好きです、先輩。

キリ

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逃げないで、先輩。

逃げないでください。

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背後からいつもは聞かないような荒々しい志摩の声がする。

「じゃあ教えてくださいよっ!」

志摩が手首を掴み、僕を振り返らせる。振り切ろうと必死に足掻く僕を志摩はもう片方の手も掴み、勢いよく壁に押し付ける。バンっと音がして、背中に衝撃が走る。汗の染み込んだ道着がいやに冷たく、背中がひんやりした。思わず顔をあげる。志摩と目が合う。志摩は僕のことをジッと見つめ、つぶやいた。

「逃げないで、ください。」

その言葉に胸が熱くなる。言い返したいのに、喉にコルクが詰まったように何も出てこない。目尻が熱くなるのを感じ、見られまいと顔を伏せ、つぶやいた。

「ッ、、わかったからッ、離して、、」

その言葉に志摩が手の力を緩める。赤くなった手首を確認するふりをして、涙を堪える。不意に視界が暗くなり、気づいた時には志摩の唇が触れていた。目の前の出来事に頭が追いつかなくて、時が止まったみたいに感じた。志摩がゆっくりと唇を離す。キスをされたんだと気づき、ガバッと顔を上げるといつもの澄ました顔の後輩がいる。僕は状況が理解できなくて、酸素の薄い頭でしどろもどろになりながら、問いただす。


「ッっっ、、!なん、でっッッ!いま、なにッ、してっッッ!」

志摩はそんな僕を冷静に見ながら答える。

「顔、上げてくれないんで。」

その答えに僕はますます訳がわからなくなり、志摩を責め立てる。

「はぁッッ?なにっッッ、考えてんのっッ!」

志摩は表情を変えずに答える。

「そのままの意味ですけど。」

困惑がだんだん怒りに変わってきて、思い浮かんだ言葉をそのまま志摩にぶつける。

「意味わかんないっッッ!僕をどうしたいのッ!」

その言葉に間髪入れず、志摩が答えにならない答えを口にした。

「こうしたいです。」

その言葉を呟きながら、再び僕の手首を捕まえて、壁に押し付ける。背中に壁の感触を感じると同時に、唇に温かなものが触れる。

「んッッ!、、、ちょッッ、、、、やめっッッッ!」

唇が触れ、抵抗するが、言葉を発そうと開けた口から舌が流れ込んでくる。息が上がり、呼吸がうまくできない。そんな僕の手首を強く握ったまま、志摩がつぶやく。

「逃げないで、、、、」

その言葉はどこか哀愁を帯びていた。脳が溶けていくのを感じながら、されるがままに、志摩の唇を受け入れてしまう。
どれぐらい時間が経っただろう。部活終わりの道着と志摩の匂いが混ざって、なんだか心地よかった。
志摩がようやく唇を離すと、銀色の糸がのびてプツッと切れた。それが合図となったかのように、また志摩が唇を近づけてきて、キスをする。さっきよりも激しくて、志摩の息が乱れているのがわかる。志摩が手を離し、そのまま僕の腰に回して、引き付ける。僕も志摩に身体を預け、僕より数センチ高い志摩の腰に手を当てる。道着を通して触る志摩の腰は硬くて、肌から緊張が伝わってきた。腰に手を回した僕に驚いたようで、志摩がつぶやく。

「、、、逃げないんですか。」

その言葉に僕は思わず、笑って言う。

「どっちだよ笑」

志摩は少し笑ってまたキスをする。そのまま僕の首筋へと舌を沿わせる。

「ひぁッっっ!」

思わず出た変な声に、恥ずかしくなって下を向き、目を固く瞑る。そんな僕に志摩はいつものトーンのまま、静かに言う。

「目、開けててください。ちゃんと俺を見て。」

そう言われて、目を開けると、稽古の時とはちがう、少し柔らかな表情の志摩がいた。
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