好きです、先輩。

キリ

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好きです、先輩。

憧れの先輩

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「勝負ありっー!」

審判の威勢の良い声が響く試合場。それは我々剣道部の負けの合図でもあった。
必死に相手に食らいつく秋月先輩は、最高にかっこいいものだった。相手に敬意を示す礼をする最中、面の中で大きく乱れる息の中、目から微かに流れた涙を俺は見逃さなかった。

「昨日の試合は残念な結果に終わったが、みんなよく頑張った。今日からは気持ちを切り替えて、また稽古に励もう。」

部長の挨拶が響く放課後の武道場に、秋月先輩の姿はなかった。

「部長っ!あっあの、秋月先輩は、、?」

「あぁ、七海。今日、秋月は部活を休むらしい。
いつもの生徒会じゃないか?公式戦も終わったし、しばらくは生徒会中心になるかもな。」

部長は特に気にも止めてない様子だった。
部長の言葉に肩を落としつつ、ふと秋月先輩のことが心配になる。
秋月先輩は生徒会活動をしているため、一緒に稽古することは少ないものの、剣道の腕前はかなりのもので、団体戦では大将を任せられるほどだった。また、この弱小高校において、希望の星のような存在でもある。そんな秋月先輩は、イケメンな上になんでもそつなくこなすタイプで、学校全体での人気も高い。
でも俺は知っている。みんなが帰った武道場で一人必死に稽古をしている努力家で負けず嫌いな先輩を。
俺は稽古中ずっと秋月先輩のことが気がかりで、部活を早々に切り上げ、秋月先輩を探しに教室棟に戻った。
秋月先輩のクラスがある二年棟を歩いているとおくから、何やら声が聞こえた。

「ちょッ、こんなとこじゃダメだって、、んっ」

「いいじゃん。誰も来ないよ、、」

秋月先輩と女子の声だ。いくら経験のない俺でも何をしてるか容易に想像がつく。
立ち去らねばと思い、後退りをするが何故か足に力が入らず、盛大に尻餅をついてしまった。

ドンっ!!
あまりの音に、秋月先輩が教室から顔をのぞかせる。

「あら、七海じゃん。どしたの??」

秋月先輩は不思議そうな顔で俺の顔を覗き込む。

「なに、後輩ぃー?」
教室から出てきた女の先輩も僕の顔を不思議そうに見た。その胸元は乱れて、ふくよかな谷間が見えた。

「剣道部の後輩の七海。通称ななちゃんね。」

紹介されたものの、どうすればいいか分からず固まっていると、女の先輩がぐいっと顔を近づけてくる。甘い香水の匂いがした。

「このことは秘密ね?ななちゃん。」

そう言い残して、廊下を後にしてしまった。
あとに残された先輩ははぁーと大きなため息をついたあと俺に手を差し伸べてくれる。

「大丈夫?ってかどうしたの?俺に何か用?」

先輩に手を引かれて、立ち上がって俺は、先輩の顔が見れずにいた。

「あのっ、先輩が今日部活来ないって聞いて、それで俺、心配でっっ!」

先輩は黙って俺の顔を見つめてくる。その顔は少し怒っているようだった。

「なんで七海が俺の心配するわけ?」

先輩の冷たい言葉に体が強張る。

「いやっ、だってッ、先輩試合の後泣いてたから」

俺の言葉に先輩が鼻で笑いながら返す。

「いやいや?なに勘違いしてんの?泣いてないし。てか、なんで俺が試合に負けたぐらいで泣かなきゃなんねぇーの?」

その表情はなんだかとても苦しそうだった。

「だって、先輩遅くまで練習してたしっ。
それに試合も、みんなの想い一人で背負って、プレッシャーだって、、」

俺の言葉に先輩が壁をバンっと叩く。

「あのさぁ、ななちゃん。
ちょっと優しくしたからって調子に乗らないでよ。放課後練、見られた時から思ってたけど、なんなわけ?俺になんか恨みでもあんの?」

先輩が冷たい表情で俺を見る。
俺は声が震えるのがわかった。

「ちがっ!俺はただ先輩がッッー」

言おうとしてるのに声が出ない。心臓の音がうるさい。

「なに?俺がなんなの?」

先輩が怪訝そうな顔をしている。
俺は俯いたまま、声を絞り出す。

「先輩のことがっ、好きなんですッー!」
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