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「え、お前婚約破棄されたの?」

 私が愚痴ったら、今まで寝ていたハルトが目を見開き驚いた表情で顔を上げた。普段は滅多にそんなことをしないため、私は少し面喰らってしまう。

「え、なに……?」
「あ、いや、何でもない……」

 私が質問すると、ハルトは目を泳がせる。

「そうか、婚約破棄したのか……」

 しかも何やら小さな声でぶつぶつと呟き、考え事をし始めた。
 私はそのハルトの挙動不審ぶりにドン引きする。

「私が婚約破棄されたら何かあるの?」
「まあ、ちょっとな……」

 ハルトは意味ありげに言い淀む。
 そしてまた違う方向を向いて少し考え込んでいたが、また私の方を向き直った。

「お前、好きな奴とかいるの?」
「へ?」
「ああ、いや、別に変な意味じゃなくてな!」

 私が疑問の表情を浮かべると、ハルトは慌てて誤魔化す。

「別に好きな人はいないけど……」
「そ、そうか……!」

 私の答えを聞いた瞬間、いつもクールな表情のハルトからは考えられない程明るくなった。

「さっきから本当にどうしたの……」

 今日のハルトは普段より一段と増して変だ。
 もういいや。放っておこう。

 私は机に肘をついて、ため息を漏らす。
「あーあ。ハルトみたいな人だったらもっと上手くやれてたのかなぁ」

 そんな軽口を叩くと、隣からガタッ! と何かが落ちる音がした。横を振り向くとハルトは机からずり落ちて、口をパクパクとさせながら私を見ていた。

「い、今なんて……」

 もう気にしないと決めた私はハルトの奇行には反応せずに答えた。

「いやだから、婚約者がハルトみたいな人だったらよかったのにって」

 それを聞いたハルトはこめかみを抑えて上を向き、深く息を吐いた。
 そして何かを決意したように「よし」と呟き、体勢を直して私の前に跪いて優しく私の手を取った。
 ハルトの今まで見たことないようなかっこいい顔に、私は不覚にもドキッとしてしまった。

 そのハルトの雰囲気の変化を感じ取ったのだろうか、教室中が静まり返り、視線が集まる。

「ずっと前から、こうしたかった」

 ハルトはそう前置きをして、一呼吸を置くと予想だにしないことを言い出した。

「俺と婚約してくれ」
「……え?」

 今度は私が呆けた表情になる番だった。

「だ、誰が誰と?」
「俺と、お前が」

 つまり、私は今プロポーズされているということだ。
 私がハルトと婚約するとどうなる?
 私はハルトの国に嫁ぐことになる。加えてハルトは王子だから、私はお姫様とされるだろう。
 私はそのことを頭の中で考えて……。

「え、嫌なんだけど?」
「……は?」

 ハルトのプロポーズを断ることにした。

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