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4話

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 午前中の授業が終わり、昼休みが始まった。

「シャーロット、食堂へ行こうか」
「ええ、レノ様」

 休み時間の間に話していて、こうして私とレノ王子は下の名前で呼び合うくらい仲が良くなっていた。
 レノ王子は口調を崩してよりフレンドリーに接してくれている。
 正直、こんなに気が合うとは思わなかった。
 レノ王子はよく気が利くし、こんな異国まで留学に来て勉強したり親交を深めたりしようとするほど勤勉だし、とても物腰が柔らかい。
 そして一緒に話していてとても楽しい相手だった。

(ああ、こんな人が婚約者だったら良かったのに)

 私は心の中で嘆息する。
 どうしても昨日婚約破棄したマーク王子と比べると自分の運命を呪わざるを得なかった。

 私達は廊下を歩く。

「それにしても、こんなに君と気が合うと思っていなかった」
「私もです。話していてとても楽しいです」
「はは、それは嬉しいね」

 私達が談笑しながら廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

「おい」

 振り返ってみると、そこにはマーク王子が立っていた。
 何やら不機嫌そうな表情をしている。

「何でしょうか?」
「ちょっと今から話、いいか?」

 私は先約のレノ王子にちらりと視線を向ける。
 レノ王子は笑顔で頷いてくれた。
 その時マーク王子の方から「チッ」と舌打ちが聞こえたが、特に気にすることなく返事する。

「あまり時間がかからなければ……」
「じゃあついてこい」

 マーク王子は高圧的な態度で私にそう命令すると私を人気の少ない場所へと連れて行った。
 そして人気のない場所に到着するや否や、私にこう言った。

「お前、俺との婚約を戻せ」
「え?」

 私は一瞬何を言われているのか分からなかった。
 しかしすぐに王子に質問する。

「えっと、昨日婚約破棄したばかりで……」
「関係ない、戻せ」
「そもそもマーク王子の方から婚約破棄を……」
「俺が大人になって許してやったからもういい。だから早く婚約を戻せ」

 私はマーク王子の無茶苦茶な言い分に辟易とした。
 それに婚約を戻すなんて絶対にしたくない。
 こんな人を見下した態度を取り続ける男との婚生活を思い出すだけで吐き気がする。

「えっと……嫌です」
「は?」
「だから、婚約は戻しません」
「なんでだ?」
「戻したくないからです」

 マーク王子が激昂した。

「お前! 貴族の分際で俺との婚約が嫌だと言ったのか!」

 マーク王子が私に詰め寄ってくる。
 今にも私に対して手を出して来そうなその剣幕に私は恐怖で後ずさりした。
 その時、私とマーク王子の間に誰かが入り込んできた。

 レノ王子だ。

「嫌がる女性に詰め寄るのはあまり感心できない行為ですね」
「なっ! お前……!」

 いきなり間に入ってきたレノ王子にマーク王子は驚く。
 私はレノ王子に感謝した。

「……覚えてろ!」

 マーク王子は捨て台詞を吐き捨てて何処かへ走っていく。
 マーク王子の姿が見えなくなってから私は安堵のため息を吐いた。

「レノ様、ありがとうございます……」
「いや、大丈夫だよ」
「でも申し訳ありません。私のせいで……」
「いいや、それも大丈夫だ」

 レノ王子は気にすることはないと首を振る。
 レノ王子のことだ。気を使ってくれているのだろう。

「ありがとうございます」
「じゃあ、改めて食堂へ行こうか」
「はい」

 そうして私達は食堂へ向かった。
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