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第一章
決意表明と胸騒ぎ
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「目覚めた瞬間、私は自分が生きていることが嬉しくて……! 一番に、まだ最悪の未来を回避するため、取り返しがつくということが……!」
35歳、突如胸の苦しみに襲われ走馬灯を見たあと、乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。
斬首刑になるまで@7年もある。
「まあ……フィーネ……そんなことが……」
セシリア様は口を押さえ、しばし言葉を失った。
両親も初めて娘が口にした驚愕の事実に心底驚いている様子。
私はアーウィンとクリストファーの顔を交互に眺めてからさらに続けた。
「だから雷に打たれる前は見えなかった色んな事が今はハッキリと分かります。
アーウィンやクリストファーの私への辛辣な言動も仕方がないのだと……。
それも二人に馴れ馴れしくし過ぎた、私の自業自得なのだと……」
しなだれかかったり、抱きついたり、我ながら二人へのスキンシップとボディタッチが酷かったもんね。
「アーウィン、クリストファー、今さらだけど本当にごめんなさい。
これからは決して二人にはつきまとわないし、迷惑もかけません」
深々と二人に頭を下げた。
アーウィンもクリストファーも呆気にとられたように絶句している。
他の者も言葉を失っているようで、室内は水を打ったようにシーンと静まり返った。
「セシリア様……」静寂を破るように私はついに本題に入る。「それで、お願いがあります」
両手を胸の前で握り合わせ、祈るようにセシリア様を見つめる。
「まあ、何かしら?」
「――私をミルズ神の神殿の聖女見習いに推薦して頂けませんか?」
私の爆弾発言に皆が色めき立った。
「何を、何を言い出すんだ、フィーネ!」
お父様が立ち上がって叫ぶ。
「神殿へ上がるだなんて、正気なの?」
お母様も裏返った声を上げる。
「聖女見習いって、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
いつも沈着冷静なエルファンス兄様も感情的に声を荒立てる。
「もちろん分かっています。私は一生を神に捧げます!」
高らかに宣言したもののそれは建前で、本当の狙いは死亡フラグの立っている16歳から18歳の時期を神殿でやり過ごすことだった。
なぜならたとえ神殿に上がっても本人が希望すれば還俗できる。
その後は普通の女性に戻り、結婚なども可能だと私は知っていた。
つまりシナリオで処刑される18歳を過ぎれば下界へ戻れるのだ。
そうしたら私は今度こそ女として幸せな一生を送るんだ。
我ながら名案!
13歳で脱処女よりずっと現実的で難易度が低い!
「フィーネ……待って? 何もそう早まらなくても……」
セシリア様の瞳には明らかなとまどいの色が浮かんでいた。
「いいえ、熟慮を重ねた末の結論です! お願いします、セシリア様。私が雷に打たれたのも、全て神の御心、お導きなのです!」
決意の強さを示すために、セシリア様の足元に身を投げだし、床に両手と膝をついて頭を下げる。
日本人の特技、土下座だ!
私の必死さがセシリア様にも伝わったのか、
「わかりました……エルノア様に相談してみましょう……」
大きな深いため息をとともに、同意の返事が得られる。
エルノア様というのはミルズ神殿の聖女長、つまり女官を取りまとめる責任者だ。
「あ、ありがとうございます!」
や、やった!
感激と緊張が解けて、瞳からどっと涙が溢れて零れ落ちる。
助かるかもしれない。
生き残れるかもしれない。
「恋プリ」のシナリオは、私が16歳になった時点で開始。その終了までに約二年半の時を要する。
つまり今から神殿に入れば、私にとっての一番の死神。ヒロインにも会わなくて済む!
――そんなこんなで混乱の食事会は終わり――
セシリア様と皇子達が帰ったあと、エルファンス兄様と両親――家族三人がかりでの私への説得が始まる。
でも、私は決して折れなかった。
だって自分の命がかかっているだもん。
固い決意であることを繰り返し伝えると、最後は逃げるように自室へ戻り、扉をきっちりと施錠する。
「はーっ、疲れた……」
ひとまずほっとして息をついたのも束の間、すぐにガチャガチャとノブを掴む音がしてから、激しく扉をノックされる。
「フィー、開けろ!」
エルファンス兄様の声だった。
「ごめんなさい、お兄様。今日はもう疲れて眠いの」
「駄目だフィーネ。俺はまだ納得していない。
お前の様子が変わった理由は理解したが、聖女見習いになるというのはいくらなんでも行き過ぎじゃないか?
本気でお前は俗世の楽しみや女の幸せをすべて放棄する気なのか?」
返事をするとまた言い返され、延々と会話が終わらないに決まっている。
無言を決め込むことき決めた私は、ベッドに潜って枕を頭にかぶり、エルファンス兄様が諦めるのを待つ。
しばらくすると静かになり、お兄様は去ったのかと、気配を探るためにドアに近づくと、
「フィーネ知ってるか? 聖女見習いになる条件には『清らかな乙女ではなくてはいけない』というものがあるんだ」
意味深な低い呟きが聞こえてきた。
直後カッカッと立ち去る足音。
私はなんだか悪い予感に胸がドキマギする。
(清らかな乙女……って、エルファンス兄様はいったい何が言いたいの?)
その晩はお兄様の不吉な発言のせいで、様々な妄想が頭を巡り、なかなか寝つくことができなかった。
35歳、突如胸の苦しみに襲われ走馬灯を見たあと、乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。
斬首刑になるまで@7年もある。
「まあ……フィーネ……そんなことが……」
セシリア様は口を押さえ、しばし言葉を失った。
両親も初めて娘が口にした驚愕の事実に心底驚いている様子。
私はアーウィンとクリストファーの顔を交互に眺めてからさらに続けた。
「だから雷に打たれる前は見えなかった色んな事が今はハッキリと分かります。
アーウィンやクリストファーの私への辛辣な言動も仕方がないのだと……。
それも二人に馴れ馴れしくし過ぎた、私の自業自得なのだと……」
しなだれかかったり、抱きついたり、我ながら二人へのスキンシップとボディタッチが酷かったもんね。
「アーウィン、クリストファー、今さらだけど本当にごめんなさい。
これからは決して二人にはつきまとわないし、迷惑もかけません」
深々と二人に頭を下げた。
アーウィンもクリストファーも呆気にとられたように絶句している。
他の者も言葉を失っているようで、室内は水を打ったようにシーンと静まり返った。
「セシリア様……」静寂を破るように私はついに本題に入る。「それで、お願いがあります」
両手を胸の前で握り合わせ、祈るようにセシリア様を見つめる。
「まあ、何かしら?」
「――私をミルズ神の神殿の聖女見習いに推薦して頂けませんか?」
私の爆弾発言に皆が色めき立った。
「何を、何を言い出すんだ、フィーネ!」
お父様が立ち上がって叫ぶ。
「神殿へ上がるだなんて、正気なの?」
お母様も裏返った声を上げる。
「聖女見習いって、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
いつも沈着冷静なエルファンス兄様も感情的に声を荒立てる。
「もちろん分かっています。私は一生を神に捧げます!」
高らかに宣言したもののそれは建前で、本当の狙いは死亡フラグの立っている16歳から18歳の時期を神殿でやり過ごすことだった。
なぜならたとえ神殿に上がっても本人が希望すれば還俗できる。
その後は普通の女性に戻り、結婚なども可能だと私は知っていた。
つまりシナリオで処刑される18歳を過ぎれば下界へ戻れるのだ。
そうしたら私は今度こそ女として幸せな一生を送るんだ。
我ながら名案!
13歳で脱処女よりずっと現実的で難易度が低い!
「フィーネ……待って? 何もそう早まらなくても……」
セシリア様の瞳には明らかなとまどいの色が浮かんでいた。
「いいえ、熟慮を重ねた末の結論です! お願いします、セシリア様。私が雷に打たれたのも、全て神の御心、お導きなのです!」
決意の強さを示すために、セシリア様の足元に身を投げだし、床に両手と膝をついて頭を下げる。
日本人の特技、土下座だ!
私の必死さがセシリア様にも伝わったのか、
「わかりました……エルノア様に相談してみましょう……」
大きな深いため息をとともに、同意の返事が得られる。
エルノア様というのはミルズ神殿の聖女長、つまり女官を取りまとめる責任者だ。
「あ、ありがとうございます!」
や、やった!
感激と緊張が解けて、瞳からどっと涙が溢れて零れ落ちる。
助かるかもしれない。
生き残れるかもしれない。
「恋プリ」のシナリオは、私が16歳になった時点で開始。その終了までに約二年半の時を要する。
つまり今から神殿に入れば、私にとっての一番の死神。ヒロインにも会わなくて済む!
――そんなこんなで混乱の食事会は終わり――
セシリア様と皇子達が帰ったあと、エルファンス兄様と両親――家族三人がかりでの私への説得が始まる。
でも、私は決して折れなかった。
だって自分の命がかかっているだもん。
固い決意であることを繰り返し伝えると、最後は逃げるように自室へ戻り、扉をきっちりと施錠する。
「はーっ、疲れた……」
ひとまずほっとして息をついたのも束の間、すぐにガチャガチャとノブを掴む音がしてから、激しく扉をノックされる。
「フィー、開けろ!」
エルファンス兄様の声だった。
「ごめんなさい、お兄様。今日はもう疲れて眠いの」
「駄目だフィーネ。俺はまだ納得していない。
お前の様子が変わった理由は理解したが、聖女見習いになるというのはいくらなんでも行き過ぎじゃないか?
本気でお前は俗世の楽しみや女の幸せをすべて放棄する気なのか?」
返事をするとまた言い返され、延々と会話が終わらないに決まっている。
無言を決め込むことき決めた私は、ベッドに潜って枕を頭にかぶり、エルファンス兄様が諦めるのを待つ。
しばらくすると静かになり、お兄様は去ったのかと、気配を探るためにドアに近づくと、
「フィーネ知ってるか? 聖女見習いになる条件には『清らかな乙女ではなくてはいけない』というものがあるんだ」
意味深な低い呟きが聞こえてきた。
直後カッカッと立ち去る足音。
私はなんだか悪い予感に胸がドキマギする。
(清らかな乙女……って、エルファンス兄様はいったい何が言いたいの?)
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