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1章
8話
しおりを挟む私とクレアはパーティーに派閥で出るという取り決めをして、休み時間も終わりそうだったので空き教室を出る。
そして廊下を歩きながら私はクレアに質問した。
「そうだ。派閥で出るなら、何か用意するものとかありますか?」
「は? 知らないのか。お前マーガレットのところで取り巻きをしてただろ」
「私取り巻きとかそういうの得意じゃないですから、用意とか全部他の人にやってもらってたんですよね」
「お前な……」
クレアは呆れたようにため息をついた。
実際私がサボっていたせいでそのせいで最後に私にクレアの教科書を切り裂くという役目が回ってきたので、今は反省はしている。
「特に用意するものは無い。強いて上げるとすればドレスを自分で用意してくれ」
「はい、分かりました。あ、それならクレアさんのドレスも私の商会で用意しましょうか? お友達価格で割引させて頂きますよ」
「ん、それで頼む。どんなドレスがいいかあんまり分からないから正直助かる」
「いえいえ、こちらこそクレアさんがドレスを着ていたらそれだけで宣伝効果になりますのでありがたいです」
私は心の中でガッツポーズをとる。クレアからドレスのデザインを一任するという言質が取れた。
ドレスは私の好みを詰め込んだ物を作らせるとしよう。
どんなものがいいだろうか。ちょっと大胆なやつか、それとも清楚なドレスか……。
私が頭の中で理想の女装用ドレスを考えていると、人通りの多い廊下へと帰って来た。
皆私とクレアが一緒に歩いているのを見て、ヒソヒソと囁き合っている。
「本当に派閥作ったんだ……」
「マーガレット様の派閥から引き抜いてきたらしいわよ」
「本当にマーガレット様と戦うつもりなのかな……」
「どちらにせよ、これでまたマーガレット様が荒れるぞ……」
どうやらクレアが派閥を作ったことは一大ニュースらしく、もう学園中に広まっているようだ。
私は少し肩身が狭かった。注目されることには慣れていないのだ。最もクレアはどこ吹く風で堂々と歩いているので、その肝の据わり方が羨ましかった。
私が身を縮こまらせて歩いていると、前を歩いているクレアが立ち止まったため、私はその背中にぶつかった。
「クレアさん、なんで止まって──」
私はクレアに文句を言おうとしたが、クレアに対面している人物を見て黙らざるを得なかった。
「クレア」
「ルーク王子。いかがなさいましたか」
クレアの前に立ちはだかったのはルーク王子だった。
クレアは即座に令嬢モードになり、一分の隙もない笑顔を浮かべている。
しかし背中からはビシバシと不機嫌オーラが出ているのが私には分かった。
「クレア。俺とパーティーに出てくれないか!」
ルーク王子はクレアに笑顔でパーティーに誘う。
自分の誘いが断れられるとは思っていないような、そんな笑みだった。
ルーク王子の目的はクレアをパーティーにペアとして誘うことらしい。
彼には婚約者がいるはずなのにどういう神経をしているのだろうか。
いくらマーガレットと言えど私も同じ女性なので、目の前で浮気をしているルーク王子は何というか、こう、イライラとしてくる。
まあ、間違っても言えないけど。
「申し訳ありません。私は派閥としてエマさんとパーティーに出るつもりなのでそのお誘いはお断りさせて頂きます」
もちろんクレアは王子の申し出を拒否する。
私はこれでルーク王子も諦めるだろう、と思った。
パーティーに派閥で出ることが推薦されているのは周知の事実だ。いくら王族とはいえこれで引き下がるはず──。
「ダメだ。クレアは俺とペアで出るんだ。派閥は解体すればいいじゃないか」
しかし王子は自分とペアで出ることは当然といった様子で、無邪気に派閥を解体して自分と一緒に出るように命令してきた。
クレアの背中からもまさか派閥を解体するように命令されるとは思っていなかったのか、いつものポーカーフェイスが崩れて驚いたような表情になっていた。
「俺とパーティーに出る方がいいに決まってるじゃないか。そうだろう?」
ルーク王子はクレアに同意を求める。しかしクレアは何も言わず笑顔を浮かべたままルーク王子へと相対した。
断固として譲らない、ということだ。
「派閥を解体すれば、彼女はマーガレットさんの派閥から酷い目に遭います。それを許容しろと言うことですか?」
「え?」
いきなり私の名前が出た上に、クレアの言った内容に驚いたが、考えてみればそれは当然のことだ。
一度マーガレット派閥から抜けた後に敵方であるクレア派閥についたのだ。クレア派閥が無くなってクレアという後ろ盾が無くなれば、間違いなく私は裏切り者としてマーガレット派閥から報復を受けることになるだろう。
「ああそうだ。別にそんな小さな下級貴族一人酷い目にあったとしても構うことないだろう」
ルーク王子は私のことなんで本当にどうでもいいのか、何でもないような感じで言った。
王族からすれば下級貴族一人の運命なんて、気にしたこともないんだろう。
しかしそれは私にとっては最大の危機だった。
(は、はぁ!? 何この人。私を見捨てろって言うわけ!?)
「もし不都合があるなら俺がその男爵令嬢を保護してやってもいい。だから俺と一緒にパーティーに出てくれ」
どうやら私を保護するという意思はあるようだ。
それもクレアのために、という意味らしいが。
「申し訳ありませんが」
クレアはそれでも誘いを断る。
確かに私を守る、という目的は達されているが、この派閥は本来クレアと私の秘密を守るためと、ルーク王子からの誘いを断るために生まれたのだ。
なので絶対に派閥は解体しないし、どんな条件を出されてもルーク王子の誘いを受けることはない。
しかしそんなことを知らないルーク王子はため息をついた。
「王子である俺が誘っていると言うのに、何が不満なんだ」
本当になぜ嫌がっているのか分からないのか、ルーク王子は困惑していた。
王族から誘われているのだから、誰であろうと嬉しいだろうと考えているようだ。
そしてクレアはルーク王子の強引な誘いに困っているようだった。
流石にこんなに恥も外聞もなく身分と権力を前面に出されては、流石にクレアとは言えども対処に困るのだろう。
私も派閥を解体されては敵わないので、自分の身を守るためにも助け舟を出すことにした。
「お言葉ですが、王子には婚約者がいらっしゃるはずです」
「なに?」
いきなり話に割り込んできた私に、ルーク王子は少し驚いたように眉を上げた。
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