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「エリナ・ファインズ! お前をセシル・ブルースを虐めた罪で婚約破棄する!」
「え……?」

 それは突然だった。
 私の婚約者である、マックス・クロフト王子取り巻きをぞろぞろと連れて教室に入ってくると、いきなり私を糾弾した。

 マックスはよほど怒り心頭なのか、私をきつく睨みつけている。

「私はそんなことはしていません!」

 当然私はそんなことをした覚えはないので否定した。

「言い訳するな! お前がセシルに対して話しかけているのを見た生徒は何人もいるんだ!」
「そうだ! 言い逃れはできないぞ!」

 取り巻きたちは私を口々に糾弾する。

「それは単に話があっただけで……」
「ほら見ろ! セシルを虐めた事実を認めたぞ!」
「はぁ!? 違います! 話を聞いてください!」

 何故会話をしただけで私が虐めたことになるのだ。

 私は辺りを見る。
 今は朝の授業が始まる前の時間だ。
 そのため教室にいる生徒は少ない。
 だがすぐに他の生徒たちも登校してくる。

 そうなると、今の冤罪をかけられている状況はかなり私評判に差し障るだろう。

「何をきょろきょろしているんだエリナ! やましい事でもあるのか!」
「っ! だから、違います!」

 マックスは私の行動全てに揚げ足を取ってくる。

「マックス王子! 私の話を聞いてください! 私はセシルを虐めていません!」
「ならセシルと何を話していたんだ! やましい事が無いなら言ってみろ!」
「それは……」

 私は口篭った。
 セシルと話した内容を言うことが出来なかったからだ。

 なぜなら、セシルには「最近マックスが口説いて来るのをやめさせて欲しい」と相談されていたからだ。

 マックスはセシルに恋心を抱いていた。
 しかし、セシルの方はそうではない。
 なぜなら私という婚約者がすでにいて、もし恋仲になろうものなら、悪評がつくのは確実だからだ。

 マックスの行動は、男爵令嬢のセシルにとっては脅威でしかなかった。

 そのためセシルは自衛のために、正直に私にマックスへの恋心が無いこと、そして口説くのを止めさせて欲しいとお願いしてきたのだ。

 私はセシルに同情し、お願いを引き受けた。

 そのため断じてやましい事は無い。
 しかし本人に面と向かっては言えない。

(それに、本当の事を言ったらセシルがどうなるか分からないじゃない!)

 激怒したマックスがセシルに対して何をするか分からない。
 そのため、私は内容を言えない。

「はっ! 語るに落ちたな! やはりお前はセシルを虐めていたんだ!」
「私は虐めていません……!」
「だからそれなら何を話していたのか言えと言ってるんだ!」

 マックスは私を怒鳴りつける。

「……それは、言えません」

 パンッ!
 頬を叩かれた。
 乾いた音が教室に響く。

「いい加減にしろ!」

 マックスは激怒していた。
 叩かれた頬に手を当てる。
 じんじんと熱を帯びていて、痛い。

「これ以上黙秘するなら、無理矢理にでも吐かせてやるっ……!」
「ひっ……!」

 マックスはそう言って私に手を伸ばした。
 私は悲鳴を上げる。

 と、その時セシルが教室へと入ってきた。
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