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4話
しおりを挟む「~っ! 何なんだ一体!」
ソフィアがその場を去った後、ライアンは舌打ちをした。
「なぜ私が悪者のように責められるんだ! 人としての幸せが欲しいだけなのに……!」
怒るライアンの背中をダイアナは優しくさすって宥める。
「ライアン様は悪くありません。人として正しいことを言ったと思います……!」
「ああ、そうだねダイアナ。ありがとう」
ライアンはダイアナの慰めによって立ち直った。
しかし今度はダイアナが表情を暗くした。
「ソフィア様……私を睨んでいました。きっと私が正妃の座を奪ったと思っているのでしょうね……」
「っ……! そんなことはない! 結婚は愛し合っている人とするべきなんだ!」
「ライアン様……!」
ライアンとダイアナは抱き合う。
実際、何の努力もせずに正妃の座を奪ったわけだが、ライアンもダイアナも『真実の愛のためなのだから自分たちが間違っているはずがない』と考えもしなかった。
『真実の愛』に取り憑かれた二人は、自分たちの過ちに気が付かない。
◯
私は実家へと戻ってきた。
父にライアンと婚約破棄に至ったことを伝えるためだ。
父はなんと言うだろうか。
十何年も前から正妃になるために沢山のお金をかけてもらったのに、こんな結果になるなんて顔向け出来ない。
私は暗い顔で父の部屋の前に立った。
息を吸う。
覚悟を決めた。
ノックをすると返事が返ってきた。
扉を開けて中に入る。
「ライアン王子に呼び出されていたようだが……ん? ソフィア、その顔はどうした。何かあったのかい?」
父は私が部屋に入るなり私の顔色が悪いことに気づいたようだ。
私はライアンと婚約破棄したことを話す。
「ごめんなさい、お父様……私、ライアン王子と婚約破棄します」
「どうしてそうなったんだい?」
私はどうして婚約破棄することになったのか説明した。
平民の女性を正妃にする、と言われたこと。私は側妃にする、と言われたこと。そして暴言と暴力を振るわれたこと。
私が全てを話し終えると、父は優しい声音で私へ話しかけてきた。
「ああ……ソフィア。辛かっただろう。婚約破棄したことは残念だが、気にしなくていい。そんな男と婚約破棄できて逆によかったくらいだ」
「お父様……ごめんなさい」
「だから謝らなくていい。ソフィアは何も悪くない」
私は恥じた。
こんなに優しい父が、一瞬でも婚約破棄したことで怒ると思ったことに。
こんなに私を思ってくれているのに。
私が泣き止むまで、父はずっと慰めてくれた。
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