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1章
3話
しおりを挟む「今までクレアの持ち物に危害を加えていたのはお前だったのか!」
「あ、えと、これは、その……」
私はしどろもどろに言い訳をする。
ルーク王子が近づいて来た。
「黙れ! これをどう言い訳するつもりだ!」
ルーク王子はクレアの机に乗せられた紙の残骸を指差す。
「お前、マーガレットの取り巻きにいるやつだな! 前からお前らがコソコソしているのを見て怪しいと思っていたんだ!」
やばい、言い逃れのしようがない。
取り巻きがクレアの持ち物を隠したりしているのは事実だし、今だってマーガレットに命令されてやって来たことには変わりないのだから。
どうしよう。マーガレットに命令されたことをここで白状するか?
いや、今白状して難を逃れたとしても今度はマーガレットから復讐されるだけだ。相手は公爵家。普通にここで捕まって刑罰を受けるよりもっと酷い目に遭うかも。
なら、いっそのことここで捕まった方が……。
「憲兵に突き出してやる!」
ルーク王子が私の腕を掴もうとしたその時──。
ガラガラ、と扉を開けてクレアが教室に入ってきた。
私とルーク王子を見て怪訝な表情になる。
「何をしているんですか……?」
「い、いやこれはだな……」
ついさっきまでの私のようにしどろもどろになるルーク王子。
誰もいない教室で女子生徒に掴みかかる男。女子生徒の方は嫌がっているように見える。
傍目から見たら私を襲おうとしているようにしか見えないだろう。
「最低……」
クレアは獣を見る目でルーク王子から距離を取った。
いきなり犯罪者扱いを受けたルーク王子は慌てて釈明をした。
「違う! コイツが、そのクレアの教科書を切り裂いてたんだ! だから……!」
「私の教科書を……?」
クレアは自分の机に置かれた教科書の残骸を見た。
そして私の手元のハサミを見る。
「ふぅん……?」
クレアはそう呟くとスタスタと私の方まで歩いてきた。
(今度こそ終わった……)
私は自らの天命を悟った。
クレアが私の方向へと手を伸ばす。
私はぎゅっと目をつぶった。
「…………あれ、ありますよ。私の教科書」
目を開ける。
てっきり私にビンタをかまそうとしていると思ったのだが、クレアが手を伸ばしたのは机の中、つまり本物のクレアの教科書があるとことだった。
自分の教科書があるのを不思議そうに首を捻っている。
「やっぱり間違いありません。私が授業中に書いたメモもそのままですし、これは私の教科書です」
「じゃあ、今机の上にあるのは誰のなんだ……?」
ルーク王子が困惑した目で私を見た。
ギクリ。
クレアは紙の山を漁り始めた。
「ん? これは裏表紙ですね。何か名前みたいなものが……あ、こっちと合う。エマ……ホワイト……?」
(し、しまった……!)
私は前世で教科書には絶対に名前を書く派だった。
そのためこの教科書にも名前を書いてあったのだが、今回はそれが裏目にでた。
「あなたのお名前を教えて頂けますか??」
クレアは私へとクルリと向いて質問した。
ここで嘘をついたとしても調べればすぐにわかるので、正直に答えた。
「エマ・ホワイトです……」
「ハッ、ついに白状したな! 今までのもお前の仕業だな! クレア、こいつを憲兵に突き出そう!」
「それには及びません」
「なんでだ。イジメの現行犯だぞ。それにコイツを尋問すれば今までのことにマーガレットが関わっていた証言を得られるかもしれない」
「イジメではありませんよ。自分の教科書を切り刻んで嫌がらせなんて矛盾しています。なのでイジメはあり得ません。それに私はマーガレットさんのことは気にしていません。よって、彼女を憲兵に突き出す必要はありません」
クレアは淡々と説明する。
「む、クレアがそう言うなら……」
ルーク王子は納得していない様子だったが頭をかいて怒りの矛先を収めた。
「エマさん! しっかり出来まして!」
その時、教室のドアからマーガレットが高笑いを上げながら入ってきた。
私がしっかりと命令を遂行しているのか確認しにきたのだろう。
マーガレットは教室のなかの私、ルーク王子、クレアを見て固まった。
皆、どう反応していいのか分からず、しばし無言の時間が続く。
「い、今までクレアさんのものを隠していたのはあなただったのでしたのねー!」
(えぇー……)
マーガレットは瞬時に状況を判断。そしてすぐに私を見捨てることにしたようだ。
ルーク王子が突っ込む。
「おい待て、マーガレット。さっき言葉ではこの状況を知ってるみたいだが……」
「ししし、知りませんわ! あっ、そうだ! これから用事がございますので失礼いたしますわ!」
ルーク王子の言葉に明らかに動揺したマーガレットはそう言うと、私を置き去りにして走って逃げていってしまった。
「あ、おい!」
ルーク王子が呼び止めるもとてつもない素早さを発揮し逃げていったマーガレットの姿はもう見えなくなっていた。
残った私たちの間にはなんとも微妙な空気が流れた。
私から発言することもできないので、二人が話し始めるのを祈るばかりである。
「じゃあ、今日はもうお開きということで」
「そうだな……」
このまま教室に残っても何もすることがないルーク王子は扉から出ていった。
私はようやく安堵の息を吐く。
(た、助かった……)
正直、さっきは教科書を切り刻んでいるのを見られた時は人生が終わったと思ったがクレアの思わぬ援護で切り抜けることができた。
「あ、ありがとうございます」
私はクレアに向かってお辞儀をする。
「気にしないでください。マーガレットさんににやらされたんでしょう? 災難でしたね」
私のお礼に対しクレアはニッと笑って応える。
女性に使う表現としておかしいのはわかっているが、イケメンな笑顔だった。
ふと、私はそこで違和感を覚えた。
この感覚、どこかで──。
「これからどうするんですか?」
クレアに話しかけられた。私は慌てて返事をする。
「えっと、このゴミを片付けてから帰ろうかと……」
「そうですか」
クレアはそう言うと歩いて教室から出ていく。
そしてすれ違いざま。
「優しいんですね」
そんな言葉をポツリと呟いてクレアは歩いていった。
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