悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。

水垣するめ

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1章

4話

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 次の日。
 あれから特にルーク王子からも問い詰められることもなかった。
 昨日の件はお咎めなし、ということらしい。
 しかし──。

「流石に戻りづらいよねぇ……」

 昨日のことがあったからマーガレットのグループには戻りづらい。
 見捨てられたし。
 マーガレットと顔を合わせても気まずい思いをするだけだろう。

 というわけで、昼休み、私は今絶賛一人ぼっちだった。

 お弁当は持ってきていないのでこれから私は食堂へ行って昼食を取るつもりだ。
 マーガレットのグループと顔を合わせたりしたら気まずいだろうが、食堂は広いし顔を合わせないように端っこに入れば平気なはずだ。

 そう判断し、食堂へ向かう。
 学校で一人で食事をとるのは前世でも経験がないので、なんだか新鮮だ。

 何を食べようか。
 メニューを見て考える。

 ここの食堂の料理はとて美味しいのだが、実はお腹いっぱい食べたことがないのだ。
 いつもは食べすぎると眠くなって昼食後に開かれるお茶会に支障をきたすので控えていたのだが、今日は我慢しなくてもいいのかもしれない。

 うん、そうだ。今日はお腹いっぱい食べよう。
 そうと決まれば、と私は奮発して一番豪華な昼食セットを頼んだ。
 トレーを受け取り、いざ席を探そうとした時。

「げ」

 頼んでから受け取るまでの時間で席はほとんど埋まっていた。空いている席はあまり人気のない入口付近や通路に面した席しか空いていない。
 なので仕方なく通路の近くの席まで運んで行って私は料理に舌鼓を打つ。

「ん~、美味しい!」

 そうして、ちょうどご飯を堪能し終えた時だった。

 ざわり、と食堂の空気が騒がしくなる。
 何回も感じたことがあるから分かる。これはマーガレットとクレアが衝突を始めた時の空気だ。
 辺りを見回すと、マーガレットとクレアが口論しているのが確認できた。

 いつものごとくマーガレットがクレアに突っかかったのだろう。
 しかしなぜか今日はいつもと違いクレアは軽く受け流すことが出来なかったようで喧嘩になっていた。
 ここからでは声が聞こえず、会話の内容が把握できない。

 口喧嘩はどんどんとヒートアップしていく。
 そしてクレアがある一言を放った。それにマーガレットは激昂し、手元にあった水をクレアにかけた。

 パシャン!と音が鳴り響く。

 ポタポタと髪から雫がこぼれ落ちる。クレアは俯いて食堂から走り去った。
 通路の側に座っていた私の側を通っていく。

「あ……」

 その時、ポトリとハンカチがスカートのポケットから落ちたがクレアはそれには気づかずに走って行ってしまう。
 私はそれを拾い上げた。
 食べ終わったトレーを急いで返すとクレアの後を追いかける。

「どこに行ったんだろう……」

 辺りをくるくると見回し、クレアに似た人影がないか探す。
 服が濡れたのでどこかで着替えているはずなのだが、なぜか女子更衣室にはいなかった。
 だから私はクレアがどこにいるのか見当がつかず、長い時間彷徨い続け、ついには人気の少ない校舎まで来てしまった。

 誰もいない廊下というのは少し怖くてビクビクしながら歩く。
 とある教室を横切ったその時、カタン、と机が動く音がした。

 ビクリ!と肩が震え、私は音の鳴った方向を振り向く。

 息を飲んだ。

 襟が開けられた胸元から覗く白い肌。
 クレアは濡れた制服を着替えている途中だった。

 プツ、プツ、とひとつひとつボタンを外していく。
 優美で、妖艶で、私は思わず声をかけるのを躊躇った。

 同性のはずなのになぜかのぞきをしているようなイケナイ気分になって、ゴクリと唾を飲んだ。
 クレアはシャツのボタンを外すと、そのままシャツを脱いで──

「え……?」

 私は思わず声を上げてしまった。
 シャツを脱いだクレアは下着を身につけておらず、地肌がそのまま見えていた。
 いや、確かにそれも衝撃だったのだが、一番はそれではない。

 クレアに、胸が無かった。
 ただ膨らみがない、というわけではない。本当に胸がなかったのだ。

 つまり、胸が女性のものではなく、──男性だった。

 私がつい上げてしまった声に、クレアは「しまった!」という表情で弾かれたようにこちらを見た。
 目と目が合う。

「……」
「……」

 しばらくの間、私たちは見つめあった。
 クレアは「はぁ……」とため息をついて、猛禽類のような瞳で私を見た。

「そっか、見ちゃったかぁ……」

 クレアは近づいてきた。そして私の元まで来ると腕を掴み強引に教室の中へと引き込んだ。
 私は壁へ押し付けられ、そこに追い討ちのようにクレアが壁に手をつき退路を塞いだ。

 いわゆる壁ドンだ。
 クレアは顔を近づけて私を脅迫した。

「もし俺のことをバラしたら昨日の件もバラし──」

「あ、ああああ! あの!」

 私の大声がクレアの言葉をかき消した。
 クレアは突然大声を出した私に面食う。

「もしかして、お、お、男の娘!?」

「……はぁ?」

「違う、それはあっちの言葉……。ええと、女装してるんですか!?」

「いや、そうだけど。それ以外に何に……」

「やったあああぁぁぁぁぁっ!」

 私は喜びのあまりガッツポーズをキメる。

「は? え?」

 動揺するクレアをよそに私はクレアの手をガッチリと握りしめる。

「髪の長さは地毛ですか!? それともウィッグですか!? クレアって女の子らしい可愛い名前ですけど偽名ですか本名ですか!? メイクはどんなメイクをしてますか!? その可愛い髪型は毎日セットしてるんですか!? いつから女装を始めたんですか!? きっかけは何ですか!? トイレはどっちでしてますか!? 声変わりはしましたか!? スカートの中はどんな下着が!?」

「な、なんだコイツッ……!」

 勢い余った私は顔を近づけて質問する。

 クレアは引き攣った顔で後ずさった。

 私がその一歩をつめると、クレアあはまた一歩後ずさる。
 一歩、また一歩。

 そしてついにクレアを壁側まで追い込んだ私はバァン!と壁に手を叩きつけ、逆壁ドンの構図になった。

 そして最後に私は最高のキメ顔をでキメ台詞をキメた。

「可愛いですね! 今から私とお茶しませんか!?」

 私がここまでテンションが上がっている理由とは。

 私が前世で熱狂し、愛した“推し”とは──。

 そう、男の娘だったのだ。
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