悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。

水垣するめ

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1章

14話

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 そして波乱に思えた昼食が終了し、また授業が始まった。
 それもつつがなく終わり放課後になった。
 ここまで来ればもう派閥のフリをしなくてもいいので、私は一人で帰宅することにした。

「じゃあ帰りますね」

「ああ。早く帰れ」

 クレアもそれには異存がないようで、同じく一人で帰る準備をしていた。最後の一言は余計だが。
 私は少し不満を抱えながら鞄を持って廊下に出る。そして正門まで歩いていると、後ろから声をかけられた。

「ねぇ」

「え?」

 声をかけられたので私は後ろを振り返る。
 そこにいたのは見知らぬ女子生徒数人だった。ボスと思わしき気の強うそうな女子生徒が前に立ち、その後ろに取り巻きのように三人が立っていた。
 彼女らは私を見てヒソヒソと話し合い、ケラケラと笑っている。
 どうやらお友達になりたくて話しかけてきたというわけではなさそうだ。

「あなた、クレア様の取り巻きになったんだって?」

「はい、そうですけど……」

「ふぅん……あんたみたいなのが取り巻きなの?」

「失礼ですが、どなたでしょうか?」

「はぁ!? 信じられない! この方を知らないの!?」

 私が声をかけてきた女子生徒に質問すると、本人ではなくその後ろの取り巻きと思わしき人物が怒鳴ってきた。

「この方は侯爵家のエリザベス・ローランズ様よ! そんなことも知らないの!」

 どうやら侯爵家だったようだ。私は一応謝っておく。

「すみません……」

「はぁ……これだから下級貴族は」

 エリザベスは呆れたようにため息をついた。

「まあいいわ。あなた、私をクレア様に紹介してくれませんこと?」

 そしてエリザベスはそんなことを言ってきた。

「分かりませんの? 私自らクレア様の派閥に入ってあげる、と言ってるんですの」

 エリザベスは私を馬鹿にしたように笑う。それに釣られて後ろの取り巻きも私を笑い始めた。

「こんな簡単なことも分からないのかしら」

「本当に頭が悪いのね」

 安い挑発だったので私は無視してエリザベスに質問する。

「何故クレア様の派閥に入りたいのでしょうか?」

「あなた、男爵家でしょう? そんな下級貴族一人ではクレア様も大変でしょう? ですから、私達がクレア様の派閥に入ってあげると言っていますの。クレア様を助けて差し上げるんです」

「なるほど」

 要は取引みたいなものだ。
 クレアは派閥を拡大する代わりに、エリザベスはより大きいトップを添えて成り上がりたい。
 一見クレアとエリザベスの利害は合致しているように見える。加えてもう少しでパーティーがある。マーガレットの派閥と対抗するためにも、派閥を大きくするのはいい選択に思える。

 しかし──

「お断りいたします」

 私はそれを断った。

「なっ!?」

「エリザベス様のお誘いを断るつもり!?」

「私たちはあなた達の為を思って言ってるんですのよ!?」

 私が断るとは思っていなかったのか、エリザベスもその取り巻きも驚愕している。
 私みたいな男爵家は泣いて喜ぶと思っていたのだろう。
 流石に、甘く見すぎだ。

「私達のため、ですか……?」

 私は彼女たちから発された言葉に至極不思議そうに考える振りをすると、ニッコリと笑って首を傾げた。

「メリットを挙げて取引の形にしたいようですが、要はあなた達、派閥を乗っ取りたいだけですよね?」

「……っ!?」

 エリザベスは図星を突かれたような表情になった。
 いかにもメリットがあるように宣言しているが、エリザベスの本音は手に取るように分かる。
 これは私が商会を運営していて、何度も遭遇したやり方だったからだ。

 エリザベスはクレアという公爵家をトップに据えて自分の派閥の勢いを上げたいだけだ。
 クレアの派閥はクレアと男爵家の私しかいない。そのため派閥の主導権をエリザベスが握るのは容易い、と考えているのだろう。正直言って本音が見え見えだ。
 そのため私はエリザベスの言葉を断ったというわけだ。
 それに加えて派閥に入るとなるとクレアの秘密を守ることが難しくなるので、クレア自身も私と同じく断っていただろう。

「そっ、そんなことは……」

「たかが男爵家如きには分からないと思いましたか?」

「っ! 男爵家風情のくせに! 私の誘いを断るなんて頭が高いですわ!」

 図星を突かれ、更には男爵家如きに挑発混じりに誘いを断られたことから、エリザベスは激昂して手を振り上げた。

(しまった。殴られ……)

 私は次の瞬間平手打ちされることを予想して目を瞑った。
 しかしいくら経っても頬に衝撃はやってこない。
 恐る恐る目を開けると、そこにはクレアがいてエリザベスが振り下ろした手を受け止めていた。

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