悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。

水垣するめ

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1章

2話

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「……ついてきなさい」

 マーガレットは立ち上がり、私たちにそう命令するとクレアの方へと歩いて行った。
 私は命令のままに立ち上がり、一番後ろの目立たないポジションを確保しながらマーガレットの後ろをついて行く。

 私たちもついていくのは、こういうとき大人数で圧をかける方が効果的だからだ、というをのをマーガレット本人から聞いた。

 マーガレットはクレアの前に腕を組んで立ちふさがった。
 ルーク王子は浮気現場を見られた夫のように気まずそうな表情になった。

「クレアさん、わたくし何度も言っていますよね? ルーク王子に言い寄るのはやめてくださいと」
「いや、マーガレット。これは──」
「殿下は黙っていて下さい」
「……」

 マーガレットはすごい気迫を放っていた。
 王子といえどこの状況で発言権は無いらしい。
 ルーク王子は大人しく黙った。

「別に言い寄ってはいないのですが……」

 私は列の後ろからひょい、と顔を出した。

(うわぁ~、やっぱり綺麗)

 サラサラと輝く金髪のミディアムボブは先端にかけてウェーブがかかっていて、少女のような愛らしい髪型だ。瞳は青く、光を反射しているとまるで宝石なのではないかと錯覚する。

 そして白く長い手足。胸だけは全く無いが、一六〇センチという女子にしては少し高い背なのでまるで彫刻のような完璧な美があった。

 優美。そんな言葉がぴったり似合う外見だ。

「それよりも、先日私の教科書が無くなっていたのですが、ご存じないかしら?」
「さぁ? 存じ上げませんわ。二度と王子に近づかないと約束していただけるなら、思い出すかもしれなくてよ?」

 マーガレットが意味有りげにニヤリと笑う。
 クレアの教科書を隠したのはマーガレットだ。
 クレアを敵視しているマーガレットはよくクレアの物を隠したり壊したりしている。

「別に構いません。新しい教科書を買ったので」

 肩をすくめて余裕そうな表情のクレアにマーガレットは悔しそうに唇を噛んだ。
 クレアはこうして毎回嫌がらせを軽くあしらうので、実質嫌がらせは失敗に終わっている。

「それでは私はこれから昼食をとるので」

 クレアはマーガレットの悔しそうな顔を見て笑顔でひらひら手を振ると歩いて行った。
 置き去りにされたルーク王子は「え、あの……」と呟いている。
 どうやらさり気なく振られたようだ。

「く~っ! 席に戻りますわよ!」

 マーガレットも悔しそうにしていたが、元いたテーブル席へと帰る。そして椅子に座るとまたさっきのようにお話が始まった。
 マーガレットは目の端に少し涙を浮かべながら悔しそうに怒っている。

「ホントに何なんですの! クレアさんはいつも──」

 そこからはマーガレットの愚痴大会だ。
 昔からあんな感じだったとか、私のことは眼中に無いのだとか、そんな話が続く。
 マーガレットとクレアは幼馴染らしく、小さい頃から因縁があるらしい。

 取り巻きの女生徒は「そうですね」とか「本当に酷いと思います!」とか肯定の言葉でマーガレットのご機嫌を取る。私も「確かに~」と適宜相槌を入れて会話に混ざっている感を出す。

 しばらくしてマーガレットは機嫌が治ったのか、パッと顔を上げた。

「そういえば、クレアさんは新しい教科書を手に入れた、と言っていましたわね」
「はい。そうですけど……」
「なら、それを八つ裂きにして机の上に置いてやりますわ! 仕返しですの!」

 マーガレットがそんなことを言い始めた。
 クレアとの口論に負けたマーガレットはクレアの教科書を引き裂いたり、持ち物を隠したりして仕返しを行うのだ。

 正直、我がボスながら何とも小悪党である。

「えっ」
「き、昨日もしたばかりですが……」

 取り巻きたちは固まった。
 そう、つい昨日にも教科書を隠したばかりなのだ。
 さすがに昨日の今日で折角手に入れた教科書をすぐに八つ裂きにするのは抵抗があるらしい。

「関係ありませんわ! 私がやると言ったらやるんですの! 誰がやってきてくれませんこと!?」

 自分でしないのかい。
 私は心の中でツッコミを入れた。

「え、えっと……」
「私は……」

 取り巻きたちはあまり行きたくないらしい。

「誰がやってくれる人はいませんの!?」

 マーガレットがそう言うと取り巻きたちは「みんなやりたくないよね?」と無言のやり取りを交した後、私をチラリと見た。

「……えっ!?」

 私は驚いて声をあげる。

「エマさん! やってくれませんか?」
「というか、あなた、こういう時あまり参加しないわよね」
「マーガレット様への忠誠心はありますの?」

 一丸となって私へ役目を押し付けようとしてきた。
 確かに私はこういう時、席を外したりしてバレないように役目から逃げていたけど……!

 完全に自業自得なのだが、何とかして躱さなくては!と思考を巡らせた時──

「なら決まりですわね。ちょうどいいわ。あなたがクレアさんの教科書を八つ裂きにしてきなさい。それで“お友達”かどうか確かめますわ」

 まさかのボス直々の特攻命令である。
 下っ端でる私に許された言葉は「イエス」か「はい」のみ。

「イ、イエス……」

 命令を断った時のリスクと、教科書を八つ裂きにしたことがバレない確率を私は天秤にかけ、私は特攻命令を選んだのだった。






 時刻は放課後。

 教室からは生徒がいなくなり、廊下はしん、と静まり返っている。
 私はマーガレットから持たされた武器(ハサミ)を握りしめ、教室の扉を開いた。

 教室の中には誰もいない。
 ここはクレアのクラスだ。ちなみに、マーガレットと私、そして取り巻きの女子生徒たちも同じクラスだ。

 私は忍び足でクレアの机まで行く。
 と言っても実は私の隣の席なので数歩なのだが。
 机の収納スペースには件の新しい教科書が入っていた。
 教科書を手に取る。

(流石に新品の教科書を八つ裂きにするのはかわいそうだから……)

 私はクレアの教科書を元の場所に戻すと、自分の机から教科書を取り出した。

「はぁ……。ごめんなさい!」

 そしてクレアの机の上でジョキジョキと切り裂いていく。
 これで教科書を切り裂いたアリバイになるし、机の上に教科書の紙が撒かれただけで実質害はそれだけなはず……!

 これが私の考案した解決策だった。
 教科書は結構切り裂くのが難しく、ビリビリに切り裂くまでに結構時間をかけてしまった。
 完璧にビリビリになった教科書の紙の山を見て、私はふぅ、と息を吐く。

「これでひと仕事終わり……」

 額の汗を拭い、教室から出ようとしたその時──

「あー、忘れ物忘れ物」

 ルーク王子が教室に入ってきた。

「っ!?」

 私の心臓は飛び跳ねた。

 ルーク王子はすぐに私のことを見つけ、そして手に持つハサミと、そばのクレアの机にばら撒かれた紙の山に気づいた。

「何をやっている!」

 ルーク王子は怒声をあげ、私へ近寄ってきた。

(あっ……終わった……)
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