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 主人公、公爵令嬢のエミリア・パーカーはこの国の第一王子と婚約している。
 名前はウィリアム・ワトソン。王妃の美貌を受け継いで、顔だけは整っていた。

 エミリアがウィリアムと婚約したのは三年ほど前のことだ。
 二人とも未来の国のために尽くそうと、良い関係だった。

 しかし婚約してから一年後、学園に入学した途端、ウィリアムが浮気をした。
 浮気に気づいたエミリアはまだ一回目ということもあり、一時の気の迷いだろうと、エミリアの父や国王に報告するとこなく穏便に済ませた。

 だが、この判断は間違いだった。

 ウィリアムはそれに味を占めたのだ。

 ウィリアムは女遊びをするようになった。
 それに対してエミリアが何回も注意しても半笑いで、全くエミリアの言葉を聞き入れることは無かった。
 どんなことをしても国王やエミリアの父に報告しないと、エミリアを侮っていたのだ。

 そして事態はどんどんと悪化していく。

 ウィリアムは、エミリアのお金や私物を勝手に持ち出し、浮気相手に与えるようになったのだ。

 そしてある日、ウィリアムはついにエミリアの大切なものまでも盗み出した。





「ないっ! 無いっ!」

 エミリアは焦って鞄の中を探る。
 別教室で行われた授業から戻ってくると、鞄の中に入れていた金品が全て消えていたのだ。

 財布には少量のお金しか入っていなかったので、さしたる問題はない。

 無くなったのはもっと大切なものだ。

 エミリアが父から先日の誕生日に貰ったばかりの、大事なペンが無くなっていたのだ。
 取っ手に貴重な石が使われた高価な一品だ。

 普通の父が娘に送るような可愛いぬいぐるみなどではない、実用性の高い物だが、エミリアはとても気に入っていた。

 その大事なペンが、ない。

 思いつく犯人はただ一人だ。
 動悸が早くなる。

 エミリアは急いでウィリアムの元へと向かった。

 案の定、ウィリアムは授業をサボり、中庭で堂々と他の女子生徒とイチャついていた。
 こんなにも堂々とサボっているのに、他の教師が注意する様子はない。

 エミリアはウィリアムの胸ポケットにエミリアのペンが刺さっているのを見つけた。

「ウィリアム様!」
「あ? なんだお前。何か用?」
「そのペン、私のですよね」
「ああ。見つけたから俺の物にしたんだ。別にいいだろ?」
「よくありません!」

 エミリアは叫んだ。
 するとその反抗的な態度が気に障ったのか、ウィリアムは不機嫌になる。

「なんだお前。俺のやることに文句でもあんの?」
「ひっ……」

 ウィリアムは立ち上がり、エミリアへと詰め寄る。
 体格差があるウィリアムに威嚇され、エミリアは恐怖の声をあげた。

 本来なら、こんなことでここまで怯えたりしない。
 怯えるのは、別の理由があるのだ。

「お前、また殴られたいわけ?」

 ウィリアムが苛立ちの混じった声でエミリアに囁いた。
 本来、婚約者同士ならば甘い響きを持つはずの囁きは、今は重く、冷たく、恐怖を増長させる響きを持っていた。

 そう、ウィリアムはエミリアに暴力を振るっていた。

 以前同じようにエミリアが口答えしたところ、ウィリアムは服に隠れた腹部をエミリアが吐くまで何度も殴った。
 ウィリアムはエミリアが泣いても殴るのを止めなかった。

 その時の恐怖が、エミリアに刻まれていた。

 しかしエミリアはその恐怖に抗い、反抗する。

「それ、は……父が先日誕生日にくれた大切な贈り物なんです……、止めてください……!」

 恐怖でガタガタと震えながら言い返すエミリアを見て、ウィリアムはついに爆発した。
 逆ギレだ。

「だから俺のだって言ってんだろ! 口答えすんじゃねぇよ!」

 そして、ウィリアムはエミリアの顔を拳で殴った。

 エミリアは気を失った。
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