27 / 45
1章
27話
しおりを挟む
そしてそれからマリアとしばらく話たり、アップルパイを食べ終わった子供たちがクレアを質問攻めにしたりしているうちに帰る時間になった。
「それでは私たちはお暇します」
クレアと私が立ち上がると子供たちが駆け寄ってきた。
「またあそびにきてね!」
「またね!」
笑顔で別れの挨拶をする子供たちに、私たちも笑顔で手を振る。
「それじゃあまた来ます!」
「またね」
孤児院を出ても、子供たちが手を振ってくれるので、私たちは何ども振り返りながら歩く。
そしてようやく姿が見えなくなった時、クレアが呟いた。
「お前、最初からアップルパイを運ばせるのが目的だっただろ」
「そんなんことありませんよ。……半分くらいです」
「おい!」
クレアが怒った。
許して欲しい。私だってあんな量のアップルパイを運ぶのは重いのだ。
「すみません」
「全く……」
「クレアさん」
「今度は何だ」
「これが私が正体を知られたくない理由です」
「……」
「私はたくさん弱者がいる施設を運営しています。もし私の正体が知られたら、彼らが攻撃の的になってしまうかもしれない」
実際に、そういう事があった。
貴族によって孤児院の子供たちが狙われたことが。
幸いにも孤児院の子供たちに害が及ぶことは無かったが、マリアはその事がトラウマになって貴族に苦手意識があるし、私もまたその出来事を消化出来ていない。
「それだけは絶対に嫌なんです。実際にそういうことをしようとした貴族もいましたし。だから、私は正体を知られたくないんです」
私が話し終えるとクレアは口を開いた。
「……何で急にそんな話を?」
クレアは急に私が何故こんな話をしたのか分からないようだった。
「昨日はクレアさんの秘密を見せてもらいましたから。これでフェアです」
私はニコリ、と微笑む。
昨日クレアが望まない形でクレアの秘密を知ってしまった。
だからバランスを取るために私も一つ教える。
これで公平、フェアだ。
「…………そうか。ありがとう」
クレアはふっと笑う。
そしてしばらく無言の状態が続いた。
私は何だか無性に茶化したくなった。
「それにしても、子供たちに接する時のクレアさん、まるで聖母みたいでしたよ。私にもずっとあんな感じで接してくれたらいいのに……」
私は頬に手を当てて悩ましげにため息をつく。
いや、本当にあんな感じがいい。
私もバブみたっぷりのクレアに甘えたい。
「おい、せっかくいい感じだったのに台無しにするな」
クレアは呆れたようにため息をつく。
そしてフッと微笑んだ。
「まあ、お前はすごいよ」
「えっ?」
唐突に褒められたので驚いた。
まさかクレアが私のことを素直に褒めるなんて思わなかった。
「まだ十代で子供なのにそんなに立派に働いてて、本当に凄いと思う」
「な、何ですか急に……」
「お、何だ照れてるのか?」
「違います!」
私が小さい頃に両親がいなくなったから、今まで褒められた経験が少ないだけで、断じて照れてない。
ちょっと驚いているだけだ。
驚いて頭に血が昇ったのか、顔が熱い。
私はパタパタと顔を手で仰いだ。
「…………何で私を褒めるんですか」
「別に。でも、褒めてくれる人がいないって、辛いから」
そう言えば、クレアは私のことを調べていた。
その時に私の両親が亡くなっていることを知ったのだろう。
そして、クレアは父との関係は冷え切っている。
クレアは親に褒められないということの辛さを身に沁みて知っているのだ。
「……ありがとうございます」
私はできるだけ小さな声でお礼を言った。
クレアは私の言葉を聞いて驚いていた。
「……何ですか。私だってお礼は言いますよ」
「いや、お前。顔真っ赤だぞ」
「っ!? 違います! 夕陽です! 夕陽に照らされてるから赤く見えるだけです!」
私はクレアの視界を塞ぐために手で目を覆った。
「あっ! おい! 何すんだ!」
「こっち見ないで変態! 私は真っ白な肌の乙女です!」
「それは分かったから! 前が! 前が見えない!」
私たちは騒ぎながら歩いていく。
私は久しぶりに誰かに褒められて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったのだった。
「それでは私たちはお暇します」
クレアと私が立ち上がると子供たちが駆け寄ってきた。
「またあそびにきてね!」
「またね!」
笑顔で別れの挨拶をする子供たちに、私たちも笑顔で手を振る。
「それじゃあまた来ます!」
「またね」
孤児院を出ても、子供たちが手を振ってくれるので、私たちは何ども振り返りながら歩く。
そしてようやく姿が見えなくなった時、クレアが呟いた。
「お前、最初からアップルパイを運ばせるのが目的だっただろ」
「そんなんことありませんよ。……半分くらいです」
「おい!」
クレアが怒った。
許して欲しい。私だってあんな量のアップルパイを運ぶのは重いのだ。
「すみません」
「全く……」
「クレアさん」
「今度は何だ」
「これが私が正体を知られたくない理由です」
「……」
「私はたくさん弱者がいる施設を運営しています。もし私の正体が知られたら、彼らが攻撃の的になってしまうかもしれない」
実際に、そういう事があった。
貴族によって孤児院の子供たちが狙われたことが。
幸いにも孤児院の子供たちに害が及ぶことは無かったが、マリアはその事がトラウマになって貴族に苦手意識があるし、私もまたその出来事を消化出来ていない。
「それだけは絶対に嫌なんです。実際にそういうことをしようとした貴族もいましたし。だから、私は正体を知られたくないんです」
私が話し終えるとクレアは口を開いた。
「……何で急にそんな話を?」
クレアは急に私が何故こんな話をしたのか分からないようだった。
「昨日はクレアさんの秘密を見せてもらいましたから。これでフェアです」
私はニコリ、と微笑む。
昨日クレアが望まない形でクレアの秘密を知ってしまった。
だからバランスを取るために私も一つ教える。
これで公平、フェアだ。
「…………そうか。ありがとう」
クレアはふっと笑う。
そしてしばらく無言の状態が続いた。
私は何だか無性に茶化したくなった。
「それにしても、子供たちに接する時のクレアさん、まるで聖母みたいでしたよ。私にもずっとあんな感じで接してくれたらいいのに……」
私は頬に手を当てて悩ましげにため息をつく。
いや、本当にあんな感じがいい。
私もバブみたっぷりのクレアに甘えたい。
「おい、せっかくいい感じだったのに台無しにするな」
クレアは呆れたようにため息をつく。
そしてフッと微笑んだ。
「まあ、お前はすごいよ」
「えっ?」
唐突に褒められたので驚いた。
まさかクレアが私のことを素直に褒めるなんて思わなかった。
「まだ十代で子供なのにそんなに立派に働いてて、本当に凄いと思う」
「な、何ですか急に……」
「お、何だ照れてるのか?」
「違います!」
私が小さい頃に両親がいなくなったから、今まで褒められた経験が少ないだけで、断じて照れてない。
ちょっと驚いているだけだ。
驚いて頭に血が昇ったのか、顔が熱い。
私はパタパタと顔を手で仰いだ。
「…………何で私を褒めるんですか」
「別に。でも、褒めてくれる人がいないって、辛いから」
そう言えば、クレアは私のことを調べていた。
その時に私の両親が亡くなっていることを知ったのだろう。
そして、クレアは父との関係は冷え切っている。
クレアは親に褒められないということの辛さを身に沁みて知っているのだ。
「……ありがとうございます」
私はできるだけ小さな声でお礼を言った。
クレアは私の言葉を聞いて驚いていた。
「……何ですか。私だってお礼は言いますよ」
「いや、お前。顔真っ赤だぞ」
「っ!? 違います! 夕陽です! 夕陽に照らされてるから赤く見えるだけです!」
私はクレアの視界を塞ぐために手で目を覆った。
「あっ! おい! 何すんだ!」
「こっち見ないで変態! 私は真っ白な肌の乙女です!」
「それは分かったから! 前が! 前が見えない!」
私たちは騒ぎながら歩いていく。
私は久しぶりに誰かに褒められて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったのだった。
27
お気に入りに追加
1,510
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します
nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。
イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。
「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」
すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

この国では魔力を譲渡できる
ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」
無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。
五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。
木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。
ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。
不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。
ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。
伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。
偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。
そんな彼女の元に、実家から申し出があった。
事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。
しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。
アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。
※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる