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1章

22話

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 私たちは学園通りへと出てきた。
 放課後ということもあり、生徒たちが屋台でスイーツを買ったりしているのが見える。

「いやー、遊ぶとなるとテンションが上がりますね」

「そう言えば俺、学園の外に馬車以外で出るなんて初めてだ……」

「えっ!? まさかクレアさん放課後誰かと遊んだことが無いんですか!?」

「しょうがないだろ……。ずっと友達もいなかったし、学園が終わったあとは馬車に乗って帰るから遊ぶことなんてないんだよ」

 さっきまでの言葉の端々から薄々分かってはいたが、どうやらクレアはかなりの温室育ちらしい。
 まさか放課後に誰かと遊ぶのが初めてだなんて。

「もしかしてクレアさんって陰キャ……」

「おい、言葉の意味は分からないが馬鹿にされてることだけは分かるぞ」

 私に陰キャ呼ばわりされた事が不本意だったようで、クレアは不満そうに腕を組む。

「言っとくが、学園でも俺と一緒に過ごしたいって奴は男女問わず沢山いるんだからな!」

「でも友達がいなかったのは事実なのでは?」

「だから違うって言ってるだろ! 俺は友達が出来ないんじゃない! 作らないんだ!」

「そうですね。今日はいっぱい遊びましょうね」

「その生温かい目を俺に向けるな」

 友達が作れない人ほど自分は作れないのではなく作らないのだ、と大声で言うものだ。

「だいたい、お前も大して友達いないだろ!」

「なっ!? 私はマーガレットさんの派閥に所属してたから誰も寄り付いてこなかっただけです! 作ろうと思えば作れます!」

 私はマーガレットの取り巻きをしていたから皆恐れて誰も寄り付かなかっただけで、友達がいないのは私が原因な訳ではない!

「いないって事実には変わりないってお前が言ってただろ!」

「ぐぎっ!」

 クレアを虐めていると私にも致命傷のブーメランが飛んできた。
 ブーメランの刺さった頭からぴゅーぴゅー血が出てる気がする。

「……この話、辞めましょうか」

「……そうだな」

 私達は共に傷を広げるだけの不毛な言い争いに、一時休戦を挟むことにした。
 これ以上戦っても二人して号泣してる未来しか見えない。

「さて、気を取り直して……クレアさんはお腹空いてませんか?」

「切り替え早いなお前……」

「すぐに切り替えないとやっていけませんでしたから」

 商会を運営するに当たって、私は元々商売のノウハウなんか無かったので、何をするにしても失敗したり損を出したりしていた。
 しかしその度にいちいち落ち込んでは何も進まないので、私の切り替えは早くなっていた。

「ちょっと小腹は空いたかな」

 クレアは制服の上から細いお腹に手を当てて答える。
 むっ。それはくびれがあると噂のお腹……。
 私は最近少し太ってきたのに、男であるクレアにくびれがあるなんて妬ましいような、でも女装好きとしては気になるような……。

「なんだ?」

「ああいえ、なんでもありません」

 ちょっと先週聞いた言葉が忘れられなくてクレアのお腹を凝視していたが怪訝な目で見られたので慌てて顔を上げる。
 このままでは変態になるところだった。
 大丈夫、気づかれてはいない。そのはずだ。

「なんで俺の腹を凝視してるんだ」

「あー、えっと食べるところ食べるところ」

 全然気づかれてました。
 私は棒読みの演技で何か食べるものは無いかと辺りを見渡す。
 くっ……! クレアの私を見る目がどんどん訝しげになっていく……! 早く何か見つけないと!
 私は何かないかと必死に辺りを見渡す。
 そしてとある屋台を発見した。
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