女の子は強くなりたい

汚い私は今日も生きる

『夜が怖い』
そう思わなくなったのはいつからだろう。

いつも通りバイトを終え、帰路につく。時計の針はすでに午前2時を過ぎていた。
大学に通う傍ら、バーでバイトをしている。最近ではどっちが本業なのかわからないぐらいだ。

帰り道、LINEを確認する。通知は全て学科LINEと公式からだった。
数日前に"シマ"に送ったLINEは、相変わらず既読すらついていない。
"シマ"というのは、いうなれば【そういう関係の男】だ。自分の都合のいい時にしか連絡は来ないし、来ても日時だけ。会っても虚しいだけなのに、変わらず応じ続けるのは、私はまだ大丈夫だと思いたいからだ。私を求める人は、まだいると信じたいから。

去年の夏に彼氏に振られた。理由は「君に僕は必要ない」だ。笑わせる。私のなにを知っているんだ。私のことを全てわかったような顔をした彼を、私はいまだに忘れずにいるというのに。勘違いも甚だしい。

家に着く。
汗とタバコと酒の匂いがするカッターシャツを脱ぎ、肌にまとわりついたタイツを剥ぎ取る。
そしてすぐにシャワーを浴びる。湯船に最後に浸かったのはいつかわからない。入りたいと思いながらも、面倒でいつもシャワーを浴びてしまう。
最近気づいたことだが、水でシャワーを浴びるとまるで自分が綺麗になったような気がする。嫌なタバコの匂いも、おじさんの吐く息も、甘えたように私を呼ぶ客の声も、仕事中に貼り付けた笑みですら、全て綺麗に洗い流してくれる。そんな妄想に浸ることができる。

シャワーを終え、水が滴る髪にタオルを巻きながら、お湯を沸かす。いつものようにシンクの下からカップ麺を取り出す。カップに湯を注いで、3分待つ。時計を見るとすでに午前3時を過ぎていた。
3分経ち、箸を持って机に行く。机の上は食べ終えて、スープまで飲み干したカップ麺のゴミと、空き缶が転がっている。空いているスペースにスマホと麺を置き、座る。カップ麺を開け、啜る。

「はぁ、、、」

ため息が出る。私はなにをやっているんだろう。花の女子大生だというのに、夜遅くまで酒とタバコにまみれ、汚い部屋でカップ麺を啜る。自分がことごとく嫌になる。

ブーッ。携帯がなった。シマからだ。

《明日の1時会えない？》

聞かなくても昼か夜かわかるあたり、私たちの関係は歪んでいる。いつもならすぐに返すLINEも、今日は返したくない。
カップ麺を食べ終え、ドライヤーをかける。眠たい。ベッドに横になる頃には午前4時近くになっていた。
窓の外はまだ真っ暗だ。このまま世が明けなければいい。そしたら昼ごろに起きて、寝坊に気づく私に、自己嫌悪を覚えずに済む。なんなら夜が私を呑み込んでくれて構わない。もう『夜が怖い』と思えるほど、私は純粋じゃない。

携帯は変わらず、シマからLINEが着たことを知らせている。

《会えない。》

これで私は少しだけ、明日の私を嫌いにならずに済む。そんなことを考え、今日も私は瞼を閉じる。