お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ

文字の大きさ
上 下
6 / 8

6話

しおりを挟む
「な、何なのよこれ!」
「ふざけないで! 私達は貴族よ!」

 妻のパメラと次女のウェンディが使用人に怒鳴るが、使用人はさして気にする風もなく、淡々と説明する。

「当主であるアリス様の命令ですので」

 アリス。
 私はまた出てきたその言葉に頭が沸騰した。

「アリス! またアリスか! ふざけるな!」

 私はその使用人に殴りかかろうとする。
 しかし、さっきとは違い近くにいた衛兵に素早く阻止された。

「クソッ! またか! 何なんだ貴様らは! さっきから邪魔ばっかりしおって!」
「アリス様の命令ですので!」
「くっ! 分かった! もう暴れんからこの手を早く離せ!」

 そうして私が言うと、衛兵はやっと私から手を離した。
 しかし私の近くにいて、私の挙動を監視している。
 私は乱れた息と襟を整えた。

(何故だどうなっている! 何故こんなにも私の部下が私に反抗するんだ! これではまるで──)

「まさか本当にお姉様が……」

 私と同じことを考えていたのか、ポツリとウェンディがそう呟いた。
 しかし私はウェンディを睨みつける。
 するとさっきのマークの件を見ていたウェンディは慌てて口をつぐんだ。

 しかし妻のパメラは止まらなかった。

「本当にアリスが当主になってるの!?」
「黙れ!」
「だってそうでしょ!? じゃないとこんなこと説明つかないじゃないの! そうじゃないなら今すぐ当主の力を使って、この屋敷の使用人を全員クビにしてみせなさいよ!」
「ぐっ……!」

 確かにそうだ。
 パメラの言っていることは正しい。
 私は何も言い返せなかった。

「そうよ! お父様さっきから怒鳴ってるばかりでみっともないわよ!」

 ここぞとばかりにウェンディも野次を飛ばしてくる。
 立場が悪くなった私は次の一手を打つことにした。

「ぐっ……! よし! なら今からアリスのもとまで行って真偽を確かめに行くぞ!」

 私はがそう言うと外に出るのを嫌がったパメラとウェンディが文句を言ったが、全て無視する。
 そして屋敷の外まで出てくると、外にいた者に命令した。

「おい! 今すぐ馬車を用意しろ! アリスのところまで行く!」

 そう命令すると、その使用人は何か言いづらそうな雰囲気で話し始めた。

「その……、馬車の使用は禁じられております。徒歩で来るように、と」
「なっ……!」
「アリス様の現在地はは隣の領地だそうです。歩いていけば一日もかからないかと……」

 使用人はそう言うが、私達はそれどころではなかった。

「ふ、ふざけないで! そんなに歩けるわけないじゃない!」
「一日なんて体が保たないぞ!」
「もういい! これなら屋敷にいたほうがマシだわ!」

 私達はアリスの理不尽な命令に使用人に次々に文句を言う。

「しかし、明日からは食事を提供するな、という命令が出ております。行かれたほうがよろしいのではないかと……」
「アリスっ! 貴様どこまで……!」

 私は怒るが、どうすることも出来ない。
 退路は断たれてしまった。

「クソッ! 行けばいいんだろう! そのくらいの距離、歩いてやる!」

 そうして、私達はアリスの元へと徒歩で向かわなければならなくなった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません

碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。 この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。 話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

「つまらない女」を捨ててやったつもりの王子様

七辻ゆゆ
恋愛
「父上! 俺は、あんなつまらない女とは結婚できません!」 婚約は解消になった。相手側からも、王子との相性を不安視して、解消の打診が行われていたのである。 王子はまだ「選ばれなかった」ことに気づいていない。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

妹が約束を破ったので、もう借金の肩代わりはやめます

なかの豹吏
恋愛
  「わたしも好きだけど……いいよ、姉さんに譲ってあげる」  双子の妹のステラリアはそう言った。  幼なじみのリオネル、わたしはずっと好きだった。 妹もそうだと思ってたから、この時は本当に嬉しかった。  なのに、王子と婚約したステラリアは、王子妃教育に耐えきれずに家に帰ってきた。 そして、 「やっぱり女は初恋を追うものよね、姉さんはこんな身体だし、わたし、リオネルの妻になるわっ!」  なんて、身勝手な事を言ってきたのだった。 ※この作品は他サイトにも掲載されています。

義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。

coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。 耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

妾を正妃にするから婚約破棄してくれないかと言われました。

五月ふう
恋愛
妾を正妃にしたいから、婚約破棄してくれないか?王は、身を粉にして王のために働いていたウィリにそう言った。ウィリには、もう帰る場所がないのに。

処理中です...