どんな評判だったんだろう?
……だいたい想像がつくけど……。
セイさんはそこでおもむろに立ち上がった。
「……さて、それではいったん、昼食が終わるまで休憩にしましょう。
午後からは神殿内部をご案内します。
それが終わったら自由時間にしましょう。
それと、忘れないうちにこれを渡しておきますね」
スッとセイさんがペンダントを差し出してくる。
あ、これ見覚えがある。
私は受け取ってすぐに気がついた。
見る角度によって色を変える丸い綺麗な石がついている――
「セシリア様がいつも身につけていらっしゃるものと同じものですね」
私が指摘すると、セイさんは一瞬その美麗な顔をぴくっとさせた。
「皇妃様もつけていらっしゃいましたか。これは、ミルズの守りという宝玉のついたペンダントです」
「ミルズの守り?」
「ええ、これをつけていれば、強力なミルズ神のご加護によりつねに身を守られます。
ですので片時も身から離さず、寝る時も必ず枕元などに置いておいて下さい」
そんな凄いペンダントだったのか。
これがあったら、斬首刑もまぬがれちゃったりしないかな。
「わかりました!」
期待を込めてさっそく首にかけてみる。
「では、休憩に入りましょう」
「隣の学習室で今後の神殿での基本生活についてお話します」
さっそく続きの間の扉を開き、移動するように促す。
そこは四方の壁を本棚で埋められ、中央に大きな机が一つ置かれている、いかにも学習専用の部屋だった。
私は相談室に呼ばれた生徒のような心境で、セイさんと机を挟んだ対面に着席する。
「そんなに固くならないで下さい」
そう言われてもこの慣れない状況では無理だった。
ふっとセイさんは長い睫毛を伏せて微笑むと、本題に入る。
「まず最初に神殿では規則正しい生活が基本です。
起床時間と食事の時間、就寝時間は毎日決められています。
午前中は座学、午後からは実習および実技で、授業は全て私が担当します。
もちろん休憩や自由時間もありますからご安心下さい。
あと一番大切なことですが、あなたが行動出来るエリアは限られています。そこから決して出ないように気をつけて下さい。
ここまでで何か質問はありますか?」
「は、はい!」
私の関心はただ一つ。お兄様に会えるチャンスがあるかということだけだ。
「行動エリアが決まっているということですが……許可を取ったら神殿の外に出られますか?」
「出来ません」
即答だった。
「では、当然、里帰りなんかも?」
「無理です」
まるで取りつく島もない感じだ。
「家族の面会は?」
「それは許されます」
初めて得られた良い返事に私は瞳を輝かせた――が、
「ただし正式な聖女になってからですが……。
何よりも修行して一人前になることが優先されますので、家族との手紙のやり取りが可能になるのもそれからになります」
続けて言われた台詞にがっくりする。
し、しかも手紙まで制限されるとか!
だいたいなってからって、なれるかどうかもわからないのに……!
――神殿から出ていく日の方が先だったりして……。
「そう気落ちしないで下さい。まじめに勉強して修行すれば、あなたならすぐに聖女になれますよ」
セイさんが低く優しい声で励ますように言った。
『すぐに』という単語に私は反応する。
「本当ですか?」
「ええ……私を信じて下さい」
それが本当なら、私は近いうちにお兄様と面会できちゃう。
おまけ回復術とかも使えるようになって、将来役立つスキルまで手に入れられちゃうんだ!
「私、修行頑張ります!」
力を込めて宣言すると、セイさんは美しい口元をほころばせた。
「あなたは相当素直な性格なんですね。それにすぐ感情が顔に出て可愛いですね」
「そ、そうですか?」
そんなに感情が駄々漏れだったんだろうか。
私は思わず恥ずかしさに顔を熱くする。
「ええ、私が聞いていたあなたの評判とずいぶん違って驚いています」
って、どんな評判だったんだろう?
……だいたい想像がつくけど……。
セイさんはそこでおもむろに立ち上がった。
「……さて、それではいったん、昼食が終わるまで休憩にしましょう。
午後からは神殿内部をご案内します。
それが終わったら自由時間にしましょう。
それと、忘れないうちにこれを渡しておきますね」
スッとセイさんがペンダントを差し出してくる。
あ、これ見覚えがある。
私は受け取ってすぐに気がついた。
見る角度によって色を変える丸い綺麗な石がついている――
「セシリア様がいつも身につけていらっしゃるものと同じものですね」
私が指摘すると、セイさんは一瞬その美麗な顔をぴくっとさせた。
「皇妃様もつけていらっしゃいましたか。これは、ミルズの守りという宝玉のついたペンダントです」
「ミルズの守り?」
「ええ、これをつけていれば、強力なミルズ神のご加護によりつねに身を守られます。
ですので片時も身から離さず、寝る時も必ず枕元などに置いておいて下さい」
そんな凄いペンダントだったのか。
これがあったら、斬首刑もまぬがれちゃったりしないかな。
「わかりました!」
期待を込めてさっそく首にかけてみる。
「では、休憩に入りましょう」
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