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1章
18話
しおりを挟む「それではこれで用事も終わりましたので、今回はここでお暇させていただきます」
「ああ。見送ろう」
私がソファから立ち上がるとクレアも立ち上がる。
そして扉を開いた時だった。
「客人かな?」
そう言ってクレアの父であるハインツが部屋へと入ってきた。
黒髪をオールバックにしており、さすがクレアの父と言うべきか当主としての威厳のある男性だ。
クレアはいきなり父が入ってきたことが意外だったのか、目を見開いて驚いている。
(この人がクレアさんに女装を命じた人か……)
私はそんなことを考えながらも貴族用のスマイルを浮かべ、挨拶をした。
「初めまして。ホワイトローズ商会会長のエマ・ホワイトです」
「うむ、よろしく」
私が挨拶をするとハインツは笑顔で頷いて手を差し伸べてきた。
握手ということだろう。
私が手を握り返すと力強く握られる。
「君が噂のホワイトローズ商会の会長か。その敏腕は噂でよく聞いている。今日は息子のために屋敷まで来てもらい、感謝する」
「いえ。これも含めてサービスですから」
元の世界の価値観からしたらハインツの言い方は上から目線に聞こえるが、この世界の基準からすれば男爵家の私を相手しているというのに、相当物腰も柔らかく丁寧だ。
貴族が格下の家を相手にするときは大体もっと横柄な態度をとる。その点、ハインツはとても優しく穏やかな態度を見せている。
こんな人が本当にクレアに女装を強制したのだろうか?
と、考えているとクレアが私の前に出てハインツに質問する。
「父上、なんの御用でしょうか」
「クレア……」
ハインツはクレアが前に出てくると笑顔から険しい表情へと変わった。
そして眉を寄せて少し間をおいてからクレアに質問する。
「……王子との仲は、順調か?」
「っ!! …………はい」
クレアはハインツの質問に苦い顔で答えた。
「そうか。それでは挨拶も済ませたから、私はもう行かせてもらおう」
そしてハインツは頷くと私に軽く会釈をする。
私がそれにお返しをするとハインツは歩いて行ってしまった。
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