悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。

水垣するめ

文字の大きさ
上 下
10 / 45
1章

10話

しおりを挟む

 そして派閥を形成した翌日。

 私は目覚めるとベットから降りて、朝食のパンを一つ食べる。本当はもっと沢山作ってもらうことも出来るが、そんなに食べれないため朝はもっぱら簡単な食事で済ませている。

「ありがとう。美味しかったわ」
「ありがとうございますお嬢様。その一言で今日も頑張れます」

 こんな風にシェフがお礼を言うとお辞儀するのはもはや日課の挨拶みたいになっている。
 朝食が終わった後は学園へ向かう用意を始める。

 使用人の人たちに身だしなみを整えてもらいながら、商会の状況や今度売り出す新商品などをまとめた書類を手早く確認する。

 使用人にまとめてもらっているのだが、私の家の使用人は優秀なので本当に分かりやすい。
 それが終わると、今度こそ私はカバンを持つ。

「それじゃあお父さん、お母さん。行ってきます」

 そして最後に飾られた両親の形見の指輪に笑顔で挨拶をして私は屋敷を出た。

 門の前に停められた馬車に乗って学園へと向かう。
 普通、学園の登校だけで男爵家の令嬢は馬車なんて使わない。いや、使えないと言った方がいい。
 この王都で馬車を使おうと思ったら、結構高いお金がかかったりするからだ。だから殆どの男爵家は馬車がいる時はその都度馬車を借りている。

 その点私は商会の利益でお金は有り余っているので、馬車は使いたい放題だ。
 別に学園と私の屋敷の距離は遠い訳ではないが、朝から歩いて登校するなんて疲れるので絶対やりたくない。

 そして学園へ到着すると門の前で下ろしてもらい、私は教室へと向かう。
 廊下を歩いていると固まって話している人たちの内容が聞こえてきた。

「聞いたか?」

「ああ、聞いた」

「新しく派閥ができるんだって?」

「でも、何で急に作り出したんだろうな」

 どうやら未だ学園は新しくできたクレアの派閥の話で持ちきりらしい。
 そこらかしこから派閥の話が聞こえてくる。
 幸いと言うべきかクレアは有名だが私は無名なため、クレアだけが話題に上がり逆に私は廊下を歩いていても殆ど注目されない。稀に視線を感じるくらいだ。
 そして教室に到着する。

「げ」

「うわ」

 教室のドアを開けるとちょうど今教室を出ようとしているクレアとバッタリ出会った。
 クレアも私の顔を見て顔を顰める。

「なんだお前か」

「私はクレアさんは顔面が良いので朝から不快な気分にはなりませんでした」

「何の報告だ」

「でもかけられた言葉が最悪なのでプラマイゼロです」

「待て、俺そんなに悪いこと言ったか?」

「確かにそうですね。すみません。私が間違えてました」

「ん、おぉ……」

 私は間違えたことを言ったと思ったので素直に謝罪する。
 クレアは私が謝ったことが予想外だったのか少し動揺していた。

「最悪なのは中身でしたね。私ったらついうっかり……」

「より悪いわ! 何で言い直したんだ!」

「それよりクレアさん。どこか行くんですか?」

 今見た感じ、クレアはどこかへ出かけようとしているらしい。
 いつもは教室に着いたら席で本を読むか自習しているので、珍しい行動を見て気になった。

「おい! …………まあ、教室に入れば分かるが、入らないほうがいい」
「何ですかそれ」

「いや、まぁ……ちょっとな」

 何だか容量を得ない説明だ。
 そんな説明じゃ逆に気になってくる。

「逆に気になるんですけど」

「まあ一旦入ってこい」

「え、説明してくださいよ」

「良いから」

 クレアに背中を押して教室の中に入れられた。
 すると教室中がピタリ、と静かになりその後「派閥が……」「新しく……」「あの人が……」など声が聞こえてきた。それに加えて教室中から視線も感じる。

 なるほど。確かにこれは居心地が悪い。教室から出ようとするわけだ。
 私は教室から出る。教室の外にはクレアが「な、分かっただろ?」と言いたげな表情で立っていた。
 確かに分かったが、そのために私を教室に入れる必要はあったのかが問いたい。

「お供させてください」

「いいだろう」

 クレアは頷いて歩き始めた。

「この分だと当分教室には戻れなさそうですね」

「まあ、授業が始まるまでは無理だろうな」

 そうなるとしばらくの間時間を潰すしかない。
 しょうがないので、私たちは授業が始まるまで歩きながら時間を潰すことにした。
 幸いこの学園は施設が多いので、散歩していて早々飽きることはない。

 しかし流石に朝の登校時間のため校内には生徒が多く、なおかつクレアは目立つので注目を浴びることとなった。
 歩いていると、そこら中からヒソヒソと声が聞こえる。

「あれが新しい派閥か……」

「取り巻きはあれか……」

「あんまり見たことないけど、誰だあれ?」

「何でも男爵家らしいぞ」

「何で男爵家なんか取り巻きにしたんだ?」

 クレアと廊下を歩いていると、そんな声が聞こえてきた。
 私はとある事実に気づいて、冷や汗をかく。
 隣のクレアに質問した。

「もしかして何ですけど」

「何だ」

「この散歩って、もしかしてクレアさんが新しい派閥を作ったことと、私が取り巻きであることを喧伝している感じになってませんか?」

「何だ、今気づいたのか」

 クレアは当たり前だと言わんばかりに答える。
 私は頭を抱えた。
 自然に散歩に誘われたと思ったらそんな目的があったのか! 私を騙したな!

「最悪です! そんなの私がこの変態と仲間だって公言してるようなもんじゃないですか!」

「おい! 変態とは何だ! それに本当に派閥は作っただろ!」

「私は人に見られて悦ぶ癖は無いんですよ! 勝手にソッチの世界に引き込まないで下さい!」

「俺もそんな性癖無いって言ってるだろ!」

「じゃあ何でこんな宣伝なんかしないといけないんですか! これじゃ私が目立つじゃないですか!」

 私はクレアに訴える。
 するとクレアは腕を組んでフッと笑った。

「フッ……俺だけ目立つだなんてそんなの許せない」

「最低!」

 やっぱり私を道連れにしてるだけじゃない!

「これで一蓮托生だな」

 クレアは私の肩に手を置くと妙に爽やかな笑みを浮かべてサムズアップしてくる。
 本当にビンタしたい。

「痛ぁっ!?」

 と思ったら先に手が出ていた。

「あっ、ごめんなさい! 私先に拳が出るタイプで」

「それ商人と貴族が一番やっちゃいけないことだろ!?」

 ついに判明した私の衝撃の事実にクレアは目を見開いて驚く。
 と、その時鐘が鳴った。
 元の世界でいう予鈴で、あと五分後に授業が始まる。

「鐘が鳴ったな。戻るぞ」

「はーい」

 私達は鐘を聞いて、元の教室へ戻っていく。
 そうして、私はクレアの取り巻きとして少しだけ顔が知られることとなった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します

nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。 イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。 「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」 すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです

珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。 だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。 そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

処理中です...