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2話
しおりを挟む「っ!」
エミリアは意識を取り戻した。
芝生の上だった。
ウィリアムに殴られ気を失った後、そのまま放置され、加えて中庭は誰も通らないことから、誰にも気づかれることなく時間が経過したらしい。
周囲に人がおらず、おそらく今は授業中であるのだと推測できる。
「そうだ! 私のペン──痛っ!」
頭がズキズキと痛む。
殴られたのは目のあたりだ。
もう片方よりも視界が狭いので、恐らく腫れている。
しかしエミリアはその痛みをぐっとこらえ、立ち上がった。
そして急ぎ足でウィリアムの元へと向かう。
今は授業中だが、優先なのは父から貰ったペンだ。
ウィリアムがいそうな場所は、この中庭と、王子の特権を濫用して勝手に占領している教室だ。
その教室の前に立つと、中からウィリアムを含む数人の笑い声が聞こえた。
ウィリアムとつるんでいるガラの悪い貴族の子息たちだ。
ガラガラとその扉を開けると、やはりウィリアムがいた。
「ウィリアム王子! 私のペンを返してください!」
「何だお前、また来たのかよ」
ウィリアムはエミリアの顔を見ると鬱陶しそうに舌打ちをした。
エミリアはウィリアムからペンを取り戻そうと胸ポケットを見て──そのペンが失くなっていることに気づいた。
「え、私の、ペンは……」
エミリアは恐る恐るウィリアムに尋ねる。
するとウィリアムはへらへらと笑って、ポケットから金貨を取り出した。
いつも金遣いの荒いウィリアムがそんな大金を持っているはずがかいのに。
「あんなペン、売ったに決まってんだろ?」
「──っ!」
エミリアはカッなり、ウィリアムへ平手打ちをしようとした。
しかし、すぐに冷静になり、エミリアは腸が煮えくり返るなか、我慢した。
そんなエミリアを見て、ウィリアムはバカにしたように笑う。
「おい? 何だ? 王族の俺に手をあげようとしたのか? やってみろよ、一族郎党処刑してやる」
ウィリアムは権力を振りかざし、エミリアを脅す。
エミリアは言い返すことができなかった。
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