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2話

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「エミリーと婚約……?」

「そうだ! お前みたいな性悪女との婚約を破棄して、エミリーと婚約するんだ!」

「私が何かしたんですか?」

 私がはて、と首を傾げるとレオは私を睨んだ。

「なっ……! とぼけるな! ついさっきエミリーを殺そうとしたくせに!」

「私がエミリーを殺そうと?」

「エミリーがお前に階段から落とされかけた、と言っていたぞ!」

「うっ! 酷いですわ、お姉さま! 実の妹だというのに……!」

 エミリーはレオの言葉に合わせて、悲劇のヒロインを装って抱きついた。
 レオはそんなエミリーに優しく微笑みを向ける。

「エミリーは優しいな。けど、アイツはその優しさにつけこむだけのクズなんだ。今ここでこらしめないと」

 レオはこう言っているが、もちろん無罪だ。
 私はさっきまでずっとこの教室にいた。それは他の生徒たちも見ているはず。
 そんなこと調べればすぐに分かるはずなのに、こうして証拠も揃えていないのは、自分に酔っているのか。

 私はそんなレオに対して、心の中でため息をついた。

「婚約破棄ですか……別に構いませんけど?」

「何?」

「ですから、婚約破棄でしょう? 構いませんけど」

「では! エミリーへの嫌がらせも認める、ということだな!」

「いえ、それは認めませんけど。冤罪なので」

 私が冤罪だと言うと、レオは呆れて軽蔑したような顔になった。

「そうか、あくまで自分の罪を認めないんだな。いいだろう! 俺が直々に父上に伝えて裁いてやろう!」

 レオはそう言うと、教室から出ていった。
 一部始終を見ていた人垣が割れ、レオはその中をずんずんと進んでいく。
 エミリーも私の隣を通ろうとした時、小さな声で私にだけ聞こえるように呟いた。

「あははっ! 残念だったわね! お姉さま! これで王妃の座は私のものよ!」

「……別に構わないけど、後悔するわよ?」

 私がそう言うと、エミリーは目を丸くして驚いた表情になった。
 しかしすぐに私を馬鹿にしたように笑う。

「ぷっ! 負け惜しみなんて見苦しいわよ、お姉さま!」

「いや、負け惜しみではないけど……」

「はいはい、分かったから。もういいわよ、惨めなお姉さま」

 エミリーは尚も馬鹿にしたように笑って、ひらひらと手を振って教室から出ていった。

 その背中を見送って、私はため息をついた。
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