悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。

水垣するめ

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1章

23話

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「あ、あれ食べましょう!」

 そして私はクレアの返事も聞かずにぐいぐいと腕を引っ張って屋台へと連れて行く。

「あ、ああ……」

 しかしクレアはこんなふうに放課後に出歩いたことがないからか、何処かぎこちない。
 どうやらまだ緊張しているようだ。
 私が連れてきたのはクレープ屋だった。

「クレープ? 聞いたことないスイーツだな」

「最近は流行り始めたスイーツだそうですよ」

 まあ、広めたのは私の商会なんだけど、ということは言わないでおく。
 私はクレープの屋台の店員に声をかけた。

「こんにちは」

「へい! ……ってお嬢でしたか。今日は何の御用で?」

「今日は普通に客として来ただけですよ」

「そうですか。また何か新メニューでも思いついたのかと」

「それはもう商会に伝えてありますから、レシピがすぐにくると思いますよ」

「あるんですかい……まぁお嬢のレシピは毎回上手いので良いんですが」

「ふふ、ありがとうございます……クレアさん?」

 さっきからクレアが何も言葉を発しないので、隣を見ると、店員を見たクレアの表情は固まったいた。
 店員の見た目がどう見てもカタギではない、元の世界の言葉で表すとすればヤクザにそっくりの見た目をしていたからだろう。
 クレアは今までこう言った人間は関わるどころか見たことも無いはずだ。そのため驚いてしまったのだろう。
 クレアの反応を見て強面の店員は微笑む。

「お嬢さんを驚かせてしまったようで申し訳ない。すみませんね、こんな怖い顔で」

「彼は元スラム街の人間なんです。確かに一見怖い顔ですが、優しい性格ですしクレープを作る腕も確かですよ」

「へへ……」

 私が褒めると店員は照れたように鼻をこする。
 意外にも思ったものとは違う対応にクレアは段々慣れてきたのか、普段通りの表情になった。

「お嬢は私みたいなクズにも仕事を与えてくださいました。そのお陰で最近はかなり安定した生活を送れるようになったんです! 本当に私たちの女神です……!」

 強面の店員がなんだか恥ずかしいことを語り出したので、慌てて注文を出す。

「このバナナのやつをお願いします! クレアさんは何にしますか?」

「え、じゃあこのイチゴのやつで……」

「承りました! 全身全霊で作らせていただきます!」

 店員はクレープ作りにとりかかる。
 クレアはクレープが出来るその工程を興味深そうに見つめていた。
 そしてすぐに注文したクレープが出てきた。
 私はクレアが頼んでいたイチゴのクレープを渡す。
 そして近くにあったベンチに座った。

「初めて見た形のスイーツだ……」

 クレアは見たことのない形のクレープを見て不思議そうに観察していたが、意を決して食べた。

「美味い……」

 次の瞬間クレアが目を輝かせて呟いた。

「ふふ、そうでしょう!」

 私は自慢げに胸を張る。
 私が何ヶ月もかけて監修して発明したんだから、当然美味しいに決まっている。
 そしてクレアは一気にクレープを食べ尽くしてしまった。

「もう無くなった……」

「そんなに急いで食べるからですよ。もっと味わって食べないと」

 私はクレープを食べ始める。
 ふと気がつくとクレアが私の手を凝視していた。
 クレアの言いたいことは何となく分かるが、敢えて聞いてみる。

「どうかしましたか?」

「い、いや、その……」

 クレアの歯切れは悪い。私は更に質問する。

「ちゃんと口に出してくれないと分かりませんよ。ほら、何が欲しいんですか?」

 私の問いかけに対してクレアは言おうかどうか少し悩んでいたが、最終的に欲望に負けて自分の望みを言った。

「……なぁ、そっちのも一口くれないか?」

「ひゅっ」

 思わず息を飲み込んでしまった。
 食い意地が張ってると思われるのが恥ずかしいのか頬を赤く染め、上目遣いになりながら首を傾げるクレアは、破壊力が天井を突破していた。
 仕草、表情すべてが私のドストライク。
 ああ、この日のために私は生まれてきたのですね……アーメン。

「全部あげます」

 勿論私はクレープを丸ごと渡す。

「えっ、いいのか?」

 クレアは嬉しそうな表情になったが、どうぞ食べて欲しい。

「いいですよ。これはお礼ですから」

「?」

 クレアは私が何を言っているのかいまいち分からなかったようだが、私は一人で余韻に浸る。

「屋台じゃなくて、レストランで出てもおかしくないくらいだ……!」

 クレアはあまりにも美味しそうに夢中になって食べている様子を見て、遠くから見ていた強面の店員も笑顔になっていた。
 私も最高の表情と天使みたいな笑顔(中身を一旦忘れることが出来たら)を見ることが出来たので幸せだった。
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